メディアグランプリ

スーパーで見つけた思い出


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:高野いづみ(チーム天狼院)
 
 
「おかあさーん! これも買って〜!」
「もー。しゃあないなぁ。今日だけやで」
帰省して何気なく寄った地元のスーパーで、そんな声がふと耳元で聞こえた気がした。
 
引っ越してからたった1ヶ月しか離れていないのに、もうそんな帰省モードに入っているのか、と自分自身に苦笑しながら、見慣れたレイアウトから商品をカゴに放り込んでいく。気づいたらカゴが山盛りになっていたのは、きっとお腹が空いていることだけが理由じゃないはずだ。
 
東京に出てきてから、買い物に対する意識が変わった。予算を抑えて、食材の使い回しができるように。作りおきができるように。これも食べたい……いやいやいや明日も帰りは遅いんだから家で食べれる保証はないから今日は我慢。
お肉は安い時に買って冷凍。家にはじゃがいも人参玉ねぎの常備菜。食材を切らしている日はまぁ袋麺に卵落とせばいいかな……。
スーパーが家の近所にないという要因もあるにはあるが、お金がないことと、初めての一人暮らしだから真面目に暮らさなきゃいけない意識と理想の暮らしとが私をぐるぐると縛っている。
 
実際にこの1ヶ月間真面目に暮らしてみて、息が詰まった。遊びにも行かず、職場と家を往復しながら毎日の食事を無事に用意することだけを考える。休日は体力の回復と溜まった掃除洗濯。新生活の忙しさにかまけてストイックが行き過ぎてしまったのかな、ちゃんとバランス取らないと上手くやっていけないなぁ。なんてのが初一人暮らし1ヶ月めの感想だった。
 
 
GWになり、実家に帰ってくると母は体調を崩して寝込んでいた。
「ごめん、ご飯作れへんかったわ。なんか買って来てぇ」との弱った声に、
「はいはーい」と軽い返事をして近所のスーパーに向かう。頼まれていたキャベツと人参をカゴに入れ、私のご飯は何にしようかな……と棚を眺めている中で、ふと商品が目に留まる。あ、これいつも食べてたなぁ。久々に食べたいな。
あ。この季節にいつも食べてたやつ、どこだったかな。あ、そうこれこれ! 
体が弱ってる時はこれが食べやすいから買っていってあげよう。あとは、えーっと……。
 
新天地の家から遠いスーパーでは欲しい商品を探すのも一苦労だけれど、長年通い慣れた地元のスーパーなら勝手知ったるとばかりに商品をすぐに見つけられる。気づいたらカゴはいっぱいで、我に返ったと同時になんだか懐かしい気持ちになった。まさかこんなところで郷愁を感じることになろうとは。
 
そんなことを考えながら歩いている帰り道でふと気づいた。私のこの息の詰まるような1ヶ月は、母がいつもやってくれていたことだ。
冷蔵庫の中身と、家計の状況と自分のスケジュールを考えながら献立を組み立てる。栄養価が保てるように一週間の作り置きのおかずと、お弁当のことも考えて……。
なんと。同じではなかった。もっと高度なことじゃないか。
 
さらに隣にはちょこまか動く子供がいて、「おかあさーん! これも食べたい買って〜!」と騒ぐ。小さな頃から、20歳を超えても、持ってくる商品を変えながら変わらずねだる。頭の中の計算を完全に乱しにくるその声は、ともすれば腹立たしくてもおかしくないのだが、母は「しゃあないなぁ。今日だけやで」と言いながらもいつも買ってくれるのだ。きっと、そのやりとりを楽しんでいた。自分の頭の中の計算だけではないやりとりを、愛情を持って楽しんでいた。
 
私もいつか、「もー。しゃあないなぁ」なんてやりとりを子供としながら無意識に頭で計算し尽くした買い物を楽しむようになるのだろうか。
 
いつまでたっても母には頭が上がらないと同時に、いつまでたっても、「これも買って〜!」と母にねだりながら買い物に行きたいと思った。
 
 
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2018-05-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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