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メディアグランプリ

沖縄で、運命の相手に出会ってしまった。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大国沙織(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
旅先で運命の出会いがあるなんて、一体誰が予期しただろうか。
でも、数年前にはじめて訪れた沖縄で、出会ってしまったのだ、あなたに。
その日のことは、まるで昨日のように覚えている。
 
もう今だから正直に言うけど、見た目は一見パッとしなかった。
土っぽさを感じさせるような、素朴な雰囲気。
シュッとしているというよりは、どこかぽってりとしていてあかぬけない感じ。
けれどなんだろう、眺めているだけでどこか癒されてほっとするような、この絶大な安心感は。
それまで全く意識したことがなかったような相手だったけれど、私は彼の魅力の虜になってしまった。
 
私が帰る日が来るまで、まるでこれまでお互いを知らなかった時間を埋めるかのように、毎日食事の時間を共にした。
どれだけ一緒に過ごしても飽きなくて、数日間の旅の間だけでは、まったく物足りなかった。
いまこれっきりで手離してしまったら、きっと一生後悔する……。
そう確信した私は、一緒に帰りの便の飛行機に乗り、彼を無事自分の家に「お持ち帰り」することに成功したのだった。
 
子ども時代の大半を海辺で過ごした私は、もともと四季の中でも夏がとりわけ好きで、沖縄もきっと気に入るだろうなと思っていた。
でも、実際に訪れてみたら、気に入るなんてもんじゃなかった。
見慣れた南房総の藍色の海とは比べものにならないほど、どこまでも透き通ったコバルトブルーの波に、真っ白な砂浜。
あたかも楽園のような美しさに、しばらくは目の前に広がる光景が信じられなかったほどだ。
 
行く先々で出会う沖縄の人は、みな人懐っこくて大らかで、屈託のない笑顔が素敵だった。
地元民の通う美味しいお店、ビーチの穴場、絶景の夕日スポット、なんでも親切に教えてくれた。
独特のなまりのある方言で歌うように喋るので、半分ぐらいしか聞き取れなかったりもしたけど、私は沖縄の人がいっぺんで大好きになった。
 
はじめて口にする沖縄料理も、あまりにも魅力的だった。
ピリッとスパイスが効いていて、いくらでも食べられる美味しさのタコライス。
一口目はほろ苦いのに、なぜかどんどん後引くゴーヤチャンプル。
プチプチした粒が楽しげにはじける、新鮮な海ぶどう。
可愛らしいサイズのスナックパインは、とびきりジューシーで、南国の味がした。
 
ところで、肝心の運命の出会いも、那覇のとある沖縄料理店で起きた。
食事の最中、不思議な幸福感に襲われたのである。
「これが沖縄マジックか……」と思ったが、どうやらそれだけではないらしい。
よく目をこらして食卓の風景を眺めてみると、料理の盛られている器のひとつひとつが、なんともいえない素敵な雰囲気を放っていたのだ。
沖縄らしい、カラフルで面白い形の島野菜をふんだんに使った創作料理が、手作りらしいぬくもりのある彼の上で、ひとつの作品を形作っていた。
控えめで主張しないけれどそれでいて完璧な、調和のとれた美がそこにあった。
 
そう、彼とは、器(うつわ)である。
彼の名を「やちむん」という。
沖縄の方言で、「焼き物」という意味らしい。
まだ沖縄が琉球王国だった400年も前からの歴史があるといわれ、伝統ある民藝品として親しまれている。
土のあたたかで素朴な風合いが残っており、すべての工程が作家さんによる手作りのため、ひとつとして同じものがないのが特長だ。
安心感のあるぽってりとした厚み、大胆でのびやか、色鮮やかな模様使い。
沖縄のゆったりとした風土そのままの姿のやちむんに、私はギュッと心を掴まれてしまった。
 
以前の私は、食事といえば料理の内容が大事で、それを盛る器はなんでもいいと思っていた。
特にこだわりもなく、白いシンプルな器を必要最低限だけ買ったり……。
自分がどんな器が好きかもわからなかったし、そもそも器自体に興味が湧かなかったのだ。
やちむんと出会ったのは、まさにそんな「間に合わせな一人暮らし」も数年経ったころだった。
 
「こんなに心の奥底をくすぐるような、愛らしい器があったとは……!」と感動した私は、食事をしたお店の店員さんにやちむんが買えるおすすめの場所をいくつか教えてもらい、それから数日はやちむん探し一色の旅となった。
昔ながらの老舗民芸店や、若手作家さんの作品が集まる雑貨屋、普通のお土産さんにも。
どこで食事をしても、お茶をしても、嬉しいことに大抵はやちむんで出てきた。
沖縄のそこここに、彼は自然なそのままの形で息づいていた。
 
いざ家に持ち帰って使ってみると、これが想像以上に使い勝手がよかった。
沖縄料理はもちろん、和洋中びっくりするほどなんにでも合うし、器の形状によってはスイーツも意外としっくりはまる。
乗せるものによってさまざまな表情を見せてくれるし、とにかく懐の深い器だとつくづく思う。
大したものが作れなくても、盛り付けが大ざっぱでも、やちむんに乗せてしまえば何でもごちそうに変身する。
多少心が疲れていても、沖縄の海や風を思い出して癒され、幸せな気持ちになってくる。
今では食器棚に並べてあるのを眺めるだけで、その佇まいに心がときめくほどだ。
 
やちむんは土のコンディションや釉薬のかけ方などにより、同じ作家さんが作ったものであっても、全く違った表情になるらしい。
そう、やちむんとの出会いは、まさに一期一会。
それも、多くの人を惹き付けてやまない魅力なのだろう。
 
これまで幾度となく聞かれてきた問い「どんな人がタイプなの?」に対する答えに、いつも困っていた。
人はそんなひとくくりにできるような単純なものではないし、気が合うかどうかなんて、実際に話してみないとわからない。
でも、今ならはっきりと自信を持って答えられる。
いつか結婚するなら、やちむんみたいな人がいい。
ほっこりした安心感があって、いろんな表情を見せてくれて、毎日共に時間を過ごしても飽きない、やちむんみたいな人。
私の大好きなやちむんに盛り付けた料理を、「器が素敵だとより美味しいね」って食卓を囲めるような人。
いつかそんな彼と沖縄を訪れて、一緒にやちむんを選びたい。もちろんペアで!

 
 
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2018-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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