fbpx
メディアグランプリ

親“後悔”したくないから


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大久保忠尚(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
空がとても綺麗な日だった。
雲一つない青空という言葉がそのまま世界に現れたような、透き通った水色に染まった春の天気だった。
そんな水色の中に、淡く、ほのかに染まった桜の花びらが舞っていた。風が吹くたびに、何かを囁きかけるように、花びらは僕たちの前を舞っていた。
 
 
1年前の4月。父方の祖母が亡くなった。
ずっと施設に入っていて、少しボケており、もう僕の事は分かっているのかはっきりしなかったが、体調自体は決して悪くなかったと聞いていた。度々お見舞いには行っていたが、なかなかタイミングが合わず「また今度でいいか」と、次回のお見舞いは先送りにしてしまっていた頃だった。
 
施設から突然両親へ連絡が入り、一度は落ち着いたものの、数時間後に再度体調が悪化し、そのまま祖母は眠りについた。
あまりにも突然だったため、僕がそのことを知ったのはすでに全てが落ち着いた後の深夜だった。
せめてもと思い、僕は配属されたての新部署での仕事を休み、納棺から葬式までの時間を家族と過ごした。
 
葬儀の日は、とても春らしい日だった。
花が好きだった祖母に向けて、桜も菜の花も精一杯咲いているような気がした。
 
お葬式の最後に、喪主である父は語った。
「桜の季節にまた思い出してくれたら、母も喜ぶと思います」
父の涙を見たのは初めてだった。
 
 
 
その数週間後、何年ぶりか分からないくらい久しぶりに、両親と旅行をした。
大型連休に特に予定もなく、両親の旅行の予定に付いて行った形だったが、なぜか僕は素直に行きたいと思っていた。
 
30歳に近い独身の男が両親と旅行とは、端から聞けば少しおかしい話かもしれない。ただ、少しでも父と母のそばにいてあげたいと思っていた。
 
車での旅行中、運転席にはずっと父が座っていた。母は僕に助手席に座るように言い、自然と後部座席に座っていた。
 
久しぶりに両親と過ごす長い時間。
初めは何を話せばいいか分からず、景色を見ながら適当に父の話に相槌を打っていたが、時間が経つにつれ会話が自然と生まれていった。
 
約一週間の旅行中、父は僕と母よりも毎日少し早くベッドに入った。母と二人で話す時間。母は僕に言ってくれた。
「お父さん、おばあちゃんが亡くなってやっぱり寂しいみたいだけど、あんたが旅行来てくれてすごい嬉しそうだよ」
少しだけ親孝行が出来たと思った。
 
旅行中、僕は出来るだけたくさん両親の写真を撮るようにしていた。二人で出かける事はあっても、二人で揃って写真に写る事はなかなか無いと思ったからだ。
父は写真を撮ろうとするといつも表情が固かった。どうやら写ることが分かると力が入ってしまうらしい。たくさん写真を撮り、母は笑っているものの父は表情の固い写真が多かった。しかし、何枚かは父と母の二人が笑っている写真があった。その写真を僕は珍しく現像して両親に贈った。
 
それから一年が経った。
東京の桜はあっという間に咲き、散ってしまった。
 
そして今年の5月の大型連休。
僕は数日間予定を入れず、また両親と旅行に行くことにした。
 
今年も去年と同じ場所へ、父の運転する車で向かった。
昨年の時間があったからだろうか、僕は全く気を使わずに、運転も食事の会計も両親に任せきりで甘えきっていた。
 
30歳になる男がこれでいいのか、と思う部分は少なからずあった。
しかし、いくつになっても僕はこの父と母の「こども」に変わりはないのだ。
だから、せめて「こども」らしく、大人としての気遣いはせずに、過ごすことにしていた。
 
両親と3日間を過ごした後、僕は一人で先に新幹線で東京へ帰ることになった。
5月5日の「こどもの日」まで、僕は精一杯二人の前で「こども」として過ごした。
 
この先、どれだけ両親と一緒の時間を過ごせるか考えた事はあるだろうか。
あまり考えたくは無いが、いつか別れの瞬間が訪れてしまう。
 
一緒に暮らしているならまだしも、一人暮らしをしていたらあと何回出会えるだろう。
出会った時に、何時間一緒に過ごせるだろう。
 
地方など、お互いが遠い距離で暮らしていたら、年に何回実家へ帰れるのだろう。
1年で考えたら、何時間過ごせるのだろう。そして、それはいつまで続けられるのだろう。
 
「また今度でいいか」と思っていたら、その今度が訪れないことがあるかもしれない。
僕はそれを祖母で思い知ってしまった。
 
正直、この歳で家族と過ごす事は恥ずかしい部分も少しある。
しかし、いつかその瞬間が訪れた時に後悔はしたくない。
 
後悔よりも孝行を。
その言葉を刻んで、この数年間を僕は家族と過ごすようにしている。
 
いきなり家族と距離を縮めるのは、やはり恥ずかしいかもしれない。
何かのきっかけから、少しずつ普段出来なかった話が出来ると良いのだと思う。
 
5月13日は母の日で、6月17日には父の日がやってくる。
 
別に特別なプレゼントはいらないのだと思う。
まずは5月にはカーネーションを、6月にはヒマワリを一本持って、両親へ会いに行こう。
それが1番のプレゼントで、親孝行になるはずだから。

 
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2018-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事