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プロフェッショナル・ゼミ

闘いの記憶がよみがえる《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松下広美(プロフェショナル・ゼミ)

「どうしよう……」

わたしはAmazonから届いた本を手にして、途方に暮れた。
想像していたものより、本が分厚い。
鼻歌を歌いながら、サラッと読めるような本を想像していたのに。
でも、手にしている本は、新書サイズで、厚さが3センチくらい。
たぶん、本屋で見かけても手には取るかもしれませんが、購入まではいかない系の本。だって、分厚いし、めちゃくちゃ重量感がある。

そもそも、買うに至ったのは、勧められたから。
天狼院書店のプロゼミの講義で、『錯誤』の話になったときに、この本は錯誤が使われている、ということで紹介された本の中の一冊。紹介された本のうち、何冊かは読んだことがあり、おもしろい本だったなぁ、と記憶の中にあった。じゃあ、他の本もおもしろいんだろうな、と思い、紹介されたうちのどれかは読んでみたいなと思っていた。そのどれかの中で選んだのが、この重量感のある本だった。適当に選んだわけでもなく、特に熱を入れて「おもしろい」と、紹介されていた。
実は、本屋でなかなか探せなかったので、Amazonで頼んだ。

でも、おもしろいから! と言われても、こんなに分厚い本を読み出すには、かなりのエネルギーが必要になる。持ち歩くにも、かさばりますし……。だから、ずっと本棚に入れて、眺めて、どうしよう、と思っていたのだ。
読まなきゃ、読まなきゃと思いつつ、なかなか手は伸びなかったのだ。

普段の生活の中では、なかなか読み出すことができず、美容院に持っていくことにした。
普通、美容院では「どれにします?」と差し出された雑誌を見るものだけど、わたしは本を持ち込み、読書の時間にしている。
美容院に本を持っていけば、雑誌は持ってきてくれない。カラーで置いている時間とか、手持ち無沙汰な時間に、本を読まざるをえない状況になる。
そんな状況に自分を追い込めば、読むだろうということだ。

「分厚い本ですねー」
いつもシャンプーをしてくれる、若い美容師さんに話しかけられた。
「でしょ。わたしも、おもしろいって勧められて買ったんだけど、届いてびっくりしたんだよね」
「おもしろいですか?」
「いや、まだわかんない」
できれば、話しかけないでほしいと思いながら、そう答えました。
まだ、その時点では、おもしろさは本当にわからなかった。

うわー。これ読むの辛いわー。

読み進めていくうち、なんだか気分が重くなっていくのがわかりました。

それは、本の世界に足を踏み入れるにつれて、わたしの中の時計は逆戻りしていき、胸の中にある、思い出したくない、忘れてしまいたい過去がよみがえってきたからです。

「学校に行きたくないなー」

中学生の頃、すごく学校に行きたくない時期があった。
時期が……というよりも、中学2年の後半から卒業まで、ずっと学校に行きたくありませんでした。行っても楽しくないし、辛いことの方が多かったから。
それは、あるときを境に、急に、ずっと仲良くしていたグループの子たちから無視をされたから。
中学生の頃というのは、仲良しグループが全て、です。そこから放り出されるというのは、ひとりで過ごさなくてはいけない、ということ。

「お前、もっと頭のいい奴らと付き合えよ」

三者面談で担任の先生に言われました。
あ、先生、無視されてるの、わかってたんだ。
わかってたんだ、と知ったものの、それができるなら、行動していました。できないからひとりでいるのに。結局、そう言われたものの、途中で、どこかのグループに入る勇気もなく、「早く中学校を卒業したいな」と思いながら中学生活を過ごしていました。

今では、「昔、いじめられてたんだ」と、ネタとして話せるようにはなっているけれど、本当のところ、心が癒えているかというと、そうではない。過去のこと、と頭ではわかっていても、心というのは辛かった頃の気持ちは覚えているものなのだ。あの頃、わたしの気持ちは誰にもわかってもらえなかった、という思いがどうしても残ってしまう。

わかってもらえない、孤独の中にいる、という気持ちが蘇ったのも、本を読んでいたから。
主人公の子の気持ちが、あのときのわたしとリンクしていく。
状況は違うものの、気持ちは手に取るようにわかる。

辛いよ、誰か助けて。

ずっとずっと、中学時代のわたしは、そう思っていました。

「だって、こころちゃんは毎日、闘っているでしょう?」

え? なんでわかるの?

あの頃のわたしは、まわりの全てが敵だった。
無視されている、友達だった人たち。
他に友達を作れという、先生。
寄ってきてはくれない、クラスメート。

「闘っているでしょう」と、わたしに向けられた言葉ではなく、本の中の主人公に向けられた言葉なのに、わたしに、中学生のわたしに向けられた言葉のように思いました。
負けないように、毎日、闘っていたことを、わかってくれた人がいる。

辛かった記憶は、消すことはできない。
もう、25年という月日が流れているのに、あのときの辛さは昨日あったことのように、よみがえることがある。いつまでたっても、古傷が痛むように、心の傷が疼いてしまう。
それでも今、こうやって大人になって楽しく過ごせているのは、あのとき闘っていたわたしがいるからなのだ。頑張って闘い抜いて、毎日を過ごしてくれていたから、今のわたしがいる。

そんなことを思い出させてくれた、物語だった。

もっと早く出会いたかった。
けれど、今だからこそ、出会った本なのかもしれない。
3センチの分厚さなど、読み終わった後には、気にならない。それよりも、この分厚さがあったからこその物語なのだということもわかる。

ぜひ、「どうしよう……」などと躊躇せず、手に取ってほしいと思う。

『かがみの孤城』辻村深月

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