プロフェッショナル・ゼミ

引き寄せ体質《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:よめぞう(プロフェショナル・ゼミ)

※このお話は事実を元にした、フィクションです。

LINE! と元気な通知音が部屋に響いた。
ああ、もう……! せっかく気持ちよく寝ていたのに……。
久しぶりの休日、旦那が子供を連れて遊びに行ってくれたので、誰にも邪魔をされずに昼寝をしていたのだ。そんな束の間の休息を邪魔されて、私は酷く不機嫌になった。一体、私の眠りを妨げたのはどこのどいつだ? 乱暴に、枕元においてあったiPhoneを取り上げて、画面を開いた。

「久しぶり、元気にしてる?」

お! よっちゃんだ。大学を卒業して以来だから……もう10年ぶりか?
先ほどの怒りは一瞬でどこかへ消えて、懐かしい友人のことを思い出していた。よっちゃんとは、大学が同じだった。特に、仲が良いグループではなかったけれど、同じ授業になることが多かった。会えば「おはよう」とお互い挨拶もしていたし、それなりに会話もあった。バイト三昧で、本業の学生生活を疎かにしていた私とは違って、よっちゃんはとても真面目で頭もよかった。それに、そこそこ美人だった。私は嬉しくてすぐに「おー! 久しぶりだね! 私は元気だよー」と返信した。

「よかったー♪ LINE新しくしたら、ゆうちゃんの名前があって気になったから連絡したんだ!」

久しぶりの友人からの連絡に心が踊った。けれども、ほんの一瞬ザワザワっと胸の奥で何かが動いたような気がした。普段、鈍感と旦那に言われるのに、いざとなると鼻がきくのが私の性分だ。こういう時のザワザワは、たいてい嫌な予感というか、何かよくないことが起きる予兆であることが多い。もしや……と思うところはあったけれど、まさかよっちゃんに限ってそんなことはないだろう。ないない、と左手で頭の上に浮かんだモヤを振り払いながら、右手で機械的に「へー、そーだったんだ! 連絡してくれてありがと」と返した。それから10分ほど経った頃に、ようやく「LINE!」と通知音がなった。

「実はね、ゆうちゃんに良い話があるんだけど……今度、お茶でもどうかな?」

ああ……これ、悪い予感的中フラグ立ったわ。
まだ確証は得られていないが、ほぼ間違いないだろう。私は、自分が考えていることが、どうか思い過ごしであってほしいと願った。場合によっては友人を一人、失うことになりかねないからだ。緊張で口から飛び出しそうな心臓をなんとかしながら、震える指で「良い話? なになに? 気になるー!」と、思ってもない事を恐る恐る入力した。

「今、美容業界で働いているんだ。最近、新しいビジネスを始めて結構儲かってるんだよねー! ゆうちゃんのためにもなると思って、良かったら話だけでも聞いてみないかなーと思ってさ♪」

ああ、神様。悪い予感って、どうしてこんなに当たるものなんでしょう。
テッテレー! という効果音と共に「ドッキリ大成功!」ではなく「悪い予感、的中!」というプラカードを持った人が走って来たみたいだ。私は、深くため息をついた。もう、なんでこういう話くるんだろう……。20歳を過ぎてから、10年以上、年1ペースで「サイドビジネス」やら「オイシイ話」やら、怪しいお誘いが絶えずやってくる。私は、ある意味「引き寄せやすい体質」なのかもしれない。確かに、周りからはずっと地元にいる「素直で優しい」人と言われることが多い。それに、長年営業の仕事をしていたこともあって、人脈があると思われている節もある。つまり、お誘いする側からしてみれば、私みたいなヤツは「簡単に乗ってくれて、あわよくば、周りも芋づる式に引っ張れる良いカモ」と思われても仕方ないのだ。これまでも、SNSを通じて見ず知らずの友人の友人から「メイクレッスンを称した、化粧品の売りつけとビジネス」の勧誘が来たくらいなので、ある意味、私の「カモにしやすそう」レベルは高い水準なのだろう。

