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オススメの「阿波おどり」あります《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:一宮ルミ(プロフェショナル・ゼミ)

「徳島ご出身ですか? じゃあ、阿波おどり踊れるんですか?」
徳島県で生まれ育ったと言うと、たまにこんなことを聞かれる。
残念ながら私は阿波おどりを「踊れる」とは言えない。
でも全く踊れない訳でもない。
小学生の頃は、運動会の種目に阿波おどりがあって、練習して踊ったことがある。
ただ、皆さんが期待するような、美しい踊りは踊れない。
でも、あの鳴り物の二拍子の音を聞くと、血湧き肉躍る気持ちになる。
徳島県民のソウルミュージック。
皆さんが知っている阿波おどりは、美しく、華麗で、一糸乱れぬフォーメーション、全身が躍動する、芸術的なあの踊りだろう。
でも阿波おどりはそれだけではない。

徳島市の阿波おどりは、8月のお盆のころ、12日から15日の4日間に開催される。でも、阿波おどりは、6月くらいから始まっている。連と呼ばれる踊りのグループの、本格的な練習がこの頃から始まるからだ。
公園や公民館、学校など、いたるところで練習が行われている。
仕事帰りに、どこからともなく鳴り物の音が聞こえてくると、夏の到来を感じる。女踊りの女性が、動きやすいジャージやジーンズに下駄と足袋を履いて練習している姿はちょっとアンバランスで、体育会系の部活のような感じもして、あの本番の時の艶っぽさとのギャップが面白いと、見るたびに思う。

さて、いよいよ本番。ここは徳島駅前だ。
いつもは閑散としている駅前も、この日ばかりは、人が多い。お祭りの空気が流れている。お盆休みで帰省して来たであろうスーツケースを下げた若者、買い物客、そして踊りの始まりを待ちきれない踊り衣装姿の踊り子たち。様々な人が行き交う。
桟敷と呼ばれる有料演舞場は、午後6時から始まるけれど、徳島駅近くのあわぎんホールでは、一足先に有名連が、昼から「選抜阿波おどり」と呼ばれる公演を行っている。
チケットは争奪戦だけれど、できればチケットを取って、エアコンの効いたホールで、ショーとしての華麗な阿波おどりを堪能していただきたい。
選抜阿波おどりに出ている人は、どこも練習に練習を重ねた、その連の中でも精鋭揃い。どの踊りも美しくて、見惚れてしまうに違いない。また、ホールの舞台ならではの演出も、桟敷で見るものとは違って、見応え抜群だ。
その構成の妙に、きっと時間を忘れることだろう。

さて、選抜阿波おどりを見終えたら、徳島駅前に戻ろう。
徳島駅をでて右側を見ると、徳島そごうが見える。そごうの2階には、屋外のステージがあって、そごう連が踊っているのが見られるかもしれない。そごう連は、そごうの関係者で構成される連で、「企業連」に分類される連のことだ。この企業連、かなり有名企業が多数、参加している。クオリティも様々。
かつて私も、アルバイトしていた全国チェーンのスーパーの企業連に参加したことがある。徳島店の従業員がメンバーで、閉店後にスーパーの屋上で練習し、有料演舞場でで数回踊った。ちっとも上手くなかったので、木は森に隠せとばかり、踊り集団の真ん中に押し込められて、その他大勢の中の一人だったけれど、楽しかった。

さて、いよいよ本番の時間が近づいて来た。まずは、有料演舞場の桟敷券を買ってゆっくり見よう。
一番よく見える席は、発売と同時に売り切れるので、これもまた早めの入手が必須だ。
演舞場には、様々な連が踊り込んでくる。
名前の知られた有名連をはじめ、企業連、酔っ払ってどんちゃんしているだけの学生連、一方でちゃんとサークル活動として真剣にやっている学生連もある。それから、県外の連、例えば高円寺で踊っている連や関西で結成された連など。また阿波おどりではないけれど、同じ「踊り」の交流ということで、他県の踊りの団体が踊りこんでくることもある。繋がりを感じるいい企画だと思う。
企業連には、その企業のCMに登場する有名芸能人が出場していることもある。有名連は、当然素晴らしい踊りを披露し、学生はただひたすらに若さを爆発させて、踊りまくっている。それもまたいい。
現在の阿波おどりの有料演舞場の桟敷席は午後6時からと午後8時からの2部制になっている。午後6時からの1部を見たら、午後8時前には桟敷を出る。

