プロフェッショナル・ゼミ

新学期から不登校をはじめた次女《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中野 篤史(プロフェッショナル・ゼミ)

どうもおかしい。隣で電話でしているおばさんの会話が。

「ごろごろ ごろごろ ごろごろ ごろごろ
ガラガラ ガラガラ ガラガラ ガラガラ…… 」

外国の人かなー?
 
私は今、共用スペースにある長いソファーに腰掛けて、顧客へメールを書いている。ここは恵比寿にあるウェスティンホテル東京のB2。今日ここでは、新経団連の『NEST 2018』というIT系イベントが開催されている。次の公演まで時間が空いてしまったので、会場の外で仕事をしていた。あっ、また始まった。

「ごろごろ ごろごろ ごろごろ ごろごろ
ガラガラ ガラガラ ガラガラ ガラガラ ……。
受け取れないならしょうがない。
受け取れれば元気になれるんだったら、
いかなきゃしょうがないでしょう」

(ネタじゃないんだ、本当なんだ!)

困った。会話の展開が全く読めない。いや、私が話の展開を把握する必要はないんだけど、そのごろごろガラガラは気になって仕方がない。年齢は50歳前後。首が隠れるくらいの長さにカットされた黒髪。スパンコールの入った黒い長袖シャツに、黒いパンツ。全身黒づくめ格好をしている。

「あ、ガラガラごろごろ そうだね、じゃあね」

“あ”が入ったよ。そして、唐突の“じゃあね”だ。
彼女は私に大いなる疑問を投げかけ、イベント会場の中へと消えていった。

ところで、なぜ私はここにいるのか? それは14:15からの『教育とイノベーション』の講演を聴くためだ。詳しくは後で話すことになるが、最近次女のことで日本の学校教育と体制に大きな疑問を感じている。場合によっては、親が覚悟をしなければいけない事態になりそうだ。そんな私にとって、今日の講演はタイムリーで、是非聞いてみたい話だった。この時の私は、3時間後にそれが現実になることをまだ知らない。

この講演のパネリストは、カドカワ株式会社の川上社長と、インターナショナルスクールISAK(アイザック)ジャパンの小林りん理事だった。川上氏は、あの「ニコニコ動画」を展開するドワンゴを立ち上げた人。一方、小林氏のことは、ほとんど知らない。ふたりの自己紹介からすると、カドカワの川上氏は、N高等学校というネット(通信制)の高校を2015年に設立したらしい。ISAKジャパンの小林氏は、軽井沢にインターナショナルスクールを作ってしまった人のようだ。この二人の学校設立の経緯が、正反対で面白い。

「いや、僕は初め反対だったんですよ」と経緯を話す川上氏。そもそカドカワ(ドワンゴ)で学校をやる必然性がないと感じていたからだと話す。
「でも、学校にいけなくなった不登校の生徒って、ネットを見ている確率が高くて、影響力のあるうちでやる意義があるって言われちゃって……」と、サバサバと語った。

「私は、高校のとき、ある教科はとても得意で、ある教科は全然できなかった」と話し始めた小林氏。「学校では、できない教科のことを色々言われるんです……。5教科まんべんなくできなければいけないというのはおかしいと思って」と。結局、日本の高校を中退し、全寮制のカナダの学校へ留学した。その経緯が原体験となり、インターナショナルスクールを立ち上げたと語った。

二人に共通しているのは、画一的な学校教育には限界があり、多様性の必要性を話していたことだ。それにしても、聞けば聞くほど、このN高は面白い。「学校生活はネットでもできるんじゃないか?」ってところからスタートしているので、部活動もヴァーチャルだ。将棋部や囲碁部はオンラインの対局サービスをベースに活動している。なんと将棋部は将棋でも全国トップクラスの灘高に、対戦で勝ち越している。これはすごい。普通の学校教育からドロップアウトしてしまった子達が、全国トップクラスの進学校と渡り合うということは、それだけ彼らがポテンシャルを秘めていたということだ。要は、そのポテンシャルを、どこでどういう形で引き出せるかだけの話なんだ。ちなみに、このN高 VS 灘高は、『NN戦』と呼ばれニコニコ動画でも配信されている。しかも、プロ棋士の解説付きだ。部活動もコンテンツにしてしてしまうあたり、さすがカドカワだと感心した。そして、きわめつけは遠足。実は、遠足もヴァーチャル。なんと集合場所はドラゴンクエストの中の世界らしい。世間では賛否両論あると思うが、生徒からは好評とのことだった。しかし、これには一つ大きな問題があると語る川上氏。「先生のレベルを上げとかないと、すぐ敵にやられちゃんですよ」と、川上氏の口調に会場が笑いに沸いた。

