メディアグランプリ

上京とは漁のようなものだ


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記事:関 妙子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「なんで、こんなに晴れてる?」小学校3年生のお正月、関東で行われている駅伝のテレビ中継に夢中だった私は、同時にそんなことを思った。
ふと窓の外に目をやると、灰色の空が頭上に迫ってくるようだった。そんな空から降り続く大きなわたぼこりのような雪、高くそびえ立つ白い壁。
 
私は、日本でも有数の豪雪地帯と呼ばれる地域で、高い山に囲まれて育った。水もきれいで、近所の川では鮎がたくさんとれた。
 
私にとって、テレビの中の景色は同じ日本だとは思えなかった。海沿いを走る選手を追うカメラの向こうには、どこまでも広がる海が陽の光を受けてきらめいていて、高層ビルの上に広がる空は高く青かった。
山に囲まれているという環境面だけでなく、学校や家でも何となく窮屈な思いで過ごしていた私にとって、その景色はキラキラと輝き解放感に溢れ、まるで希望の象徴だった。
 
その時私は、将来は絶対に東京に行こうと心に決めた。
青く広い空と海は心の自由、高層ビルは物質的な豊かさの象徴に見えたのだ。
そんな私にとって、東京に行く最適な手段は大学受験だった。
「地元の大学でも、同じ内容の勉強ならできるでしょ?」「わざわざ、家を出て東京の大学に行く意味あるの?」という声を納得させるだけの、適当な理由は見当たらなかった。
だって、理由は「ただ、東京に行ってみたい」だけだったのだから。
そんな、他人からみたら全く中身の無い理由でも、受験勉強の大きな原動力になった。
両親は、最後まで東京の大学を受験することに納得していなかったと思う。
それでも、「一度は親元を離れてみるのも経験だから」と、東京の大学を受験させてくれ、上京するのを許してくれたことには感謝しかない。
 
大学入学と同時に上京した私は、希望に満ち溢れていた。
小さなホームシックはあったものの、地元恋しさに夜な夜な泣きながら実家に電話をかける同級生を横目に、伸び伸びと新生活を楽しんでいた。
 
雑誌やテレビで観た世界が、目の前にあり、その中で生きている自分に興奮した。
洋服も、小物も、欲しいと思ったものは何でも目の前にあった。
特に大好きだったのは、超大型書店だった。
地元の書店の10倍以上の広さの店内にずらりと並んだ本を見ていると、それだけで、自分の知識が深まり、可能性が広がっていくような錯覚と、言いようもない興奮を覚えた。
 
高校時代と比べて、出会う人の数が増え、色々な人が世の中には居るものだな、と思うような出会いもあった。乗り換えで使用していた新宿駅の人の多さにはげんなりしたものの、人の数だけ道があり、希望があるように思えた。
 
そうして、夢にまで見た雪の降らない、青い空が広がる東京の冬を迎えた。
「ああ、私は東京で生きているんだな」、「長靴を履かなくても良いんだ♪」と、スキップをして駆け出したくなるような気持ちになったものだ。
 
何度か季節は巡り、あれほど憧れだった東京での生活は、すっかり日常になった。
その間、お盆やお正月に帰省はしていた。あんなに閉塞感を感じていた実家や地元だったが、帰省の時間は特に離れて暮らしている分両親への感謝の気持ちが溢れる。それに、山や家族に囲まれているということもあってか、東京にいるときよりも少し気が抜けて安心している自分もいた。あんなに憧れ続けた東京へ戻るときは、上京当初に感じた解放感や希望は感じず、何故か涙が溢れるのだ。私にとってその涙は無理を言って上京させてもらった感謝、東京で一人で暮らす覚悟の証ようなものだった。
 
そんな私にとっての東京での生活は、刺激に満ちて充実しているように思えた。
就職活動を意識し出した頃、大学卒業後は地元へ帰るか、東京で就職するかを考えた。
将来やりたいことや、なりたい自分なんて明確にはわからなかった。
東京にいる私の目の前には、自分が望み、行動さえ起こせば、手に入りそうな距離に、未来もモノもあるような気がするのに、何も得ていないどころか、自分が欲しいものすら見つけられなかった。
「なんで私は何も得られず、何もわからないんだろう?」そう思った私は、全てが手に入りそうで、可能性が多そうな東京を舞台に就職活動を始めた。
 
私は思う。上京して何かを得ようとすることは、漁のようなものなのではないか、と。
東京という大きな海には、様々な魚がたくさん、無限に泳いでいるように思える。
そんな恵まれた漁場で漁をすれば、何かが釣れるのではないか? とも思えてくる。
 
「東京で漁をする」には、戦略と準備が必要だ。
まず、何を釣りたいのかを明確にする必要がある。それによって、準備すべき船のエンジンや設備も変わる。
また、境界が見えない広い海のどこを漁場にするべきかも変わる。
例えば、マグロを釣りたいと思えば、漁場は一か所に固定されないだろうし、
もしかしたらもっと遠くの海に出る準備が必要になるかもしれない。
ヒラメやカレイなら漁場は海底に、アジやイワシならば比較的浅瀬を狙うだろう。
ある程度の目星もつけず、それなりの準備をしないで漁に出てしまうと、あれ程無限にいると思っていた魚だったのに、
「1匹も釣れなかった!!」と、漁を終えざるを得ない時もあるのだと思う。
 
一体私は、何を釣りたいんだろう。もしかしたら、釣りたいのは鮎だった、と気づく時が来るかもしれない。
その時はその時だ。海での漁をやめて、川で鮎を釣ろう。
私の漁は、始まったばかりだ。

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2018-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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