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涙は恥ずかしいが身体に良い


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:蔵本貴文(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「へへ、おまえ泣いてるだろ」
「いや、なみだなんて出てないよ」
 
泣いたら負けだと思っていた。
 
小学校5年の3学期の終わり、終業式間近で空いた時間にビデオを見せられていた。
それは映画で「火垂るの墓(ほたるのはか)」というお話だった。
 
戦時中の話、とても可哀そうな結末なので、クライマックスは涙なしには見られない。
しかし、小5の男子だ。クライマックス間近になると、周りを見て、泣いている人を見つけて冷やかすという、とても悪趣味なことをしていた。
でも、泣いている奴を見て、からかいたいというより、黙って見ていると自分が泣いてしまうので、そうならないように悪趣味な行動に走ったというのが正解かもしれない。
 
それほど、人に涙を見られるということが恥ずかしかったわけだ。
今となれば、からかってしまった子には心から申し訳ないと思う。
 
 
大人になると、そんな悪趣味な人はいないので、感動したときは素直に泣いてもいい。しかし、子どもの頃の妙な刷り込みのせいで、変なブレーキをかけてしまう。困ったものだ。大便を我慢する習慣と同じで、学校の問題点ではないかとも思う。生理現象を我慢することは身体に悪い。
 
でも今になると、何かに感動して泣いた時、後で本当に気持ち良いと感じることがわかった。何というか、汗を流した時のような爽快感を感じる。
 
よく「悲しいときは泣いてもいいんだよ」という言葉を聞くが、涙に心についたゴミを流すような効果があるのかもしれない。理屈は良く分からないが、泣くという行為はそのものが癒しとなっているのだろう。
そのことは、人は本能的にわかっているのだ。
冒頭の「火垂るの墓」という映画を、人はなぜ見るのだろうか? これは可哀そうなだけで救いようのない物語だ。悲しいだけで、すっきりするものではない。
「平和の尊さを知らしめるため」こんな崇高なことを言う人もいるが、実際はそんな理由ではないだろう。ただ、悲しいもの、そして涙を求めて映画を見る。そして、涙のその先には、爽快感があるのだ。
 
 
涙は心の健康のために必要なものだと思う。
だから、少し無理をしても流した方が良い。それは汗と同じである。
 
汗の場合、適度なサウナは健康に良いことが知られている。でも、良く考えれば、サウナはかなり不自然な状況だ。ただ、汗を流すために、通常の世界ではありえない100℃近い温度を作って、そこに閉じこもる。そうまでしてでも、汗は流した方が良いのだ。
 
泣くために映画を見るというのも、かなり不自然なことである。わざわざ時間とお金をかけて、作られた話を見て、そして涙する。サウナと同じである。でも、そこには爽快感を得て、心の健康を保つという目的があるのだ。
人間の本能に間違いはないと思う。人が涙を求めるということは、それが自分の心身にとって良いことだからなのだろう。涙は流した方が良いのだ。
 
 
先日、娘の卒業式に参加した。
これで小学生の姿を見るのは最後かと、その日は朝から感慨深い。
少し時間をかけて髪をセットし、入学式のようなきれいな服を着て、娘が家を出て行った。「いってらっしゃい」と見送る。
 
その後、僕も準備をして家を出て、娘が6年間通った道を辿って学校に向かう。
そして、会場の体育館に入り、卒業生の入場を待つ。
6年前の入学式も同じ体育館で、同じような椅子に座っていたことを思い出した。
娘が大きくなったこと以外は何も変わっていないように思える。
 
卒業生が入場してきた。
確かに違う。入学式の時はちゃんと歩いて椅子まで行けるのか、と不安に思っていた。今は身体も大きくなり、成長した娘は立派なものである。
やっぱりこれは卒業式なのだ。
 
来賓のあいさつなどのしきたりが終わり、いよいよ卒業証書の授与だ。
娘を含め、この子たちがどのように成長していくのか? 大人として、この子たちが希望をもてるような社会を作らなきゃいけないな、と感じていた。普段は、自分が逃げ切れればいいや、とか不道徳なことを考えていても、この瞬間は自然にそう思えた。
 
そして、クライマックスの言葉と歌だ。
学校での思い出や、親と先生への感謝を言葉にする。
 
次の言葉がわかるくらいワンパターンなのだが、自分の娘がいると感激してしまう。
そして「おかあさん、おとうさん、ありがとう!」
 
僕もかなりグッと来て涙がでそうになった。でも、昔の刷り込みが変な言葉をつぶやく。
「泣いてはいけない。そんな作られた感動で、涙してはいけない。涙は恥ずかしいものだ。男は泣いてはいけない」
恥ずかしさもあって、泣くのをこらえる。
 
しかし、最後の歌を歌っている時、娘が涙を流したのを見て、さすがにこらえきれなくなった。そして、僕も涙を一滴。気持ちいい涙だった。
 
 
その時、仕事とかで色々モヤモヤはあったのだが、その一滴でスッキリした気がした。これぞ涙の効用である。娘からの6年分のプレゼントなのかもしれない。涙にはそれだけの価値がある。
 
涙は恥ずかしいが身体に良い、泣きたい時は泣いたほうが良いのだ。
我慢する理由などない。男は涙を見せるなんて嘘だ。
 
 
***

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2018-04-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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