「いや、笑いをとれる話がなくて申し訳ないんですが……」と、あねご口調で話しはじめる小林氏。でもあなたのキャラが十分面白いのである。彼女によると、ISAKの生徒は70%が奨学金を受けているとのこと。まず、試験に合格したら、その子の家庭の状況に合わせて奨学金を決めていくとのこと。つまり、ここで教育を受けることが、家庭の経済状況に左右されにくい学校なのだ。それから70%が海外からの留学生とのこと。日本在住の外国人の方々ではないらしい。また彼女は世界に様々な学校があることを教えてくれた。「アメリカには、50年間成績表をつけていない学校があるんです!」と学校の多様性を話す。また「生徒が完全に好きなことしかやらない学校もある。先生はそれにあわせて有機的にカリキュラムをつくる。それでもIVリーグのような優秀な大学へ進学している子もいる」と、自発的な学習の有効性について話した。「偏差値の外にある学校」という言葉が心に残った。

自発的な学習の有効性については、大いに共感するところがある。実はうちの長女もそうだった。彼女は小学校へ入学し3日くらいで、本人が学校へ行かないことを決断した。「同じ字をノートにずっとかいているの」と、ひたすら同じ漢字をかく勉強にショックを受けて帰宅してきたのだ。彼女は学校にもっと期待して楽しみにしていたのだ。それから、妻と長女2人の自宅学習生活が始まった。2人で勉強したり、プラネタリウムへ行ったり、料理をつくったり。興味があることは何でもやったらしい。完璧な卵焼きを目指し、ひたすら卵焼きを作り続けていた時期もあると聞いた。当時、私はまだ妻と出会っていなかったので、彼女はシングルマザーでそれをやっていたのだ。長女が次に学校へ行ったのは小学校4年だった。理由は単純だ。大好きな漫画のドラえもんに読めない字が出てきたからだ。そのあとの吸収は早かった。そんな長女は今年都立でもかなり偏差値の高い高校へ進学した。でも塾には通わせていないし、親から勉強しなさいとも言ったことは一度もない。彼女から頼まれたのは進研ゼミ、それだけだった。最近、我々夫婦が心配なのは次女だ。それは彼女が勉強が嫌いだからではない。学校という組織が合わない様子だからだ。義務教育なのに選択肢がないのは、子供にとっては辛い話である。

ちょっと硬い表現になるけど、こう言った人がいた。「私は現代の教育の危機は、公的に定められた学習をどんな方法で実施するのかということよりも、むしろ個人の学習すべき内容や方法を、公が決定できるとする考え方そのものだ」。1971年にニューヨークで開催された教育研究会でイヴァン・イリイチが言った言葉だ。彼は自著『脱学校の社会』でも次のようなことを言っている。「たいていの人は、知識の大部分を学校の外でに身につける。ほとんどの学習は偶然に起こるのであり、意図的な学習さえ、その多くは計画的に教えられたことの結果ではない」と。

