プロフェッショナル・ゼミ

この世の中、口下手は致命傷である《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:高浜 裕太郎(プロフェッショナル・ゼミ)
※このお話はフィクションです。
「田中さんって、何が趣味なんですか?」
職場の先輩である田中さんに、私はこう尋ねた。
「んー、そうねぇ」
田中さんは、少し面倒くさそうに、首元をかきながら答えた。田中さんのその仕草を見た瞬間、私は「しまった」と思った。
今、職場には田中さんと私の2人きりだ。時刻は、もうすぐ午後7時になろうとしている。今日は、ノー残業デーということもあり、他の社員は、ほぼ定時に退社をしていた。どうしても仕事が終わらなかった、私と田中さんだけ、会社に残っていた。私と田中さんは、同じプロジェクトチームだ。
「まぁ、ゴルフとかしてるよ」
田中さんは、外の景色を眺めながらこう言った。窓の外には、福岡の街が、まるで宝石を散りばめたように輝いていた。おそらく、私がした質問のことではなく、別のことを考えながら、質問に答えたのだろう。
白状をするが、私は、別に知りたくないと思っていることでも、質問をしてしまうことがある。本音を言うと、田中さんの趣味なんて、どうでも良い。ただ私は、田中さんと2人きりで、パソコンのキーボードを打つ音しかしない部屋にいるのは、耐えられなかった。この部屋の重苦しさに、押しつぶされそうだった。
だから、その変に緊迫した空気を、破る為に、質問をしたのだ。
けれども、田中さんの様子からして、どうも私の目論見がばれていたようだった。田中さんは、よく磨かれた眼鏡を光らせて、「お前、本当に俺の趣味が知りたいわけではないだろう」とでも言いたそうな顔をしていた。
その顔で見つめられ、私は心の中で、「すみません」と軽く謝った。

自慢ではないけれども、私は口下手だ。一応、営業マンとして働いているのに、それで良いのかというツッコミが聞こえてきそうだが、正直、私は人と話すことが得意ではない。
得意先を喜ばせるようなお世辞も言えない。それどころか、社内の雰囲気を良くするような、「日常会話」でさえ、することが出来ない。
「遠藤くんさ、休日とか何してるの?」
私がこの会社に入社して間もない頃、先輩達は私を可愛がってくれた。まるで、真新しいものでも見るかのように、質問の雨を浴びせまくった。
けれども私は、その質問の雨に対して、そっけない対応をしていた。決して冷たく接しているわけではないが、掴みどころのない返答ばかりしていた。
「いやぁ、寝てばっかりですよ!」
こんな回答をしてしまうと、先輩は次の言葉を発することが出来なくなる。例えば、「野球観戦が趣味です」なんて言えれば、そこから好きな球団について、話が広がるのかもしれないけれども、私はそういう会話の設計図を書くことが出来ない。だから、私との会話は、常にプツンと脆い糸のように切れてしまうのだ。
「ふぅーん……」
私に質問をした先輩達も、私があまり面白くない奴だと思ったのか、「ふぅーん」と言って、質問を終わらせることが多くなった。そして、だんだん質問の雨は止んでいった。

「しょうがない、私は口下手なんだから」
私はそう言って、開き直っていた時期もあった。話すことが出来るということは、持って生まれた才能のようなものだ。だから、私が話し上手になる必要なんてない。最低限のコミュニケーションを取ることが出来れば、それで良いと思っていた時期もあった。

けれども、その考えは変わり始めた。というのも、私は、口下手が原因で、損をすることが増えたからだ。それは、仕事も、プライベートも問わずだ。

ある日私は、高校の同級生の何人かと一緒に飲んでいた。私と、私と仲の良かった男友達、そして、同じクラスだった女子2人と、2対2での飲み会だった。全員独身であり、かつ彼氏彼女もいなかったので、軽い合コンのような形になった。
25歳にもなると、意外と出会いの場というものが無くなるのだ。結婚をしたいと思っている私にとって、高校の同級生と飲む場は、小さな婚活パーティーのようなものだった。もちろん、あまりがっつき過ぎると、女子に引かれてしまう可能もあるので、あくまでさり気なく、その合コンに期待をしていた。
しかし当日、私にとって予想外の展開となった。

私と仲の良かった男友達は、福岡で保険会社の営業マンをしているらしかった。営業成績も良く、福岡で1番売っているセールスマンだと、豪語していた。
私はそいつの話を、話半分で聞いていた。しかし、話を聞いているうちに、そいつが本当に「福岡で1番のセールスマン」であるということを、実感してきたのだ。

そいつは、この数年で、飛びぬけて話し上手になっていた。
話に起承転結があるとでも言うのだろうか。まるで、小説や演劇を見せられているような気分だ。口調も変えたり、声の大きさも微調整している。確実に、「相手が聞き取りやすい話し方」を意識しながら、話をしている。
「でもさ、俺は新人の頃、最悪のセールスマンだって言われてたんだよ。過去最悪の出来。こんな出来の悪い奴、今まで見たことないとまで言われたんだよね。あれ、今考えたらパワハラだよね」
彼は少し自嘲気味に、こう言う。声のトーンも少し落としている。すると、女子は彼に同情気味になる。
「え、大丈夫だったの? よく辞めなかったね」
こんな優しい言葉すらかけてくれるようになる。それはまるで、子供が運動場で転んだ時に、保健室の先生が「痛かったね」と言って慰めてくれるような、そんな優しさが詰まっていた。
「まぁでも、それがバネになって、努力したから、今があるんだけどね」
男友達はそう言って、華やかに締めた。心なしか、少し顔が自慢気だった。彼がそう話を締めると、女子は「へぇ、やっぱり凄いね!」なんて言って、男友達を褒めまくった。私も、自分の話を聞いてもらうことをすっかり忘れて、男友達の話を聞いていた。
「完敗だ」
私はそう思った。別に、どちらがよりモテるか選手権をしているわけではない。けれども、今の話を聞いて、私と男友達の、どちらを彼氏にしたいかと聞かれたら、女子は男友達の方を選ぶだろう。
男友達が、この数年で、人間的に成長したというのも、彼の魅力の1つだろう。その成長具合では、私だって負けてはいない。私だって、高校を卒業した頃と比べると、それなりの苦労は重ねてきたつもりだったし、成長もしてきたつもりだった。
けれども、男友達には、「言葉」という強力な武器がある。いや、その武器を使いこなせている。私にも、その武器は備わっているものの、自在に扱えるレベルには無い。言わば、私と男友達は、「刀」という同じ武器を持っているけれども、私が素人で、男友達は武士だった。

