メディアグランプリ

『クレームの電話を受けた時、社名、氏名、そして「私が承ります」のひとことを言うことで、本当の問題を知る』


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:高林忠正(ライティング・ゼミ特講)
 
 
人はクレームの電話をうけたとき、電話の声に注目してしまいます。
問題を見ることなしに、声の大きさや怒りのテンションで判断をしてしまいがちです。
その結果、お客さまの怒りを初期消火しようとするあまり、ことの重大さを見過ごしてしまうことがあります。
実はこれって、危険な兆候なのです。
 
2000年のゴールデウンウークの「こどもの日」のことでした。
私は百貨店の輸入食品売場で、英国直輸入のジャムや紅茶を販売していました。
 
その日は初夏の陽気で、朝からお客さまでにぎわっていました。
昼近く、外線の電話が鳴りました。
何気なく受話器を取ると、電話口の向こうから蚊の泣くような声で、
「あのうぅ、いただいたジャムのなかになにか黒いものがあるんですけど……」
 
黒いもの? 私はとっさに異物混入と判断しました。
 
「申し訳ございません。新しいお品物をお届けさせていただきます」
「お差し支えなければ、ぜひ回収させていただきたく存じます」
「失礼ですが、お住まいはどちらでしょうか?」と聞きました。
 
「大阪なんです」これもまた消え入りそうな声でした。
 
大阪? 遠いよなぁ、なにも今日じゃなくていいだろう
 
きょうは「こどもの日」だしな
 
だって、これからいそがしいし
 
それに自分は責任者だし
 
と自分だけの判断で決めてしまったのです。
 
今から思うとこれが大きなまちがいのもとでした。
 
「あのう、お客さま、今日はこどもの日です」
「おいそがしくありませんか?」
これって、お客さまの都合を聞くというよりも、決めつけのトークです。
 
「もしも、お差し支えなければですが、連休明けに品物のお届けとともに、今のお品物を回収させていただければと存じます」
 
お客さまのご自宅は大阪で遠い。
私自身、なにも自分がわざわざお客さまのもとに行かなくてもいいだろう。
場合によっては、大阪の支店の人に行ってもらおうかな、などと勝手な判断をしてしまったのです。
それも、相手の声が小さいことから問題にならないだろうという解釈をしてしまいました。
「なにも回収についてはあとから考えりゃいいや」というものでした。
 
実はこの英国直輸入のジャムは因縁の品でした。
異物混入は初めてではなかったからです。
それまで、ジャムのなかに金髪は入っているわ、細かいプラスティックは入っているわでした。
現場として、英国メーカーに申し入れはしていたにもかかわらず、一向に改善されてこなかったからです。
ただし、会社として契約していることから、販売をやめるわけにはいかないという問題がありました。
 
電話口の女子高生は「はいわかりました」と言って電話を切ったのです。
 
まぁ、これであとから考えりゃいいやとタカをくくってしまったのです。
 
10分後、会社の総務に電話が入りました。
大阪のお客さまからの電話ということで、
総務から直接私を名指しで回ってきました。
40代から50代の男性でした。
さきほどの電話のお父さんだったのです。
「さっきの電話に出たやつはだれだ!!!」とすごい剣幕です。
 
「私がお話ししましたが」と伝えると、
 
「おまえか」「おまえなあ、ジャムに黒いものが入ってるんだぞ」
「これ口にいれたらどんなことかお前わかってんのか?!」
 
「この問題をいったいどう考えるんだ」
 
申し訳ございませんと謝っても、聞く耳を持つというよりも、一向にお許しいただけない状態でした。
 
そうです。
問題は、異物が混入しているジャムにあるのです。
 
「こりゃまずい」
私は東京駅発の新幹線ののぞみ号に飛び乗りました。
ゴールデウンウーク中のこどもの日。のぞみ号の混雑はハンパではありませんでした。
新大阪から、地下鉄で造幣局近くのマンションを訪れたときは、午後4時を過ぎていました。
 
「申し訳ございません」と言ったものの、お客さまは私をにらみつけています。
 
「おまえんとこには、危機管理という考えがないのか?」
「ジャムは食べるもんだぞ、体に入るものなんだぞ」
「これ見てみい」
 
ラズベリージャムの明るい紫のなかに、5ミリほどの黒い破片が見えます。
怒りのホコ先は、わたしの電話対応に向けられました。
 
「おまえ、うちの娘をなめとんちゃうか」
たしかに安易に考えすぎていたかもしれません。
 
異物混入という問題に速やかに対応しなかったからです。
 
わたしたちは、クレームを前にすると、そのお客さまがどう感じているか? にばかりフォーカスがいきがちです。
 
お客さまの怒りを消化鎮静することにばかり頭がいって、問題を解決することがおろそかになることがあります。
今回の場合、品物を回収して事実を確認しなければなりませんでした。
 
同時にわたしたちは、ついつい大きな声の人を優先しがちです。
しかし、大事なことは、クレームをお寄せいただいたお客さまの感情に寄り添いながら、問題は何か? という視点です。
 
調べると、ボスニア・ヘルツェコビアでのラズベリーの採取段階でそのプラスティック片が入ってしまった可能性が大きいとのことです。
その後、英国に運ばれてジャムに加工されたわけです。
 
食品の場合、安全で安心、そして衛生的でなくてはなりません。
異物混入の品物を販売すること自体、あってはならないことです。
 
クレーム対応の不備から、お客さまからの信頼がなくなって、企業や組織そのものが崩壊してしまうケースも随所にあるものです。
 
クレームをおっしゃるお客さまは全体の2割という統計があります。
残り8割のお客さまは、何も言わないかわりに、もう2度とその品物やサービスを買いません。
 
お客さまからのクレームは天の声です。
やっかいかもしれませんが、耳の痛さが意外な気づきにつながるかもしれません。
 
 
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2018-04-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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