メディアグランプリ

70歳の友人に捧げる高級パック


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記事:フミ姐(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
2018年3月9日、日本列島は春の嵐に見舞われた。
岩手県釜石市は記録的な大雨で、1万3千を超す世帯に避難勧告が出されるほどだった。2017年春にやっと完成したばかりの繁華街「かまりば」は、膝の高さまで浸水した。
 
テレビでそのニュースを見ていた私は、青くなった。心臓がバクバクした。
のんちゃんのお店がすぐ近くにあるのに!
 
新花巻まで東北新幹線で3時間。在来線に乗り換えてさらに2時間。東京から片道5時間かかる釜石は、やはり遠い。東北の沿岸部はバスでしか行きようがない町も多いから、電車で行けるだけまだいいのかもしれない。でも、アクセスが良いとはちょっと言いづらい場所だ。
 
2年前、釜石仙人峠マラソン大会で釜石へ行ったときにのんちゃんに出会った。
東日本大震災で釜石の町は津波に流され、少し内陸に仮設の呑兵衛横丁が作られていた。その仮設の呑兵衛横丁へ食事に行き、たまたま隣のテーブルに座ったのがのんちゃんだった。いかにも場慣れしていない私たちに、彼女の方から声をかけてくれたのだ。
 
我が家では、4年前から年に1度は釜石へ行っている。
マラソン好きな夫は、わざわざ東北で開催されるマラソン大会を選んでエントリーする。被災地域を訪れ、観光し、食事やお土産の購入や宿泊することで地元にお金を落とす。それが地元への一番の支援になる。
そして何度も足を運ぶうちに、被災地は思い出の地に変わる。
会いたい人ができる。待っていてくれる人ができる。だから何度も通う。
観光ボランティアの醍醐味だ。
 
マラソン大会で東京から来たというと、のんちゃんはものすごく喜んでくれた。
すっかり意気投合して、やはり呑兵衛横丁の中にある小料理屋で深夜まで飲み語った。
観光ボランティアのつもりで訪れていたのに、がっちりごちそうになり、ホテルまで送ってもらって、さらに次の日は美味しい釜石ラーメンのお店に案内してもらうほど仲良くなった。
釜石にも会いたい人ができた。
 
釜石は沿岸ギリギリに位置する海の町だ。
三陸鉄道南リアス線がやっと復旧し、大船渡方面からも電車で来られるようになった。新日鉄釜石の大きな工場が防波堤の役目を果たしているが、震災の影響で地盤沈下が進んでいて、ちょっとした大潮で町なかまで浸水してしまう。
 
のんちゃんの店は、工場裏手の小さなビルの1階にあるスナックだ。
元あったお店は、3,11の津波で全て流されてしまった。仮設の呑兵衛横丁で苦労して働きながら2017年春にやっと新しいお店をオープンさせたばかりだったのだ。
 
のんちゃんにすぐにLINEを送った。
大丈夫? としか言えない自分が情けないのだが、それでも聞かずにはいられない。
「お掃除してるよ~、また遊びに来てけろ~」
 
すぐにでも釜石へ行って、お掃除を手伝ってあげたい。でも新幹線を使っても片道5時間だ。深夜バスを使えば1万円弱で行けるが片道10時間はかかる。仕事もある。すぐには行けない……。
 
何かお見舞いを送ってあげよう。
何がいいだろう?
食べ物?
東京より釜石の方が断然美味しい。
お酒?
いや、スナックのママにヘタな酒なんか贈れないよ。
すぐに役立つもの?
浸水被害の後の清掃に使う消毒用エタノールとか?
自宅ならともかく、店舗は業者さんにやってもらうよね。
今はインターネットで何でも手に入るし……
一体何がいいんだろう?
何か、何かのんちゃんの役に立ちたいのに。
 
震災後、のんちゃんの自宅には娘家族が同居していて、3人の孫の面倒を見ながら夜は自分のスナックのママだ。もうすぐ70に手が届く年齢になってもお店を辞められないのは、やはり震災で受けた金銭的なダメージを補うためだ。
のんちゃんの自宅は全壊だけは免れたものの、津波でひどい状態になった。震災後の混乱の中で金品を盗られたり、お店も流されて、本当に何もかもなくなって絶望したそうだ。
 
だけどね。
生き延びられたからさ。
がんばってがんばって、歯を食いしばって生きなきゃね。
 
のんちゃんがぽつりと言った。
 
地震が来ても浸水を繰り返しても、どこにも行かない。
必ずここに戻って来る。
ここで生きて行く。
 
そう肚をくくった彼女は、本当に男前だ。
もともと美人だが、ものすごくイイ女だ。
 
イヤなことやちょっとうまく行かないことがあると、すぐ離婚だ転職だ引っ越しだって逃げ回っている自分は、なんてちっちゃい人間なんだろう。
情けなさ過ぎて、泣きたくなった……。
 
いろいろ考えた挙句、一般販売していないエステサロン専売品の高級美顔パックを贈ることにした。
ママとして夜お店に出る以上は、どんな理由があっても疲れを顔に出すわけには行かないだろう。いつだってキレイでいなくちゃいけない。
今回は、のんちゃんのお肌を応援することにした。
 
友情、という言い方が正しいかどうか分からないけれど、母と同い年の、遠く釜石に住んでいるこの男前な友人が、少しでも元気になってくれることを心から願っている。
秋にまた会いに行くからね。
 
 
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2018-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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