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メディアグランプリ

企業の働き方改革とテリヤキバーガー


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山田博史(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
会社が入っているビルの向かいにあるハンバーガーショップは、1階で会計を済ませ商品を受け取り、2階のイートインスペースで食べるシステムになっている。レジの後ろにキッチン設備があり、イヤフォンマイクを付けた数人のスタッフが、おそらくオペレーションマニュアルに従い作業している。
レジは3つ並んでおり、左のレジ横の柱にはアルバイト募集のポスターが貼ってある。会社の給与水準はこの10年でほとんど変わっていないのに、バイトの時給はこんなにも高くなったのかと羨ましく思う。
 
フライドポテトの出来上がりを知らせるBGMをオーバーラップするように女性スタッフが注文を聞いてくる。
 
「お決まりでしたらご注文をお聞きします」
 
「テリヤキバーガー2つとホットコーヒー1つお願いします」
 
「テリヤキバーガーをおふたつ、ホットコーヒーをおひとつですね」
「お会計、520円です」
 
財布から1,020円を出し、500円玉を受け取るのとほとんど同時に、注文した商品も準備された。
 
2階に上がり、外の景色が見える窓際のカウンターに座り、ホットコーヒーの蓋を外す。
タレが手に付かないように、テリヤキバーガーの包み紙をゆっくりはがし、おもいっきり頬張ろうとしたとき、今日の朝刊の記事を思い出した。
 
働き方改革のことが書いてあった。
 
一億層活躍社会実現のための働き方改革は、我が国の少子高齢社会の構造問題や人生100年計画を見据えた長時間労働の是正などを解決することを目的とする日本政府の政策らしい。らしいと言うのには理由がある。
 
うちの会社も、この働き方改革を理由に、経営陣が長時間労働の抑制に「熱心に」取り組むようになったのだ。そのため彼らは、早く帰ることを身を持って示すために定時退勤で揃って家路につく。若い職員も、今はやりのワークライフバランスだとか何だで早く帰り、仕事とプライベートを充実させている。
 
一方で、われわれ中間管理職はというと、経営陣からの「宿題」や現場のプロジェクトの推進、新規事業の計画、ワークライフバランスを謳歌している若い部下たちの仕事を引き取り、業務が滞りなく進むように「上手く」やっている。
当然、夜遅くまで会社に残って業務を行う必要があり、週末も出勤するか家の近くに最近できたコワーキングスペースに仕事を持ちこむこともある。
 
結局何かを削ろうとすると誰かにそのシワ寄せが来る。そして寄せられたシワはその誰かが伸ばしているのだ。経営陣と部下に挟まれた中間管理職だ。
 
 
もし、そのシワを伸ばせなくなったときどうなるのだろうか……。
 
 
たぶん5年ぐらい前のことだったと思う。大手ファミリーレストランチェーンの店長が深夜の仕事中に倒れ、亡くなったことがニュースで大きく取り上げられた。月の平均残業が80時間から90時間あり、4ヶ月間で休日は2日。労災と認定された。
 
誰よりも早く出勤し、店内のオペレーション環境の整備、社員やアルバイトのシフト管理、スタッフの急な欠勤の代わりに働かなければならないことも少なくなかった。突然辞めると言うのはまだマシで、人手不足の中ようやく採用したものの、連絡もなく来なくなるパートやバイトへの対応に追われることさえある。
スタッフが学生や主婦の場合、学校や家庭のことを気遣い、なるべく残業させないように配慮しなければならない。
毎日・毎月の売上目標が決められているため、エリアマネージャーや経営陣からは、売上達成状況に対して毎日のように厳しく詰められる。
入社する前は、会社の理念や経営方針、そして何よりもお客様の幸せが自分の幸せだと思って働けると思っていた。でもだんだんその志は心の隅に追いやられ、日常の忙しさでほとんど思い出すことができなくなっていた。
 
この国の社会で働くということは、結局誰かが割りを食うような社会構造になっているのだ。そしてその誰かが、ファミレスの店長だったのだ。
会社の中で板挟みになっている中間管理職と呼ばれる人たちが……。
 
 
 
中間管理職は、ハンバーガーの上下のバンズに挟まれたハンバーグのようなものだ! いや、サンドイッチのハムとレタスだ! そんなことはどちらでもいい。
 
これは、ある有名人や歴史上の人物が残した言葉ではなく、会社の同僚が去年の忘年会の帰り道に、橋の上から叫んだ言葉だ。
中間管理職にもプライドがあり、組織を支えている重要な役割であるということを言いたかったのだ。
 
ハンバーガーは、上下のバンズだけだとただのパンだが、ハンバーグを挟んで初めてハンバーガーになり、サンドイッチは、ハムやレタスを挟んでサンドイッチになる。そしてそれが、食べる人の満足の元となる。会社も同じように、経営陣と部下の間に中間管理職が挟まって一つの組織として成立し、その会社の経営理念やビジョンを達成させるための共同体として機能している。
 
この同僚の例えはとても上手いとは言えないが、同じ中間管理職として毎日遅くまで働き、会社の目標を達成させるために自分の業務に取り組みながら、部下の育成に注力している者同士、強く共感してしまった。
 
 
久しぶりに食べるテリヤキバーガーを手にしながらいろんなことを考えると、たまには早く帰って、妻と娘と一緒に夕飯を食べたいと思った。
 
「今日は早く帰られそうだから、一緒にご飯食べられるよ」
 
程よくぬるくなったコーヒーを飲みながら妻にLINEをした。

***

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2018-04-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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