さて、ここからが、本場でしか見られない阿波おどりの時間だ。
午後8時にもなれば、阿波おどりのボルテージは、クライマックスに向かって、うなぎのぼり。街には浴衣のカップル、家族連れ、観光客、踊り子で肩がぶつかるほどになる。いたることろに屋台が並び、コンビニまでも駐車場でビールを売っている。
ビール片手に、屋台をひやかし、食べたいものを食べ、飲みたいものを飲みつつ移動しながら、有料演舞場以外のいろんなところで、踊り足りない踊り子たちが踊りを披露しているので、それを見つけよう。
私の友人が、毎年、阿波おどりの連で踊っている。
以前、その友人の連が行くところ、ずっとついて回ったことがある。
彼の連も有料演舞場で踊るのはもちろん、次の有料演舞場での出場までの間も、空いている場所を見つけたら、小さな輪になって踊っていた。
踊りの輪は、「見る阿呆」を「踊る阿呆」に変えるパワーがあった。いつの間にか、見ていた人たちが踊りの輪に加わって、踊りの渦ができていた。
踊り終わって鳴り物がやむと、誰からともなく拍手が上がった。
友人の連は、有料演舞場での踊りが全て終わると、今度は、少し離れた歓楽街へと足を進め、歓楽街の細い路地の四つ角に場所を移し、時間が許す限り踊り続けた。通行人も、踊り手も、もう誰が誰だかわからない。ただあるのは、鳴り物と踊りとそれに酔いしれる人々の笑顔。
阿波おどりは、たったの4日間。友人は、そのために準備してきたものを全て吐き出すように、踊って踊って踊って、踊り尽くしていた。

有料演舞場の踊りはもちろん素晴らしい。ケーブルテレビで中継もされているし、全国ニュースにもネットニュースにもなっていることだろう。ぜひ、じっくり見て欲しい。

でも本場での阿波おどりの楽しみは、この有料演舞場以外の小さな踊りの輪にあるのではないかと思う。

以前、父がケーブルテレビの阿波おどりの生中継をを見ながら、嘆くように言っていた。
「昔の阿波おどりは、あんなショーみたいなんじゃなかった。もっと自由に踊りたいように、好きなようにみんなが踊っていた。あれがよかったのにな」
その話を同じ徳島に生まれ育った知人に話すと、知人のご両親も同じことを言うという。
確かにショーのような美しい阿波おどりがイメージにある人の多いだろう。
美しく華麗な踊りは、見るものを魅了し、阿波おどりを芸術の域に到達させている。私もそんな有名連の踊りを見るのが大好きだ。
あんな風に踊れないと、「踊れる」と言えないくらいに完成されている。
でも、阿波おどりの鳴り物の二拍子のリズムに乗せて、手と足を同時に出して踊れば、「阿波おどり」なのだ。本当は誰だって「踊れる人」になれる。

3年ほど前、久しぶりに夫と阿波おどりを見に行った。
有料演舞場から少し離れた歩行者天国に櫓が組まれていた。何が始まるのだろうと見ていると、その櫓に阿波おどりの鳴り物をラップ調にして歌う若者のDJが現れた。
「ヤットサー、ヤットサー」
掛け声は、変わらないけれど、そのリズムがラップ調だった。
阿波おどりってラップになるんだ! 驚きで足が動かず、しばらく様子を見ていた。するとそのラップのノリに調子ついてきた見物客が、櫓の周りを阿波おどりで回り始めた。参加する人の数はどんどん増え、櫓を中心に大きな踊りの渦が生まれた。
踊っているのは、私服や浴衣姿の「見る阿呆」だった人ばかり。踊り衣装の連員は見当たらなかった。
当然、だれも踊りは全然上手くない。ただ、右手と右足、左手と左足を同時にだして、阿波おどりのリズムに体を揺すっているようにしか見えない。けれど、踊っている人の顔には、満面の笑みが称えられ、この日常から切り離された空間で「踊る阿呆」を楽しんでいた。きっと、この時は皆、日頃の頭を悩ますあれこれを忘れて、踊りに興じていたに違いない。
「ヤットサー、ヤットサー」
ラップ調でDJが歌うと、
「ヤットサー! ヤットサー!」
踊りの渦から合いの手が入る。
いつ終わるともなしに、踊りは続いた。
そして、かなり長い時間が経って、音楽がやむと同時に踊りの渦も止まり、次の瞬間、
「ワーーーーーー!!!」
歓声と拍手が起こった。

父の言っていた「自由に踊りたいように、好きなようにみんなが踊る」がここにあった。有料の演舞場の外では、今もなお誰もが自由に気ままに踊れる空間がまだちゃんとある。
それは、かっこよくもなくて、美しくもないけれど、そこに集う人たちの喜びとパワーを感じる素敵な踊りだ。
テレビやニュースでは見られない、ここに来た人にしか体験できない。
そして、この興奮のるつぼは、夜遅くまで続く。

たったの4日間の徳島の一大イベント。
これが終われば、徳島の夏は終わる。
また日常へ戻っていく。

あなたも阿波おどりの本場徳島で、一緒に「見る阿呆」から「踊る阿呆」になって、ひととき、日頃、頭を悩ますあれこれを忘れに来てみませんか。
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2018-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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