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私に合う人がいたら紹介してください


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記事:なつき(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「私に合う人がいたら紹介してください」
言ってみた。
あ、言っちゃった。とうとう言っちゃった。
これを言ったら最後、最終手段みたいに思っていた言葉。
自分からは言っちゃいけないと思っていた言葉。
恥ずかしいことなんだと思っていた言葉。
 
正直焦っていた。
20代の頃から20人近くお見合いした。何度か会って、結婚するかなと思った人がいた。
恋愛で長く付き合った人もいた。
けれど、左手薬指にきらりと光る指輪を手にするまでには至らなかった。
 
30代最後の年。子供を産むにもタイムリミットが近づいている。子供は欲しい。
「離婚してもいいから、30代のうちに結婚した方がいい」
母に言われていた。
30代後半だって難しいのに、40代になると途端にお見合いの相手が減る。
そう言われていた。
母の友人からの紹介などが多かったので、申し訳ない気持ちもあり、鬱陶しいと思いながらも真実だと思っていた。
 
でも既に39歳。どうやって出会うのさ、知り合うのさ。
友達作りに、大人数のパーティとか飲み会に参加したこともあった。あまり飲めないけれど雰囲気は楽しかったから。
けれど、テンポの速すぎる会話に入るのが難しい。話しかけてくれる人もいたけれど、そういう場ではノリの良い方に結局流れていく。
会費分は食べなきゃと食べに走る。
私には合わないと段々足が遠のいた。
少人数の食事会にも参加した。
ゆっくり食事しながらの談笑は、私に合っていた。
その場は楽しかったが、消極的な私は、個人的な付き合いに繋げるのは難しかった。
 
どうしたらいいんだろう。
とくにがっついているわけでもないが、焦りが表情に現れたら、言葉に表れるようになったら、確実に重たいと思われ可能性を下げる。
相談するにしても誰に?
少人数の食事会は継続して参加していたが、そういうことを話す感じの食事会ではなかった。
誰に?
母の顔が頭をよぎる。母に相談すべきことではないと思ったが、女性は子供を産むのにタイムリミットがある。孫を心待ちにしているであろう母に、弱音の体でもちかけてみた。
「孫を見せてあげられなくてごめんね。孫欲しいよね」
母から意外な答えが返ってきた。
「えー、別にどっちでも。面倒見るのとかできないわよ。孫疲れって言って、孫が来るのは嬉しいけど、帰った後どっと疲れるんだって。それに、今のご時世、育てるの大変だし、お金かかるし、夫婦二人で楽しく、でもいいんじゃない」
 
かせが音を立てて落ちた。
母はあまり身体が強くない。私を気遣って言ってくれたのもあると思うが、半分本心だろうと思う。驚いた。母はてっきり孫が欲しいのだろうなと思っていた。
子供産まなきゃ……。
これがこんなにも重荷になっていたのか。
私自身子供が大好きなので欲しいと思っていたが、夫婦二人で楽しく、そういう道も有りなんだと新たな選択肢が生まれた。
 
選択肢が増えることで、子供がいない家庭の話を耳にすることも増えた。いや、今まで違う世界だと思ってあまり聞いていなかっただけかも知れない。休日に二人で食事に行ったり、日曜大工したり。とても楽しそうだなと思った。
ただ、選択肢が増えても出会いはそうそう増えるものではない。
やはり、食事会などに行くしかないのか。
食事会は楽しかったが、次に繋げられない自分にもどかしさを感じてもいた。
 
少し前から通い始めた喫茶店があった。友人が店主を務める喫茶店だ。居心地良くて、週に2回位ふらっと行っては、店主と話したり、静かに本を読んだり。気づくと珈琲とケーキで数時間いることもあった。店主は色々知っていて話が面白いだけでなく、他人同士がカウンターに座っていても上手く橋渡しをしてくれる。他人同士で盛り上がれる楽しい空間が出来上がっていた。
 
ある時ふと思う。彼なら私に合う人がわかるんじゃないか。
それをどう伝えようか悩んだ。
誰か紹介してほしいと言う言葉はそんな簡単に使えない言葉だ。
けれど前にも言った通り39歳。なりふり構っていられない。
 
「私に合う人がいたら紹介してください」
これを言うまでにどれだけの葛藤があったろう。うん、あったよ。葛藤あった。あった筈なんだけどね。おかしいなと思う位すっきりした。あはは言っちゃったよ。もう怖いもんなしだよ。不思議なことに、あんなに言っちゃいけないと思っていたこの言葉を、友人同士の食事会でも言えるようになった。
 
39歳。相手がいないのを恥ずかしいと思っていたが、周りを見ることができるようになった。相手の表情をちゃんと見るようになった。そして私自身が焦りで、相手のことを見ていなかったことに気が付いた。
 
お陰様で、現在はありがたいことに、左手薬指に指輪が鎮座しております。
出会いについてはまた機会がありましたら。
 
 
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2018-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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