とまあ、こういうことを書いている私だけど、初めから学校の教育に対して、柔軟な考えを持っていたわけではない。どちらかといえば学校は無理してでも通った方がいいという、古くて保守的な考えの持ち主だった。何故ならそのように教育をされてきたからだ。私の両親は二人ともバレーボール選手だった。親父はシチズン時計のバレーボール部で活躍していた。母親は名門中村高校のキャプテンだった。ややスパルタ的なうちの家庭には、学校を休むことは許されない空気があった。小学校では高熱を出して布団から起き上がれなかった1日をのぞいて、一度も休まなかった。すこぶる健康でよかったと思う。もし風邪などをひきやすい身体だったら、苦痛な環境だったに違いない。だから、私には不登校の子供の気持ちは、ほとんど理解ができない。もし妻以外の女性と結婚して子供がいたとすると、それは子供にとっては災難だったかもしれない。学校を休むことなんて許さなかっただろうから。私の意識が変わったのは、妻と結婚する前から彼女の子育てを身近で見ていたからだ。「子供の幸せが最優先」これが彼女の子育てなのだ。そのブレのないところは頭がさがる。私を含め普通の人は、仕事が最優先だろう。なんだかんだ言っても、生活があるから。しかし、彼女の場合は、仕事もすっ飛ばして子供が優先される。もちろん、子供達の為に厳しいことを言うことだってある。そう言う態度は、言わなくても子に伝わるのだ。でも、スパルタで育った価値観の私からすると、もっと厳しくした方がいいじゃないかなと思うときもある。でも一旦自分の感情を置いておいて、客観的に見ると妻のやり方の方が、結果的にいい場合が多い。

そんな我が家で最近心配なのは、中2の次女の状況だ。どうやら学校というシステムが合わなくなってきているようだと妻から相談を受けた。妻と話をしたが、本人が行きたくないのに無理に学校へ行かせる弊害の方が大きいと、二人の意見は一致した。実はこういうことを学校に相談しても仕方がない。本当に困った時は、学校が何もしてくれないことを経験からわかっている。例え先生がいい先生であっても、学校に限らずヒエラルキーの強い組織というのは、都合の悪いことは見ないことにする作用が働く。それは、最近の紙面を見てもよくわかるだろう。

もし、不登校の子どものことで、心配されている方がいたら、どうか安心してもらいたい。学校に行かないこと、行けないことは悪いことではない。学校が合う子供もいれば合わない子もいるからだ。問題は、子供に選択肢が与えられていないことの方だと思う。無理に学校へ行かせてしまって、心身の成長をこじらせてしまうケースも知っている。子供が学校へ行かなくて困るのは、実は親の都合だということに気づいていない親が多い。内申点やテストの点が下がることを恐れているのは、子供ではなく親の方なのだ。それは、私を含め殆どの人が、学歴が就職に影響すると教えられてきたから。でも、これからの社会では、学歴はそれ程重要ではなくなる。評価経済へ移行していくからだ。そして、それは徐々に始まっている。評価経済では、友人からの評価や、オンライン上での評価がより重要になる。ホリエモンも同様のことを本に書いているし、企業の採用現場でも社員からの紹介採用を強化し始めている。紹介からの採用の方がミスマッチが少ないからだ。実際私の会社でも紹介を奨励している。例えば「あいつは、中卒だけどコミュニケーション力あるし信頼できます」って、信頼できる社員から紹介があれば、優秀な大学出身のよく知らない応募者より採用される確率が高いのだ。世の中の価値観は、親が考えているより早く変化している。70歳以上世代の仕事はパソコンによって消えていった。我々の世代の仕事はAIによって消えていくものも多い。高学歴で高収入のイメージの強い、弁理士、司法書士、会計士などの士業だって例外ではない。だから、一生懸命学歴を伸ばしても人によっては役に立たないことも増えてくる。だから、我々親の価値観で心配することの方がリスクとも言えなくもないのだ。
ピロン! イベントが終わり会場を出た時、妻からメッセージが届いた。「やっぱり、学校行くの辛そうだから、覚悟しといて」とあった。きたか。今回は長そうだな。ことによると、もう中学校へは行かない可能性が高い。

翌朝の金曜日の朝、風は強いけどよく晴れた日になった。妻がトレーニングウェアに着替えている。

「あれ、どこ行くの?」
「ふたりで公園へ散歩に行ってくる」
「いいね! 楽しんで。それじゃ俺は会社へ行って着くるよ!」

***

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