プロフェッショナル・ゼミ

この映画を観て、何故に書きたくなるのかが解った気がした《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山田THX将治(プロフェッショナル・ゼミ)

私が若かった頃、’記者’は最も憧れる職業だった。
俗に言う、就職を志望する学生が最も集まる’就きたい職業’ではなく、収入や待遇、そして将来のライフプランを仮に均一とした場合に、出来ることならなってみたい職業だった。
実際は、知識や教養、そしてなんといっても学歴(当時は)がものを言う職種で、大学で新聞部や放送研究会に所属していないと、入社試験も受けられない(当時は)難関職種だった。

その当時’記者’と言えば、大概は”新聞記者”の事を指していった。雑誌のフリーライターは、その絶対数が少なかったし、殆どの週刊誌は’社員記者’を使っていた。勿論、放送局にも記者はいたが、新聞紙面に名前が出る”新聞記者”に比べて、アンカーマンの存在がフューチャーされてからは、どちらかというと裏方的なとらえられ方を、放送局の記者はされていたと記憶している。その上、当時の”新聞記者”は、一部外電を除いて自ら取材をして記事を書いた。取材を通信社頼りとなっている現代と違い、各新聞社の記事傾向は明確に色分けされていた時代だった。

私達が、高校3年生の時に公開された『大統領の陰謀 ALL THE PRESIDENT’S MEN』は、我々世代の’記者かぶれ少年’に、多大な影響を与えた。何しろこの映画で扱われている”ウォーターゲート事件”が起こったのは、映画公開の4年前で、我々は中学2・3年生だった。そんな多感な時期に、国家の最高権力に対抗し、その腐敗を暴き、果ては最高権力者をその地位から引きずり下ろす光景を目の当たりにしたら、’最高のヒーロー’に見えたとしても不思議はない。
自分達ももしかしたら、映画に登場した新聞記者ボブ・ウッドワード(ロバート・レッドフォード演)やカール・バーンスタイン(ダスティン・ホフマン演)みたいに、権力に対抗し社会を変えられるのではないかと、完全に勘違いをしていたものだった。

そんな育ちをした私に、衝撃を走らせた『大統領の陰謀』の続編、正確に言うと”前日談”的映画が、このたび公開された。現代で最も人気があるスティーブン・スピルバーグが監督し、メリル・ストリープとトム・ハンクスという二人のアカデミー賞受賞俳優が出演する『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 THE POST』が公開された。原題の『THE POST』は、’定冠詞’が付いている所から新聞社”ワシントン・ポスト社”を意味することが解る。
“前日談”と書いたのは、『大統領の陰謀』の題材である”ウォーターゲート事件”より、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』で扱う事件の方が、同じ新聞社を揺るがせた事件でありながら、2年程前に起こっていたからだ。事件当時、既に中学生で一丁前に’大人面’をしたがっていた私は、この事件を伝えるテレビ外電を、食い入る様に見ていたと今でも鮮明に覚えている。
両方の事件は、今日では’権力に対抗して報道の自由を守る’とみられがちだが、事件当時の捉えられ方は、”ウォーターゲート事件”は最高権力者(大統領)のスキャンダルで、遂には史上初の’現職大統領辞任’に至る衝撃的事件と考えられていた。一方”ペンタゴン・ペーパーズ事件”は、同じく’報道の自主独立’を守る事件であったが、それ以上に注目されていたのは、矢面に立たされた大新聞の社主が、当時では珍しい女性経営者であったことだった。

