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メディアグランプリ

ジャズの音色が起こした奇跡。車窓の向こうに見えたものは


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:布村さわ子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
 そこは、神戸の小さなライブハウス。今日一日の仕事を終え、明日からは、ゴールデンウイーク。ジャズのセッションが始まり、ベースの重厚な音が体全体をゆさぶる。そこにピアノの音が繊細に、ある時は大胆に重なり合い、うっとりするような空間を紡ぎ出す。数年ぶりのライブ。一緒に行った職場の人達との会話。照明もばっちり、内装も素敵。すべては完璧な週末のはずなのに、目をつぶって、音を楽しもうとした時、見えて来たのは、暗い電車の窓から見える景色だった。帽子を目深にかぶり、顔を見られないように、ひたすら外を見つめている自分もいた。まるで、やってもいない罪で警察に追われていような心もとなさを感じていた。
 
 この4月から、子供達もみな独立し、主人も単身赴任。一人で過ごす家で、唯一の楽しみは、刑事ドラマを見る事。だからと言って、なぜ、ここで自分が、ドラマに出てくる冤罪で終われる容疑者の姿になっているのだろう? ライブは、緩急を押さえたプログラムと、軽妙な演奏の間のトークで進む。他の観客も思い思いに演奏を楽しむ中、私は、不可解な体験をしていた。
 
 楽器の奏でる音をバックに、目をつぶり、流れていく夜の電車の車窓は、いつしか、車の窓から見えるトンネルの風景になる。まだまだ出口は見えない。トンネル内の照明が光のラインとなって流れていく。その光景の中で、ふと浮かんだセリフ。「あなたも、ようやく、好きな事、何でもやれる時が来たね」「これからは、自分の自由に時間を使えるね」子供達の独立を知る友人からかけられた言葉。それが私を憂鬱にし、出口の見えない長いトンネルにいる気分にさせたのだろうか?
 
 友人との会話の場では、雰囲気を壊すまいと笑顔で対応。でも、現実は、楽しいと思う事もなく、自分のためにしたいと思う事も何も思い浮かばない。わざわざ新幹線に乗って、関東に住む息子の部屋を掃除に行ったり、いそいそと娘の新しい部屋の家電の設置をしたり、そんな事なら、次から次に思い浮かぶのに……。
 
 特に4月以降、下の子の卒業で学費の支出がなくなった分、パートの仕事を減らし、週2回の勤務になり、時間を持て余す日々。「何か楽しい事をしなければ。自分の時間を充実させなければ」と、プレッシャーを感じている毎日。なぜだろう? どうして、やりたい事が何も思い浮かばないのだろう。
 
 思い起こせば、小さい頃から、父の暴力が怖くて、自分のしたい事より、人の顔色を見て、周囲に合わせるようになった自分。学校も仕事も、親の期待に沿うように選んだ。そんな自分が嫌で、結婚相手は、自分で見つけたけれど、結婚してからは、主人と義理の両親の期待に沿うように、跡継ぎを生み、かわいがるよりも、長男として立派に育つように子育てをした。子どもの数も親戚にあれこれ言われ、二人目を生む。その子も社会人になり、ようやく、長い子育て終了! 後は、自分の人生を謳歌! となるはずだったのに……。
 
 ふと気が付くと、ライブは、最後の演奏に入っていた。それにしても、なぜ、容疑者になった自分のイメージが見えたのだろう? 明るいタッチの曲も多く、曲調のせいじゃない。理由を考えているうちに、今度は、犯人の特定を間違えて、容疑者を犯人と立証するために、ありもしない証拠を必死で探す刑事たちの様子が浮かぶ。ばかみたい、真犯人は別にいる。証拠なんて、あるはずない。ないものをどれだけ探しても、見つかるわけない。
 
 その時、はっとした。そうか、私も同じだ。ないものをあるはずと思い込み、ストレスを感じながら、探している。ずっと他人軸で生きて来て、自分ではなく、周囲の人の期待に応える生き方をしてきた自分に、今さら、「自分が好きな事をすればいいよ」「自分の自由にしたらいいよ」と言われても見つかるはずがない。だって、そもそも自分がなかったのだから。
 
 刑事ドラマでは、真犯人は必ず見つかる。疑いをかけられ追われていた容疑者は、容疑が晴れ、そこに少し、感動エピソードが加えられ、幸せな結末を迎える事が多い。ライブ会場を後にし、夜風にあたりながら、自分がイメージしたものへの不可解ななぞが解け、安堵感を覚える。そして、気持ちが少し楽になる。ようやく、ずっと抱えていた好きな事を見つけなければ、楽しい時間を過ごさなければという強迫観念から解放されたから。これからは、誰かの期待に応えるためではなく、“自分”は、どんな事に関心があって、何をしてみたいのか、その問いと向き合いながら、少しずつ自分を創っていけばいいだけなのだ。
 
 周囲にこんな人がいないか見まわして欲しい。真面目で言われた事はきっちりするけど、
いつも緊張感を漂わせている。誰かに何かを頼まれると何でも引き受けていつも忙しそうにしている。責任感はあるけれど、肩に力が入り過ぎて痛々しい。その人は自分を失くして他人軸で生きている今までの私と同じかもしれない。そんな人が見つけたら、誘ってあげて欲しい、その人にとって、ちょっと意外で特別な時間に。その時、今まで想像も出来なかったその人自身の気持ちに気づく奇跡が起こるかもしれないから。

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2018-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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