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僕が僕らしくあるために


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:江原英男(ライディング・ゼミ平日コース)
 
 
「おい、M。これからどうするつもり?」
相手を見下すと、僕は呼び捨てにしてしまう。
Mさん、Mくんと付けるものもったいない。
 
Mは、ボソボソと話し始めた。
いつものように言い逃れの言葉が並べられた。
 
今日僕は、Mを近所のマクドに呼び出した。
Mには、たくさん言いたいことがあった。
僕たち以外の席は、静かだった。
ときどき、僕が大きな声を出してしまい、注目されていた。
 
「支払うつもり……で……す」
半分笑ったような顔でヘラヘラしながらMは答えた。
「つもりってなんやねん。どうやって?」
たたみかけるように、Mに聞き返す。
 
「はらわたが煮えくりかえる」という言葉があるが、
Mがひとこと話すたびに、その煮えくりかえそうな状態を体感していた。
胃のあたりが熱くて、重い。そして、ジリジリ痛い。
 
「オレが怒って、なんでMが笑ってる……」
僕は、借金を取り立てているわけではない。
 
お仕事で請求した約200万円が振り込まれていない。
「未払い」というやつだ。
 
はじまりは、約3年前にさかのぼる。
 
Mは、仕事仲間。
その仕事は、Mの紹介ではじまった。
A社の仕事をMが請け、それを僕が制作する流れ。
Mの仕事の能力が低くて、次第にA社と僕は、直接仕事のやりとりをするようになった。
ただ、お金の流れだけは、Mを経由して支払われた。
 
仕事が開始され、しばらくすると、
Mに請求した金額のうち、自分が支払える金額だけを、Mは入金するようになった。
例えば、20万円請求しても、翌月7万円だけ入金されていた。
 
Mの家庭は、あまり潤っていなかったようだったので、
年に何回かある大きな仕事の後、まとめて支払うというスタイルが普通になっていた。
それを僕は、許した。
というより、今思えばMを甘やかしていた。
 
未払いの金額は、年々増えていった。
遅れることはあってもいずれ支払ってくれるだろうと思っていた。
 
でも、まわりの人にこの話をすると僕の意見とは違っていた。
「それ、絶対払う気ないですよ!」
誰に話しても、そう言われた……
 
「マジで?」
僕は、まわりから言われるまで、Mのことを疑っていなかった。
 
まわりの人からするとそれは「支払われない」と断定されていた。
僕は、かなり危ない状況らしい。
 
このままだと、200万円近い大金が消えてしまう。
200万円も損をする……?
そんことあってはならない。
 
そんな危険な状態に今さら気づき、Mをマクドに呼び出した。
 
「どうやって支払うつもりなん?」
怒り曲線は、ピークを迎えている。
僕は、大きな声になっていた。
 
「先輩に借りようと思ってる」
Mは、そう言った。
 
突っ込んで聞くと僕の他にも、未払いやカードローンなど
合わせると300万円ほどの借金があるらしい。
 
300万円を先輩から借り、そして先輩に少しずつ返済していこうと考えているという。
しかし、先月に頼んでみたが一度断られ、もう一回頼もうと思っているのだという。
 
Mは、「超バカ」だと思った。
借金が増大すると、どこか別のところからお金を借りる。
それが、Mのいう返済らしい。
なんともよくわからない理論。
 
「それって、返す相手が変わるだけで何も変わってないやん」と僕はMに言った。
「今までそうしてきた。ちゃんと返してきた」
なぜか、今まで自信なさそうに話していたMが、自信ありげに顔を上げた。
 
Mは、「超超バカ」だと思った。
「どうしよ……こいつ支払い能力全然ないやん」
先輩も貸さないって言ってるし、それに、今後の計画性もない。
 
「計画性がないのは、わかる」
ぼってりしたお腹とブヨブヨにたるんだ頬が、
自己管理ができない性格を物語っている。
いつも、目の前の「楽」だけを選択したきたのだろう。
 
すでに、マクドで3時間ほど話をしていた。
 
わかったことは、
Mは、最後には、きっと誰かが自分を助けてくれる
と思っているということだった。
 
いつも誰かがMを甘やかしてきた。
僕もそのひとりだったことを今は、後悔している。
 
お金がなければ、借りればいい。
その思考は、学生時代からあったらしい。
 
分かれた後、「怒り」の気持ちが増幅してきた。
 
「怒り」のもとは、お金が支払われていないということより
「Mを信じてたのに」という、裏切られた気持ちだった。
 
Mは、マクドで自分を変えたいと言っていた。
 
Mは、50歳。
まだまだ、この先長い。
こんなところで人生を諦めてほしくない。
子供もまだ小さい。
 
Mが、変わらないとどのみち
お金も戻ってこない。
 
僕は、彼が変わる手伝いをしようと思った。
 
Mの「どうせやっても無駄」という思考を
変えるために日常の中から
前向きなことを一緒にさがすようにした。
それを毎日メールで伝えてもらった。
僕は、Mのメールに毎日返信した。
1回の返信に1時間以上かける時もあった。
 
目の前の問題から逃げようとしないこと。
計画性をもって、物事を進めること。
諦めないで、やってみること。
まわりの人に感謝すること。
当たり前のことを、メールで伝えた。
 
Mは、理由をつけて、
メールを返信しなくなってきた。
 
2日に一回、3日に1回。
とうとうメールは、来なくなった。
 
ケータイに電話をするが、出ようとしない。
 
Mは、また逃げた……。
僕は、また裏切られたと思った。
 
 
 
「悔しい」がやがて、「憎い」に変わる。
「怒り」に取り込まれてると、鼓動が大きくなっていく。
肩が大きく上下し、息も荒くなってくる。
顔つきも変わっていると思う。
Mのことを考え始めると「怒り」から離れなくなる。
 
「無意識に、頭の中で、Mを罵倒つづけている」
「ダメ人間」「くず」「カス」
「なぜ、変わろうとしない……」
「なぜ、自分のことしか考えない……」
 
 
だけど、Mを罵倒すれば、罵倒するほど、僕の気持ちはむなしくなっていく。
僕は、「怒り」に支配されていた。
ダースベーダーが落ちた暗黒面のことを思い出す。
 
正義と暗黒は、真逆に位置しているはずだけど、
案外近いところにあるみたいだった。
 
 
「このままじゃ駄目だ。気持ちを切り替えよう」
「怒り」に取り込まれ数ヶ月後、僕はそう考えた。
 
 
「この気持ちをどう変えればいいか……」
思いついたのは、一番遠いところにある
「感謝」という気持ちを持つことだった。
 
「こんな状況を経験させてくれてありがとう」
「人は自分とは違うことを知ることができてありがとう」
「自分の甘さを実感させれくれてありがとう」
「人に裏切られる辛さを教えてくれてありがとう」
「怒りに取り込まれる恐怖を感じられてありがとう」
 
考え方や視点を変えると
知らない経験をたくさんしているように思えてきた。
 
「ありがとう」と思うと気持ちがすっと軽くなるのがわかる。
「ありがとう」って不思議な言葉だと思った。
僕が僕らしくあるためには「怒り」を手放す必要があるみたいだ。
 
僕は、「怒り」と「お金」と「M」を手放そうと思う。
かっこよく見えるが、本音は難しい。
 
だって、どこかでMのことをまだ信じている。
「だから、自分のためにがんばって支払えM」
 
支払ってくれたら、ガバっと神社に寄附をしよう思う。
お金への執着も少し手放そう。

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2018-04-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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