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』では、その女性経営者をメリル・ストリープが堂々と演じていた。メリルが演じたキャサリン・グラハム社主は、事件当時50歳代半ばだったと記憶しているが、まだ子供だった私から見ると、’いかにもアメリカの大人の女性’と言った感じで、その美貌もあって憧れるというより’格好良い女性の理想像’と思ったと記憶している。
1997年にキャサリン社主の自伝翻訳が発売され、私は直ぐに読んだ。とても感銘を受ける内容だった。それもそうだろう、その自伝はピューリッツァー賞を受賞した位だからだ。自伝を読む前は、”ペンタゴン・ペーパーズ事件”こそが彼女の人生で最も決断を要する事件だと思い込んでいた。ところが、自伝読了後にその印象が変わった。何故なら彼女は、”ペンタゴン・ペーパーズ事件”以前にも、難しい決断を迫られていたからだ。
キャサリンは恵まれた家庭に育ち、幸せな結婚をし、子宝にも恵まれていた。まさに順風満帆な人生と、他人からは見られていたことだろう。実際、伝統ある新聞社’ワシントン・ポスト社’の経営が危うくなると、キャサリンの父親は、豊富な資金を投じ経営権を掌握すると、ワシントン・ポスト社の経営を持ち直したそうだ。業績が上向いたポスト社の経営を、父親はキャサリンの夫に引き継いだ。
順調な会社経営だったが、キャサリンの夫は突然亡くなってしまう。自死だった。
ワシントン・ポスト社の重役達は、キャサリンに社主を引き継ぐように頼んだ。
まだアメリカでも、女性の社会進出が珍しかった1960年代の事だった。
大役受任を決断する時のキャサリンの心境を、自伝では詳しく書いてあった。
昨年、スティーブン・スピルバーグ監督が、キャサリン・グラハムの映画を撮り始めたというニュースを知った時、彼女の社長受諾がクライマックスになると私は勝手に思っていた。それ程までに、ドラマチックな場面だったと記憶していたからだ。

3月30日、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』日本公開初日、私は天狼院のイベント前に、早速映画館へ足を運んだ。映画は、’流石、巨匠スピルバーグ作品’と言い切っても過言では無い感動を、私に与えてくれた。ただ、私が勝手に思い込んでいたクライマックスとは、全く違うドラマが描かれていた。『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』という題名だから、当然である。
しかし、ベン・ブラッドリーという聞き覚えがある編集主幹(日本風に言うと)を、トム・ハンクスが演じていた。トムが演じるベンが映画に登場し、部下が書いた記事を読みながら椅子に座り、自分のデスクに両足靴を履いたままでポーンと乗せた時、高校時代の記憶が鮮やかによみがえり、思わず目頭が熱くなった。
高校時代に観た『大統領の陰謀』にも登場していたベン・ブラッドリーは、名優のジェイスン・ロバーツがアカデミー助演男優賞を獲得した名演技で演じていたのでよく覚えている。しかも、当時のベンの写真を見ると、ジェイスン・ロバーツの方が今回のトム・ハンクスより、よく似ていると今でも私は思っている。
今回のベンも前回と同じく、デスクに足を投げ出すシーンが、とても印象的だった。日本では、あまり褒められない行動だけど、アメリカ映画ではよく見掛ける。そのせいか、年長の大人がデスクに足を投げ出すと’行儀悪い’とは感じず、むしろ’格好良い’と見えてしまうから不思議だ。しかも、ベン・ブラッドリーの様な頼り甲斐が有りそうな大人が自分の上司だったら、さぞかし安心出来るだろうとも思ったりしたものだ。
丁度、天狼院のスタッフが三浦店主にこき使われている様に見えて、筆の立つスタッフはWeb天狼院上で記事をバズらせている。外から見ると、三浦店主が自らの傘の下で、スタッフに自由に書かせている様にも見える。多分、スタッフから見ると、映画でのベン・ブラッドリーと同じ様に、三浦店主が存在しているのだろう。

‘頼りがいのある大人’は、時として若者の人生を決めてしまうこともある。
天狼院における三浦店主とスタッフの関係もそうだが、高校生の時に観た『大統領の陰謀』に影響され、本当に’記者’になった男を知っている。一緒に映画を観た私の友人がそうだ。
彼は、出来の悪い私と違って大学進学後も勉学に励み、新聞部にも所属し見事に新聞社に’記者’として採用された。映画に出て来た’記者’に憧れ、自分も権力に立ち向かうつもりでいた。
ところが、理想と現実はたびたび異なってしまうのが通例だ。
先ず、友人の新聞社にはベン・ブラッドリーの様な、若手の’盾’と成ってくれるような人情味の有る上司はいなかった。日本の企業ではよくあることだが。
そして、友人の新聞社は’全国紙’だったので転勤も多かった。
その上、悲劇もあった。神戸の支社に赴任中、反社会的組織の襲撃を受け、友人は別の階に居て無事だったが、同い年の同僚が命を落とした。権力に対抗する前に、社会から反抗された形になってしまったのだ。