この合コンが終わった後、私はすっかり打ちのめされていた。話せるか話せないかという違いだけで、これ程待遇が違うものなのだろうかと、自分の口下手を嘆いた。同時に「話上手なんて、生まれ持った才能なのだから、別に口下手でも良いじゃないか」と思っていた過去の自分を、殴ってやりたくもなった。違う、そうじゃないと言ってやりたかった。そして、口下手であるということは、この社会で生き辛くなるということなんだと、気付いた。

そこから私は、口下手を直す決意をした。喋れるようになれば、少し世の中の見える景色が違うかもしれない。社会という海の中では、泳げない人間は溺れてしまう。けれども、「話し方」という「泳ぎ方」を習得すれば、少しでも、この社会で生きやすくなるのではないかと思ったのだ。
けれども、どうすれば良いのか、全く分からなかった。

そして、あの合コンでの苦悩から3年が経ち、私は28歳になった。今では、彼女も出来たし、社内での関係も、悪くは無かった。あの日、窓際で田中さんに、首元をかかれながら、質問を返された時よりも、何倍も成長をしていると思う。今では、田中さんとも、まともに会話をすることが出来るようになった。
私がこの3年間何をしたのか。それは、話し方に関する本を読み漁ったのではない。色々なセミナーに通い詰めたわけでもない。私が試したのは、至極簡単で、けれども難しいことだった。
私は、とにかく話をしたのだ。
よく、プロ野球選手や、サッカー選手等は、ほぼ毎日野球のことを考え、トレーニングを重ねているという。彼らがプロであり続ける理由は、おそらくそこにあるだろう。誰よりも多く、バットを振り続ける。誰よりも丁寧に、フォームを確認する。誰よりも多く、リフティングをする。これの繰り返しが、彼らを上達へと導いたのだ。
もし、「会話のプロフェッショナル」と言う人がいるならば、どういう人なのだろうかと、私は考えた。そして、野球選手やサッカー選手の例に習って、「誰よりも多く、そして丁寧に話をしている人」という結論を導き出した。
だから私も、より多くの人と話をした。
今まであまり仕事以外で話したことの無い人とも話すようになった。同じプロジェクトの人達とも、趣味の話をするようにもなったし、恋愛の相談にまで乗ってくれるようになった。
同じプロジェクト以外の人達とも話をするようになった。するといつからか、私のイメージが変わり始めたようだった。
それは、職場の飲み会での席だった。
「遠藤くんは、本当に変わったよねぇ」
職場の上司が、しみじみとした顔でこう言う。まるで、生徒の成長を見ている先生のようだった。
「え? どういう意味ですか?」
上司の言う「変わった」は、ポジティブな意味で言っているのか、ネガティブな意味で言っているのか、私は一瞬判断に迷い、眉間にしわを寄せた。
けれども、上司の次の一言で、全てが変わった。
「3年くらい前かな、あの頃はさ、誰も俺に近づくんじゃねーぞっていうオーラが滲み出てたもんね。そう考えると、今は丸くなったし、話しやすくなったよ」
まるで、四角が、角が取れて丸になったみたいだねと、その上司は笑いながら言っていた。
上司がそう言ってくれた瞬間、私の頭の中にお花畑が広がった。思い返せば、今まであまり褒められたことがなかったかもしれない。仕事をし始めてから、こんな幸せな気分を味わたのは、初めてだった。
辛い経験から始まった、私の「話し方革命」は、成功したと言っても良いのではないだろうか。この上司だけではなく、色々な人も、私の変貌ぶりに目を丸くしている。「話し方革命」は、成功を遂げた。

思い返せば、口下手だった時、「しょうがない」が常に頭の中にあったような気がする。「あいつは、人に気に入られるのが上手だから、しょうがない」「あいつは、話が上手だからしょうがない」と、常に「しょうがない」ばかり言っていた気がする。
じゃあ「口下手」なのも「しょうがない」のだろうか。「しょうがない」で、チャンスを逃していいのだろうか。
それではいけなかったのだ。口下手というだけで、どれだけのチャンスを逃してきたのだろうか。もし新人の頃から話す訓練をしていれば、もっと早くに昇進したかもしれない。

私は今だから言える。この世の中において、口下手は、残念ながら致命傷である。それだけで、多くのチャンスを逃してしまうだろう。
だからこそ、口下手に真摯に向き合わなければならないだろう。その為に必要なのは、「とにかく話すこと」ではないだろうか。
私も、まだまだ修行中の身だけれども、人と会話することを恐れずに、言葉のプロフェッショナルを目指して、精進していきたい。
そうすれば、今よりもっと、チャンスを掴めると思うから。

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