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メディアグランプリ

カーネーションの棘が抜けなくて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:岩田静香(ライティング・ゼミ平日コース)
 
カーネーションには棘(トゲ)があります。
幼い日に刺さったそのトゲは、大人になっても抜けないまま、
時々チクチクと私の胸を痛めました。
 
「1本はサービスね」
貯めたお小遣いを握って向かった先は、町の小さな花屋さん。
綺麗な店員のお姉さんが、カーネーションを追加してくれました。
 
あれは、小学校4年生の頃でした。
母の日にカーネーションという花をプレゼントする事を
どのように知ったかは定かではありません。
ただ、きっとお母さんが喜んでくれるんだろう。ということはわかりました。
それは生まれて初めてのプレゼント。
お花屋さんに行ったのはいいけれど、買い方もわからない。
とりあえず、持っているお金を見せて「母の日のお花が欲しい」と伝えました。
「お母さん、きっと喜んでくれるね。1本はサービスね」
 
そのお金で購入できるのは3本のカーネーションでしたが、
お姉さんがプラス1本プレゼントしてくれました。
赤と白の4本のカーネーションに赤いリボン。
小さくて素敵な花束が出来上がりました。
「ありがとうございます」
お姉さんにお礼を言いました。
 
仕事と家事に追われる母へ、初めてのプレゼント。
お母さんはどんな顔をするのかしら?
喜んでくれるかしら?
お花を握って歩く帰り道。
少し誇らしげで、少し照れくさかったのを覚えています。
 
「お母さん、あのね、これ母の日のプレゼント」
 
お家に戻って、ドキドキしながら小さな花束を差し出しました。
 
すると、しつけに厳しい母はこう言いました。
「せっかくだけど覚えておきなさいね。4本花は『死にばな』と言って縁起悪いの」
「白いカーネーションは別の意味があるのよ。亡くなったお母さんに贈るもの。だから今度からは赤いカーネーションにしなさいね。花を生ける時や人様に贈るときは気をつけなさいね」
 
丁度いい機会だと思ったのでしょう。
その後、母は新たに買ってきたお花を加え、器に生けました。
流派はわかりませんが、真とか体とか説明し、華道について教えてくれました。
 
もしかしたら、「ありがとうね」と言ってくれたのかもしれません。
けれど、その出来事は、私の中で小さな小さなトゲとなりました。
ずっと心に刺さったままで、母の日が来るたびに胸をチクリと刺しました。
 
あれから約40年たったある母の日に、それを伝えました。
 
母の日にカーネーションをプレゼントして
喜んでくれている様子を見ながら、
なぜそんな昔の事を伝えたくなったのか定かではありません。
 
ただ、その時、私は少しだけ意地悪でした。
 
今は年老いて丸くなり、母の日を素直に喜んでくれます。
でも、昔、厳しい母がどれだけ子供の心を傷つけたのかを知って、
少しだけ反省してほしかったのです。
 
「お母さん、ちょっと聞いてくれる? 初めてカーネーションを贈った時の事、覚えてる?
喜んでくれると思ったのにね、4本は死花やとか、白いカーネーションは死んだ母に贈るんやとか、えらい注意されてたの。喜んでほしかっただけなのにね」
 
引き金になって怒りだすかもしれないと心配はしたのですが、
あの頃子供心に「傷ついた」事を知ってほしいと思いました。
 
そして、わたしは「お母さんにも傷ついて」ほしかったのです。
 
話し終えた時、
母は
母は泣き出しました。
 
気の強い母は、てっきり怒り出すと思っていたので、私は狼狽しました。
 
「ごめん、ごめんなあ。なんて思いやりの無い母親だったんだろうねえ。
辛かったなあ、ごめんねえ」
「なんでもっと喜んであげなかったんだろうね。ごめんねえ」
 
あんな昔の事なのに、本気で泣いて本気で謝る母。
小さな子供を抱きしめるように、私を抱きしめて頭を撫でて号泣しました。
 
私は果たして、母のように素直に謝れるのでしょうか。
昔の事を指摘されて、こんなにも素直に受け止められるのでしょうか。
母のように、何にでも本気でぶつかっているのでしょうか。
有るはずのないカーネーションの棘を刺したままにしたのは私です。
抜く努力をしなかったのは、事なかれ主義の私でした。
 
本気で泣いて本気で謝る母。
私を抱きしめて。
 
お母さんごめんなさい。
ほんの少しだけ、お母さんに知ってほしかっただけなの。
あの時の私に「嬉しいありがとう」と言ってほしかっただけなの。
 
ああ、そういえば、彼女はいつも全力で生きていたのを思い出しました。
喜怒哀楽の激しい、火の国の女である母。
あの頃仕事を持ちながら、家庭を守り、子供たちを立派に育てようと
必死だったに違いないのです。
思い起こせば人にも自分にも厳しくてすぐに怒り、
その分よく笑いよく泣いていました。
私は傷ついた時の事しか記憶に残って異なけれど、
きっとありがとうって言ってくれてたに違いありません。
 
ゆっくりといつの間にか、棘は溶けてなくなっていました。
 
今年も母の日が近づいてきました。
とびっきりの笑顔で迎えてくれる母の顔を思い浮かべながら
花束とプレゼントを選んでいます。
 
今はもう年老いてしまったけれども、
同じように真っ直ぐな、
変わらずに真っ直ぐな母がそこにいます。
 
 
***

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2018-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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