素直に、誠実に、真面目に生きて来たつもりなのに……この仕打ちは本当にひどい。いっそ、性格ブスにでもなっておけば良かったと悲しくなった。けれども、もうこのまま引っ込むわけにもいかない。相手の思うままにさせてたまるもんか! こういった「お誘い」の対処に対して、私は2つの作戦を使うことが多い。1つは、徹底的に相手を言葉でねじ伏せる「はい、論破! 作戦」だ。そもそも、この手の「お誘い」は、誘われた側にはほとんどメリットがない。いわゆるネズミ講と言われる類は、上の方にいる人が下の人を働かせることで搾取できる仕組みである。だから、私が「楽して良い思い」なんてできない点を、徹底的に突く作戦だ。ただ、相手は仮にも「友人」という肩書を持った人だ。無下に突き放してしまうと、ほかの友人達にどんな悪評を言いふらされるか、たまったもんじゃない。そうなると、いかに「当たり障りなくお断りをするか」が大事になってくる。相手を下手に刺激すると「あなたのためなのよ!」と逆上されることだってある。まさに、一瞬の油断が命取りだ。
そこで、登場するのが「なりきり! おバカキャラ作戦」だ。文字通り、物分かりが悪い、おバカキャラに本気でなりきって、相手が「こいつダメだ、やめとこう」となるのを待つ作戦なのだ。正直、これまで「お誘い」があった時、誘って来た人だけが相手なら、別に論破作戦でも十分勝つことはできた。けれども、敵は手強く、場合によっては複数で待っていることもザラにあるのだ。一人で戦うには論破作戦だと分が悪いこともあるので、あえて「話ができない」方向へ持って行くことで「お誘い」をぶった斬ろう! というわけだ。話を断ることは難しくても、話をさせないようにするのなら、心優しい人でも心は痛まないんじゃないだろうか。私は早速「すごいねー、でも私そこまで生活とか困ってないからなー。それに、あんまり難しいことわかんないしー」と返信した。返信するやいなや、LINEのトーク画面には「既読」の文字が浮かんだ。

「いや、ゆうちゃんにはこれから幸せになって欲しいの! やっぱり、良い服とか良い家とか住みたくない? 私はどんなことも我慢したくないわ」

はい、でたー!
笑いが止まらなかった。正直、服は着られればなんでも良い。今住んでいる家になんの不満もない。私がいつ、ブランドの服を着たいと言ったんだろう? いつ、もっと大きな家に越したいって言ったんだろう? 今、十分幸せだ。これまでもそうだ。今まで「お誘い」してくる人たちは、こぞって私を不幸な人間に仕立て上げてくる。そうやって自分の考えを押し付けるのは本当に勘弁していただきたい。けれども、ここで逆上してしまうと彼らの思うツボだ。私は最後まで「おバカキャラ」を通さなければいけなかった。気持ちを落ち着け、指は冷静に最後の言葉をしたためていた。

「んー、そうだねえ。まあ、私はいまの生活で十分かなー。それに難しいことはわからないから、また何かあればお願いするねー」

それから、5分、10分と時間はすぎた。
iPhoneの画面はうんともすんとも言わなかった。

勝った……。よっちゃんは、間違いなく2度と私に連絡をよこすことはないだろう。彼女は、諦めたのだ。結果として友人を一人失うことになったけれど、それ以上に、私の周りの人たちを巻き込むことがなく終わったことはとても大きなことだ。少し、後味が悪い気もしたけれど、心は晴れやかだった。

「ただいまー」

「あ、お帰りなさい」

旦那と子供が帰ってきた。
旦那は、私の顔を見るや否や、何かを悟ったようだ。不思議そうな顔をして「どうしたの?」と尋ねてきた。事の次第を話そうかと迷ったけれど、もう終わったことなのでどうでもよかった。

「あのさ、私は今の生活に満足しているし、幸せだよ」

旦那は、突然の私の答えに「あ、うん……」と困惑していた。まあ、大丈夫なら良いよと言いながら、子供と手を洗いに洗面所へと消えて行った。
きっと、これからも「オイシイ話」のお誘いは絶えず私の元にくるだろう。けれども、旦那と子供がいる限り……ブレない私でいられる限りは絶対大丈夫だ。もしかしたら本当に「オイシイ話」だったのかもしれないけれど、いろんな人を犠牲にした上での「幸せ」なら、それは本当に幸せではないと改めて思った。

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