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5月1日に手術します。


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記事:フミ姐(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「うーん……。もうちょっと詳しく検査させてもらっていいですか? 結果によっては手術した方がいいかもしれません」
医師からそう言われたのは冬のはじめだった。冬だから寒くて当たり前だが、気温以上に背筋が寒くなった。精密検査を告げられたのはこれで2度目だ。
 
自分で言うのもなんだが、昔から身体は丈夫な方だ。身長は170cm近くあり、体重は非公開だがガッチリ体型で、スポーツもそこそこできる。体力勝負の仕事だし、災害ボランティアで被災地のがれき撤去や床下の泥出しにも行った。もともと下戸でお酒は飲まないし、タバコはやめてからもう10年近くになる。
手術だって1回しか受けたことがない。スキーで転んで手の靭帯を切ってしまった時だ。意外と重傷で、切れたというより骨から剥がれてしまった靭帯を再び骨に癒着させる手術を受けた。平たく言うと、骨に穴を開けて剥がれた靭帯の先っぽを通し針金で巻くというものだ。主治医ではない若い研修医が執刀した。命には別状がないからいい練習台だったに違いない。部分麻酔だったから、見えはしないが音は全部聞こえる。ドリルで穴を開ける。「先生、靭帯の断端が自然治癒で球状になっていて穴を通りません!」「少し斜めに切ればいいだろう!」「わかりました!」「チョキン」。
 
えーーー!?
今、あたしの靭帯ハサミで切ったの!?
 
ちょっとショッキングな経験ではあったが、この手術とリハビリを経て、ぶらんぶらんで全く力が入らなかった指先は自分の意思で動かせるようになった。ハサミで切ったぶん靭帯が短くなって今でもちょっと突っ張るけれど、それ以外は至って健康そのもの。病院に通ったことなんかなかった。
 
8年前に結婚した今の夫とは再婚同士だった。子供が欲しかったがなかなか授からず、不妊治療を受けることにした。自分が病気だと思えないのに通院するのはとても苦痛だった。
不妊治療は、時間もお金もかかる。通院スケジュールは待ったなしだ。どんな理由があろうとも、妊娠したければ医師の言うとおりに通院するしかない。仕事の都合で来れません、なんて言えるわけがない。卵子の状態が最優先なのだ。
治療に当たってはさまざまな検査を受ける。血液型や風疹の抗体、感染症の有無、卵子の残数などなど、検査だけでもけっこうなお金がかかる。1本1万円の注射をバンバン打たれ、1回の会計で5万なんてザラだ。そして何より、その治療や環境に耐えられる強い心が必要だった。
検査を受けた翌日、病院から電話でこう言われた。
 
「精密検査の必要があります。HIV感染の疑いがありますので、できるだけ早く来てください」
 
え?
うそでしょ?
 
ショックが強すぎて、その後のことはよく覚えていない。
不妊治療どころの騒ぎではない。もし本当なら……。
 
検査結果が出るまでの数日間、生まれて初めて眠れない夜を過ごした。
誰にも会いたくなかった。まったくお腹も空かなかった。真夏だったのに背筋が寒くて寒くて、一人でずっと震えていた。
 
結果は「擬陽性」だった。タンパク質の結合がHIVウィルス感染時とよく似た配列で、陽性だと判定されただけだった。一種の体質のようなもので、稀に発見されるらしい。レアな自分が恨めしかった。
 
今思えば、最初の検査を一緒に受けた夫は大丈夫だったのだから当然の結果だ。でもその時はとても冷静に状況を判断できる状態ではなかったし、自分の命の期限を本気で考えたのだ。そんな時、自分は思いっきり取り乱すということが分かった。
 
その後いろいろあったが、結局子供を授かることはできなかった。
不妊治療のために仕事を辞め、たくさんの時間とお金と心を費やしたが、唯一の収穫は、自分がHIVウィルス検査で擬陽性が出るレアな体質だと分かったことだ。街の献血ルームに行ったことはなかったが、知らずに献血したら大騒ぎになってしまうところだった。
 
貯金も仕事もなくなっちゃったけど、妊娠には向かない身体だったけど、夫婦仲良く元気で暮らしていければ、それでいいよね。
 
不妊治療を諦めて数年が経ち、ようやくそう思えるようになったある日、区の定期検診で受けた子宮頸がん検診で異常が見つかった。精密検査を受けたが結果は思わしくない。さらに詳しい検査を医師から勧められた……。
 
手術は5月1日に決まった。
いずれ癌化する可能性が最も高い型であることが検査で判明したのだ。手術を受けるのはこれで2回目だけど、同じ手術でも今度は悪いところを取る手術だ。少し緊張する。術後の痛み止めをガッチリ処方されたところをみると、相当痛いんだろうな……。
 
人生はそんなにドラマチックじゃないって言う人もいるけど、そんなことはない。次々にいろんなことが起こるし、検査結果も怖い。正直、悪い結果はもうたくさんだ。でも事実を知ってレアな体験もしたし、命の期限を考えたし、その時自分がどう反応し、どう行動するかもちょっとだけ垣間見ることができた。小さい人間だってことも分かった。
今はまだそう思えないけれど、手術で悪いところを取ってもらってうまく行ったら、今までのことがすべてそれでよかったんだと思えるかもしれない。
 
そんなわけで、5月1日に手術します。
夫には心配をかけてしまって申し訳ない。なかなか言えないけど、いつも大事にしてくれてありがとう。
 
 
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2018-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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