メディアグランプリ

髪の毛との決別宣言


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記事:林峻平(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
髪の毛ってほんとに困ったちゃんである。小学校の高学年、そろそろ異性が気になり始めるあの頃、毎朝鏡を見るのが嫌だった。水をつけてなんとかうねりを取ろうとしても逆効果。髪の毛のうねり具合でその日の天気を予想できる特殊能力なんていらない。梅雨時期は家から一歩も出たくなかった。加えて毛の量も生えるスピードも凄くて、切ったと思ったらすぐブロッコリーに逆戻りしてしまう。高校を卒業して初めてストレートパーマをかけた時は、スネ夫みたいな髪型になり失笑を買う。正直、いい思い出は全くない。そんな自分に、また新たな髪の悩みがやってくるなんて思ってもみなかった。
 
2ヶ月前まで、私は駐在員として海外で働いていた。各国を飛び回り、言葉も文化も違う人々と渡り合い、休日は友人たちとパーティー、なんて、やりがいと楽しさに満ちた華々しい駐在員生活を思い描いていたのだけれど、現実は少し違った。Facebookで楽しそうにしているみんながリア充アピールに見えてきて、理想と現実とのギャップの中で少しずつ疲弊していく自分がいた。そんなある日、頭を洗っていると妙に気になり始めた。
 
「抜ける髪の毛、多過ぎないか……」
 
今までの人生の中で、髪の毛の多さを気にすることはあっても、抜け毛を気にすることなんてことは皆無だった。だが、その時は違った。最近ストレスが溜まってるからそのせいではないか、それとも食生活? 確かに毎晩飲み歩いているし、え、まだ30歳だよ? 気になりだすともう止まらない。「社会人 抜け毛 原因」、「ストレス 抜け毛  やばい」、「若い ハゲ どうする」……ど、どうする……。調べれば調べるほど憂鬱な気分になった。トレンディエンジェルとか温水洋一とか高橋克実とか、TVで見て笑っていたことを激しく後悔した。後退しはじめた友人を笑ったこともあったかもしれない。「はい、ブーメラン」、最近よく聞く言葉がズキッと胸に突き刺さった。自分はなんてことをしてしまったんだ……。過去に戻れるならあの態度、言葉を訂正したい。もう二度と馬鹿にしたり笑ったりしない。だから許してほしい。振られた彼女に必死に復縁を迫る男のように、どうしようもない思考が頭の中を埋め尽くした。そんな時、親戚のおじさんの言葉をふと思い出した。
 
「ハゲてきたら、俺はすぐ坊主にする」
 
なぜそんな会話になったのかは思い出せないけれど、「中途半端な姿を晒すくらいなら、いっそ坊主にしてしまった方がいい」と力説していたことを思い出した。なんと潔い。こっちはちょっとストレスが溜まって、ちょっと髪がたくさん抜けた(ような気がしている)だけでこんなに落ち込み、わたわたしているというのに、なんと潔い宣言。九州男児らしく豪快で男らしい。よし、自分もハゲてきたら坊主にしよう。身体を洗いながらその流れで顔も頭も洗えるし、ドライヤーも必要ない。市川海老蔵や女城主直虎の市原隼人のようなイケメン坊主もいるし、竹中直人やダウンタウンの松本人志なんかも味があっていい、ブルース・ウィルスもカッコいいじゃあないか!  色んなカツラを手に入れて、毎日違う髪型なんてのも面白いかもしれない。ポジティブに、ハゲてきたら潔く髪に別れを告げよう、そう思った。
 
そうは思ってみたものの、人間はそんなに簡単には変われない。髪の毛が少しずつ減ってしまうことはしょうがない。でもその始まりを自ら進んで早めてしまうことなんてないじゃないか。朝シャンって髪に悪いのではないかと控えてみたり、頭皮マッサージをゴリゴリやられた時は、そんなに力入れたら髪抜けちゃうよとヒヤヒヤしたり、髪に優しいらしいノンシリコンのシャンプーを買ってみたり、と髪を気にする生活が始まった。いつかその日は来るんだし、来たら来たで潔く坊主にするって決めたんだから気にする必要なんてないのに。
 
それから数ヶ月後、紆余曲折あって私は仕事を辞め、日本に戻ってきた。生活環境も変わったし、何より食べ物がいい。モズクにワカメ、昆布に海苔、髪の毛によさそうなものがすぐ手に入る環境だ。今ある髪の毛は大切にしつつ、その日が来たらどう対応するかも決まっている。おじさんの決別宣言のように、潔く別れを告げるのだ。実際に髪の毛の量が減ってきているのかどうかはよくわからないのだけれど、もう髪の毛の行く末に対して不安も心配も、ない。
 
せっかく帰国したので、時間をつくり、祖父母の墓参りなども兼ね九州の実家に戻った。近くのスーパー銭湯に行くと件のおじさんがいた。久々に会うおじさんは慣れた手つきで何かを頭にふりかけ、丁寧に髪の毛を乾かしていた。とても、丁寧な手つきだった。かなり後退は進んでいたが、まだある。坊主では、ない。お風呂セットの中で、サク◯スと書かれた薬用シャンプーと育毛トニックが輝いているのが見えた。
 
私は決めた。髪の毛との決別宣言なんてしない。なんと不毛な思考を頭の中で巡らせていたのだろうか。振り回されても、なんだか憎めない、幼少期からの付き合いであるこの困ったちゃんとこれからも末永くお付き合いしていきたい。

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2018-04-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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