その友人は今でも、同じ新聞社に在籍している。幸運なことに、ワシントンへ出張した折、ベン・ブラッドリーに直接逢う機会が有り、”ウォーターゲート事件”当時のことを話してもらったそうだ。
不運なこともあった。
友人は、編集局へ昇格出来ず、50代前半で’記者’としての第一線を退かねばならなかった。日本企業の常だ。それ以上に友人は、自分がベン・ブラッドリーになれなかったことが、たいそう残念だったことだろう。

私が、天狼院でライティングを学び始めた4年程前、その友人と話す機会が有った。
「山田と違って、’記者’は楽だぞ」
何を言いたいのか、初め私は理解出来ないでいた。
「新聞記者ってさぁ、固定の読者が居るから’書いても読まれないかもしれない’って、考えないんだよ」
「でも、書いた記事によっては批判されたり、炎上を心配したりしない訳?」
「勿論、社会的責任は有るよ。でもな、無反応や無視されることが無いのは、書いてて気楽なものさ」
合点はいかなかったが、プロの意見なのでその時は拝聴しておいた。
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』を観た時、4年前の友人記者の言葉が腑に落ちた。彼の言葉の本質が、書くことの’目的’のそれも本質を鋭く突いていることを意味していると思ったからだ。しかも、”新聞記者”という書いたものを読まれる’宿命’を負った者の責任も併せて理解出来た気がした。
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』の中には、読まれる’宿命’を負った者の集団が、読者だけでなく時の権力に向かって、一点の’怯み’もなく堂々と立ち向かっていたからだ。

この4年間、毎週の様に天狼院の三浦店主に私は記事を提出してきた。Web天狼院への掲載許可を求めてだ。正確には、Web掲載だけが書く目的ではなかったはずだ。
Webへの掲載許可が下りるということは、三浦店主から褒められたことになる。人間なので、褒められれば嬉しいことも事実だ。でももし、Webに掲載されたとしても、シェアされないばかりか’イイね’が全然もらえなかったり、全く感想が書き込まれなかった時の脱力感は、計り知れないものが有る。ものを書く上で、記事に対する無反応は’無視’されたのと同じだ。言い様の無い虚しさだけが残る。
だから、例え批判であろうと、指導的なキツイ言葉であろうと、無いよりはマシだと思える。’無視’された訳ではないからだ。
ということは、書くことの本当の目的は、他の人に”読んで頂く”ことなのではないかと、改めて思い感じた。既に、4年もの長きにわたってライティングを習っていて、’何を今更’感が無い訳ではないが、この期に及んだからこそ、今気付いて良かったと、私は改めて思った。
また、その気づきの切っ掛けとなってくれた映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、私にとって今年一番の作品と言っても構わないとさえ思った。

そういえばこうして、映画の事を語ったり書いたりする時の私は、自然と’熱’を帯びることが有る。年齢的に上がってきたことも有って、聞き入れてくれる人も多い。しかし多分、私にとって好きな映画というコンテンツを語ることが、最も説得力を持っているからかもしれない。こうして無視されずに反応してもらえるということは、私にとっても長年大切にしてきたことを皆さんに認めて頂いたような気がして、大変うれしい事であることは間違いない。

巨匠スティーブン・スピルバーグ監督が渾身の力を込めた『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』。
映画の感動ばかりではなく、個人的に色々と気付かせてくれたことに感謝したくなる作品です。若き日の’青臭い’思い出が、昨日の事の様に思い出すことも出来ました。
映画好きは勿論のこと、ものを書く人・書きたいと思っている人にもおすすめの作品です。
是非とも映画館での観賞をお勧めします。感動と共感の絶対値が、一段上がるとと思います。

そしてそして、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』をより一層感動する切っ掛けとなった映画『大統領の陰謀』にも、併せて感謝したい気持ちで一杯です。
私にとっては、もう一つ、自分にとってのベン・ブラッドリーが居たことが、本当に幸運だったと感じている。私に書く場所を与えてくれている、三浦店主こそ、私のベン・ブラッドリーそのものだったのです。
いつも、厳しく講評して頂けるしね。

いつもいつも、有難う御座います。感謝申し上げます。

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