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メディアグランプリ

今まで誰にも言わなかった「ありえたかもしれない恋」の話


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記事:たけしま まりは(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「浮気はダメ、ゼッタイ!」
わかっている。ものすごくわかっている。
 
でも、わかっていながらハマってしまう人がいるのも知っている。
わたしの知り合いに、浮気がバレて大変な目にあった……という人が何人かいる。
浮気する・されるにかかわらずこういう話はよく聞くし、口にしないだけで実は……という人もきっとけっこういるはずだ。
 
かく言うわたしは、浮気をしたことは、たぶんない。
言葉を濁してしまうのは、これからそれに近い話をしようと思っているからだ。
今まで誰にも言わなかった。というか、身近な人にこそ言えるはずなかった。
そりゃそうだ。「ダメ、ゼッタイ!」なことだもの。
それでも、わたしは誰かに言いたかった。
いまだに忘れられない「ありえたかもしれない恋」の話を。
 
今から2年ほど前、10年の付き合いになる彼と遠距離恋愛をしていたときのことだ。
彼が東京、わたしが大阪で、会えるのはだいたい月に1度。
普段は仕事に追われていたので、そこまで寂しいと思わなかった。
東京に異動したいと上司には伝えていたけれど、なかなか叶わず大阪生活3年目を迎えていた。
 
その頃入社した後輩の森下は、わたしと同い年だった。
細身で顔が小さくエキゾチックな目元をしていて、俳優の松田翔太に似た顔立ちだった。
体育会系で身体がゴツめの彼とは対照的で、入ってきたときは「細い子だなぁ」という印象しか持たなかった。
 
しばらくして森下の家がわたしの家の近所だとわかり、遅くまで残業した日は森下を誘って飲みに行くようになった。
「お疲れ様」と乾杯しながらお互いの労をねぎらい、仕事の不満をひとしきり愚痴り合う。
それから森下は合コンでタイプの女性と出会えなかったことを嘆き、わたしは彼とつまらないことで喧嘩したと嘆いた。
 
ただただ自分の話を聞いてもらい、こちらも相手の話を聞くだけなのだが、それがとても心地良かった。仕事の話をいちから説明しなくてもいいところも、疲れなくてありがたかった。
どうやら、森下も同じように感じているらしかった。
 
森下と意気投合してからは、平日だけでなく休日にも会うようになった。
接待ゴルフの練習のために森下と打ちっ放しに行って、帰りにごはんを食べた。
彼よりも森下と会っている時間が多くなったことに後ろめたさを感じたが、家が近くて車もある森下の存在はとてもありがたく、わたしは「好意はないから大丈夫」と思うことにしていた。
 
今振り返れば、「好意はない」は嘘だった。
遠距離恋愛がそんなに寂しくないというのも嘘だった。
あの頃のわたしは、常に寂しくて、愛に飢えていた。
同じ職場だし、タイプじゃないしとなんだかんだ言いながら、わたしは森下を男として意識していた。
あげくの果てに「森下と付き合ったらどうなるんだろう」という妄想までしていた。
 
別にわたしは恋多き女ではなく、異性にモテるタイプでもない。
彼以外の恋愛経験はほぼゼロだし、遠距離とはいえ彼とは仲良しで不満も特にない。
わたしにとって森下はビールのような存在で、ちょっとした息抜きにちょうど良く、たしなむ程度に付き合いたい関係だったのだ。
 
本当に身勝手な話だというのは、十分わかっている。
こんなことを考えてちゃダメだと思いつつ、一度その妄想が始まるともう止まらない。
タイプじゃないけどまぁかっこいいし、細身だけど意外と筋肉あるんだよなぁ。
わたしの頭の中で「ありえたかもしれない恋」のストーリーが次々浮かんでは消える。
そういう時に彼から着信があって「わたしは一体何を考えてるんだ! バカやろう!」とやっと我に返るのだ。
 
そう。わたしはとてもバカだったのだ。
長年の付き合いになる彼との関係に安心して、やましい考えに浸りきっていた。
ただし、さすがに考えは頭の中だけにとどめていた。
森下がわたしをどう思っているか聞くことはないし、聞こうとも思わなかった。
わたしは、恋のようなものを味わいたかっただけなのだ。
身勝手でずるくてやましい考えはわたしに刺激をくれたけれど、同じくらいの虚しさと罪悪感もついてきた。
それでもつい、バカなことを考えてしまっていた。
 
しかし、そんなおバカな時はあっけなく終わりを迎えた。
わたしの東京異動が決まったのだ。
異動までの間は引き継ぎと引っ越しの準備で忙しくなり、森下の存在は頭の隅に追いやられた。異動する前にごはんでも誘おうかと思ったが、引き継ぎが予想以上に難航したためそんな余裕もなく、内示を受けてからまともに会話をすることなくわたしは東京へと引っ越した。
 
今、わたしは寂しさが満たされたことで「ありえたかもしれない恋」に酔うことはなくなった。
東京での生活に夢中になり、森下のことを思い出すこともほとんどない。
それでもたまに雑誌やテレビで松田翔太を見かけると、森下の顔が浮かぶ。
そして、少しだけどきっとする。
 
「ありえたかもしれない恋」の話に、アウトと思うかセーフと思うかは人それぞれだと思う。
わたしは「ありえたかもしれない恋」の罪悪感を忘れられないでいる。
だからこそ、彼を今まで以上に大切にしようと思っている。
 
東京に引っ越して2年経ち、「ありえたかもしれない恋」はウイスキーみたいになった。
わたしはふとしたきっかけで思い出し、あの頃の思い出をちびちび味わい、懐かしむのだ。
 
誰にも言わない秘密の味は、時間が経って濃縮され、渋みがさらに増している気がした。

 
 
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2018-04-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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