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用法用量を守って、正しく使いましょう


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記事:コバヤシミズキ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
慣れないことはするもんじゃないし、されるもんでもない。
人と関わるの大好き。喋るのはもっと好き。ジョークを飛ばし合うのなんて死ぬほど好き。
もちろん、人とご飯行くのも好き。
あとちょっとすれば出来るようになる晩酌も、きっと好き。
「だれやめ嫌いとか、鹿児島人として名折れでしょ」
それでも、慣れないことはされたくない訳で。
「いや、ほんと、ほんとに大丈夫っす。ほんとに」
「ほら、ここは目上を立てると思ってさ、ね?」
先輩はこう言うけれど、やっぱり慣れないものは慣れないのだ。
「ほんと、自分で払いますって!」
なぜか私は、自分の食事代を払うのに必死になっていた。
 
私は典型的な『奢りアレルギー』だ。
人に奢るのはもちろん、特に奢られるというのがダメだった。
奢るのがダメ、というだけならただのケチで済んだかもしれない。まあ、実際手元のお金は少ないし、無駄遣いをしない気質もあるだろう。
「ケチんぼ」
そう言われても、否定は出来ない。
でも、奢られるのもダメなら? 私は一体何に当てはまるのだろうか。
“ケチ”と言うには苦しい私は、何にならなれるのか。
そんな私が『奢りアレルギー』の診断を受けたのは、中学生の時だった。
 
奢る、奢られるという行為に遭遇したのも、中学生だった気がする。
その日は、私含めた友人数人で遊びに行っていた。小学生から中学生になって間もない、お金の使い方に慣れ始めた時期だった。母さんから貰ったお小遣いを手に、ワクワクしていた。多分、みんなも同じだったはず。
だから、気が大きくなっていた人も居たわけで。
「あ、俺今日奢るよ」
何のタイミングだったか、一人がそんなことを言い始めたのだ。
彼の言葉に、みんなは大騒ぎだった。喜ぶ人も居たし、そそのかす人も居た。彼もその輪の中でニコニコしていたのだ。しかし、場が盛り上がる中、一人空気が読めないやつがいた。
「いや、私はいいわ」
場が冷えていくのを感じながら、それでも私はNOと言ってしまった。
 
そもそも、たかが中学生である。
人に奢るなんてしてはいけないのだ。だから、私は断った。
しかし、納得のいかなかった彼は、私に理由を尋ねてきた。
「だってそれ、自分で稼いだお金じゃないでしょ」
これは持論であり、私の意見でしかない。でも、正論でもあるのだ。きっと誰もが「それが正しい」と肯定するだろう。実際、家で話すと母さんに褒めてもらえた。
だけど、正論で殴られた彼は、きっと痛かっただろう。
だって今も、殴られた後の彼の顔が忘れられない。
 
“奢り”には、常に誰かが傷つくことが付き物だと思っていた。
だって極端な話、“理由無き搾取”にしか感じられないし、“奢り”を断れば相手は苦笑いで去って行くのだ。どう頑張っても、私も相手も傷つくことしか出来ない。
「今日は僕の奢りだからね、たくさん飲みなさい」
アルバイトを始めてから、そんな会話を耳にすることが多くなった。和食屋さんだからか、おじちゃんたちが若い人を連れてくることが多いのだ。
・・・・・・今の私は、あの頃と違う。月3万といえど、自分で稼いでいる。相手だって、大抵働いている。
しかし、未だに『奢りアレルギー』は治らないまま。どうにもこいつ、自然治癒とはいかないらしい。
「ほんと、ほんとに自分で払いますから」
つけて治る薬があるなら、誰か教えて欲しいくらいだった。
 
「今度、僕の奢りでご飯食べに行こうか」
いつの間にか、常連さんが放ったジョークに対応しきれないくらい、私の『奢りアレルギー』は進行していた。だから、私は真剣に相談してしまったのだ。そして、遅れてジョークだと気づき焦る私のことなんか気にせず、彼は焼酎グラスを置いた。
「僕も若い頃は、たくさん先輩においしいご飯を食べさせて貰ったなあ。だから、その分僕も若い人においしいご飯を食べさせたい」
そう言って再び焼酎を飲み始める常連さんの前で、私はひどく驚いたのだ。
“奢り”は食物連鎖みたいなものだと思っていた。だから、私にとって搾取でしかなかった。
でも、違ったのだ。もちろん彼の言ったことは持論で、正論とは言えない感情論だ。
しかし、驚くくらい胸にストンと落ちてきた。
「なるほど」
焼酎を出しながら、ピンときた。そして、心の中で少しにやっとするのだ。
「毒にも薬にもなるとはこのことか」
 
「もう、おかしいと思ったんですよ! おつりの金額おかしいし、店員さんも笑ってるし!」
「ごめんって。許して、ね?」
結局、あの日先輩に奢って貰った私は、今度は高校時代の後輩とランチに来ていた。
だって、今日も変わらず人とご飯食べるの大好きだ。ほら、なにもおかしいことなんてない。
ただ一つ、いつもと違うことがあるとすれば、彼女が怒っている理由がそれだろう。
「だって、奢られるなんて思ってなかったんですよ」
そう、奢ったのだ。『奢りアレルギー』の私が、奢ったのだ。快挙である。一人心の中でガッツポーズを決める私に、後輩は「今度は私が奢りますからね」とまだプリプリしながら言った。
それに私は「してやったり」と笑うのだ。
 
果たして私は『奢りアレルギー』を完治させることが出来たのか。
・・・・・・どうだろう。もしかしたら、治ってないかも。
それでも、私はこのアレルギーと付き合っていくことにした。
ゆっくり、焦らず。
毒が薬になるように、薬が毒にならないように。
アナフィラキシーショックで死なないために。
「“奢り”は用法用量を守って、正しく使いましょう」

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2018-04-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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