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気づいていない怖い話


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記事:あああ(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
そのとき、彼は最高に幸せなはずだった。
 
彼は、生まれてこのかた色恋沙汰に全くと言っていいほど縁がない。生まれてこのかた17年間、彼は恋人を作れたこともなかった。
 
はっきり言って彼は、カッコよくない。
はっきり言って彼は、話がうまくない。
はっきり言って彼は、頭が良くない。
要するに彼は、モテるような男ではない。
そんな彼が、ついこの間、密かに想いを寄せていたクラスメートのあの子に告白されたのである。
密かにと言っても、それほど密かだったわけではない。あの子と話すとき彼はいつも以上に早口になるし、あの子が近づいてくると挙動が何かと不自然になるし、という具合で人並みの観察力のある人からすれば彼があの子を好きなのは一目瞭然であった。クラスの中では、ほとんどの人がそのことに気づいていた。そして、また、ほとんどの人が彼の恋は実らないであろうと確信していた。
 
そんな彼があの子から告白されたのであった。
 
もちろん、彼は喜んだ。本当に本当に喜んだ。告白がなされたその日のその時は、もう遅かったので彼とあの子は少し話をした後でそれぞれ家路についた。次の日からあの子が自分の恋人なのだということを考えると、新月の夜にも関わらず彼の夜道は昼以上に明るかった。
 
次の日のことだ。
彼は、学校へ行き、笑みを抑えられずに教室に入った。奥手な彼は積極的に話しかけていく勇気がない。恥ずかしいのである。また、あの子の周りには、あの子の友達がいて話しかけづらいという事情もあった。
あの子とあの子の友達がこちらを見ながら笑顔で話していることなどから、あの子と自分が恋人になったことをあの子の友達は知っていて、そのことを話しているのかなと彼は思った。
彼とあの子は、恋人になったからといって、何もするわけではなく。何日かがすぎた。恋人がこれまでにいたことのない彼は、最初のうちは恋人というのはこんなものなのだろう、と思っていた。
告白の時から一週間ほどが経って、彼は、あの子をそろそろデートに誘うことにした。恋人同士なので当然といえば当然である。
彼はあの子にメッセージを送る。
「今度の週末にでも遊びにいかない?」
しばらくして、彼女からの返信が来る。
「え? いくわけないじゃん。ていうか、告白したのは、罰ゲームだからね。勘違いしないで(笑)」
 
彼は騙されていたのである。そして、彼は自分が見世物であったことに気づく。自分としては、だれかがこちらを見て話すのは、自分があの子と恋人になったことが話題に上っているからであると思っていた。しかし、実際には、騙された自分を見てその誰かは話していたのである。
彼は、あの子と自分が恋人である、という事実の下で世界を見ていた。しかし、彼以外の人は、騙されているマヌケな「彼」が存在する、という事実の下で世界を見ていたのである。
 
今までも彼は友達がものすごく多くいたというわけではない。しかし、この出来事で彼は、本当に自分が孤立してしまったと感じた。
 
彼はこういう風に思ったのである。
 
今まで自分の見ている世界が他の人と根本的に違うかもしれないなんて考えたことがなかった。自分は世界のプレイヤーであると同時に、その世界の観客でもあると思っていたのである。しかし、自分だけが世界の中でプレイヤー、いや、ここではむしろピエロであり、周りの人はそれを見て笑う観客だったのである。
自分1人だけが意味もわからないままに周りから見られ、そして笑われるという経験を彼はしたのだった。
 
彼はこの経験によって全てのことが怖くなった。自分が何をしても、その背後に彼の行動を別の視点から笑うだれかがいるような気分になってしまうからである。
 
考えてみてほしい。
自分がしたことが自分の意図したやり方とは全く別のやり方で捉えられ、それを笑う人が自分の背後にいるかもしれないと。
 
考えを突き詰めればわかる。
それを気にすることにいかほどの意味があるだろうか。
 
 
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2018-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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