メディアグランプリ

あなたとの別れは、いつも突然に


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記事:大国沙織(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
 あなたとの別れは、いつも突然やってくる。しかも、それが最後だったと分かるのも、後になってからのことだ。だから私は、「ああ、あれがあなたとの最後だったのね……」と、一人切なさとやり切れなさを噛みしめることになる。せめて、「会えるのはこれが最後だよ」って前もって伝えてくれればいいのに。辛いけど、そうしたら少しは心の準備もできるのに。悲しいかな、たぶんそれは一生叶わない。でも、それでもいい。あなたと一生会えないことを考えれば、そんなこと何でもない。
 冬限定の私の恋人。寒がりな私をいつも情熱的に、ときに静かに暖めてくれたね。ほとんど家で仕事をしている私は、あなたのそばに座ってぬくぬくしながらノートパソコンを開く。おかげで気持ちよく作業がはかどってとても助かるけど、あなたのそばはあまりにも居心地がいいから、私はつい眠くなってうたた寝してしまうこともよくあったなぁ。
 子どもの頃の私は、あなたの存在があまりにも身近で当たり前過ぎて、正直な話、特に有難いと思うことはなかったかもしれない。初めてあなたの有難みをしっかり感じるようになったのは、たぶん高校生になってから。部活を辞めないといけないぐらい自律神経のバランスを崩してしまって、冷え性がひどかった私を、いつも優しく暖めてくれたね。手足が氷のように冷たくてなかなか寝付けない夜も、あなたのそばに行って暖めてもらうと、不思議とぐっすり眠れたんだった。どんなときも快く迎えてくれたあなたは、私にとってずっとひだまりのような存在だったよ。
 一生叶わないなぁ〜と思うぐらい料理上手で、寒い日はいつも、とびきり美味しい鍋料理やポトフを作ってくれたね。ほかにも根菜のたっぷり入ったけんちん汁や、その香りが食欲をそそる酒粕汁。じっくり煮込んで味の染みたロールキャベツや、具沢山シチューの日もあったっけ。あなたの作る栄養たっぷりのごはんを食べると、身も心もぽかぽか温まって、心から幸せな気持ちになったよ。巷で風邪やインフルエンザが流行っていても、私がひと冬ずっと元気に過ごせるのも、きっとあなたのおかげ。
 そういえば焼き芋も得意で、おやつ時にお腹が空いたなぁ〜と思うと、いつも絶妙なタイミングで甘くてホクホクの焼き芋を作ってくれたね。焼きたてを半分に割ると、ふわ〜っと立ち上る湯気。塩をひとつまみふって食べると、サツマイモの甘さがさらに引き立って、この上ない至福のひと時だったよ。あなたは控えめで主張することもないし、いろいろしてくれるのに見返りも求めないから、これまでちゃんとお礼を言ったことはなかったけれど。でも、この機会に言わせて。いつもいつも、本当にありがとう。もしもあなたがいなかったら、まるで心にぽっかりと穴が空いたように、毎日が寒々しくてたまらないでしょう。ましてや苦手な冬を乗り越えるなんて、とてもじゃないけど無理なお話。やっぱりあなたは、私にとって他に代えの効かない、かけがえのない存在なの。それだけは、わかっていてね。
 もう今ではすっかり、あなたが日常に馴染んでしまっている。でも、私が地元を離れて京都で一人暮らしをしていた8年間、あなたに会うことはほとんどなかったね。もちろんたまには、会いたいなぁと恋しく思うこともあったけれど、物理的な距離の問題もあったし、会えるのは年末年始の短い間ぐらいだったよね。私が一人で暮らす部屋にはこたつがあったから、全国的にも寒さが厳しいといわれている京都の冬も毎年どうにか乗り越えていたけれど、あなたは寂しいと思うこともあったかもしれない。それでも、久しぶりに地元に帰ってきて再会した日には、あなたは以前と全く変わらない暖かさで私を迎えてくれたね。あなたの懐かしい顔を見た瞬間、これまでの思い出の数々が鮮明によみがえってきたよ。私はずっとあなたに支えられて、これまで生きてこられたんだなぁ……。
 そう、私の冬の恋人は、薪ストーブ。維持費がかかって管理が大変とか、薪割りや薪運びが体力的に大変とか、デメリットもいろいろ言われるけれど、その魅力は計り知れない。昔ながらのレトロなフォルムは見ているだけで癒されるし、なんといっても、じんわりと身体の芯から感じられる暖かさはプライスレス。昔々、まだ人類が火で暖を取るしか術がなかったころ、きっと人々は炎を囲んで煮炊きをし、憩い、歌ったり踊ったりしていた。火のエネルギーに、生活の大部分を支えられてきた。だからだろうか、ゆらゆらと揺れる炎をしばらくじっと見つめているとほっとするし、頭がボーッとなって嫌なことも忘れてしまう。
 私の実家には20年前ぐらい前から薪ストーブがあって、この上ない恩恵にあずかっている。ところが、冬中私たちを暖め料理までしてくれる、この働きものの薪ストーブ。春がきて暖かくなると必要なくなってしまうのだけれど、最後の火入れがいつの日かは、後にならないとわからないのだ。春の始めの寒い日などはまだお世話になることも多い。「今日は寒いからしようか」「今日は昨日より気温が高いから、しなくても大丈夫かもね」という感じで火を入れる日がだんだんと減っていき、気付けばすっかり外は暖かくなっていて、「ああ、もう薪ストーブシーズンは終わったんだなぁ」となる訳である。だから、遅ればせながらだけれど、あなたにお礼を言いたい。私は冷え性が治った今も相変わらず寒がりで、今も冬が一番苦手だけれど、でもあなたに会える唯一の季節だから、それはちょっと楽しみ。じゃあまた、冬に会おうね。

 
 
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2018-04-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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