メディアグランプリ

畑という戦争


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ケンタリート (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「トマトはだめよ!」
2軒先に住む、一人暮らしのおばあちゃんは言った。
 
「トマトをやるために、おばあちゃんのところで畑を借りたようなものだけど、シカも猿も来るし、残念だけど諦めようか」
「ピーマン、ナス、唐辛子なら大丈夫じゃない?」
 
妻と僕は2年前におばあちゃんに畑をかしてもらった時、こんな会話をしたのを覚えている。
 
僕らが初めた畑、おばあちゃんのアドバイスがなければ僕らの被害は大変なことになっていただろう。
 
畑とは小さな戦争だ。
 
今から考えると、畑をはじめる前からその戦争は始まっていた。
 
僕らの小部隊は妻、愛犬のアス―と僕の2名と1匹のチーム。
 
庭にあるイチジクが丁度熟してきて、収穫しようと思った矢先に、猿に持って行かれたのだ。おまけに僕らの部隊を被害から守ってくれるはずの元猟犬であったアス―も失うところだった。
 
アスーは猿をみて大興奮。ワンワン吠えながら、猿を猛ダッシュで追いかけ、視界から消えていたのだった。
 
そして、そのまま一晩帰ってこなかった。
 
猿を夢中で追いかけ、貧血を起こしたか、高いところから落下して、痛みでしばらく動けなくなっていたのに違いない。恐らく、辺りが暗くなったのでその場で回復を待ちながら野営したのだろう。
 
三本鍬に農業用一輪車、ジョウロなど、戦争に必要な「武器」一式をおばあちゃん借りることが出来た僕らは、畑を耕した後、ピーマン、ナス、唐辛子、オクラの苗を植えた。
 
僕らの畑における最初の被害は、オクラであった。最初は葉っぱがシカに食べられ、続けて苗の茎も含めて大部分が食べられてしまい。オクラを収穫するという夢は、はかなく散った。
 
次にやられたのは、ナスだったが、その前兆はあった。
 
畑の隣にある梅の木になる葉っぱが食べられてしまったのだ。木にはそれなりの高さがあったが、シカたちは前足を上げ(これは僕の想像であるが、恐らく間違いない)て、枝についた柔らかい葉を食べたのだ。
 
夏の間の畑作業も楽ではない。
 
戦いは忍耐を必要とした。いくら虫除けをスプレーしようが、肌を露出すれば蚊や得体の知れない虫にさされた。肌を隠し、厚着をすれば、大量の汗により熱中症の危険性が高まった。
 
ようやく収穫できそうになったナスも、いくつかは見事にシカに噛じられた。それとは対象的に、ピーマンと唐辛子はシカや猿たちも流石に味が苦手らしく、全く手をつけられずに豊作となった。
 
シカや猿の被害を受けながらも、自分たちの手で自らの食物を作ることで、ほんの一年であったが、多くのことを発見した。
 
畑で経験した、自然との戦争(かなり大げさな言い方だが)は、人生そのものの様に感じた。
 
「人生とは自分がつくるもの」
 
食物を手に入れたい時、育っているところに採集にいくことも、マーケットに買いに行くことも出来るかもしれない。でも、手に入れたい「食物」が自分ならではのものであった場合、自分で苗を選び、畑を耕し、水を上げ、自らの手で育てる必要がある。
 
誰も自分人生という畑を他人に耕してもらうことは出来ない。暑い夏に元気がなくなることも、苗が病気になること、虫に食われることもある。上手く成長しても、収穫間際に、猿に奪い取られることだってあるだろう。
 
雑草だらけの自然農法を好む人もいれば、バッチリと化学肥料を使って育てたいと考える人もいる。
 
いろんなひとの人生と同じだけの多様性がある。他人の畑に関して、あーでもないこーでもないと沢山の意見を持っている人、自分だけの素敵な畑、土壌づくりにフォーカスし、とても健康的な畑を準備する人もいる。
 
その植物にとって適切な環境を提供してあげることができれば、その分収穫は確実なものになる。もちろんそこに「絶対」は存在しない。環境が恵まれていても、正しい種をまかなくては、雑草が生えるだけだ。正しい種や苗をまき、環境さえ整っていれば、後は自然がゆったりと面倒を見てくれる。
 
僕らは今年、家の隣の土地に畑を作った。もちろん今回は畑を簡易フェンスで、ぐるっと一周させた。シカや猿が来るのを分かっていて、見ないふりはできない。
 
ピーマン、唐辛子、ししとう、ナス、ゴーヤ、きゅうり、ズッキーニ、そして念願のトマトの苗も植えた。
 
収穫した野菜を楽しむのは、しばらく先のことだろう。はたして、今回は無事に収穫できるのか。
 
後は自然に任せ、気長に待つことにしよう。

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2018-05-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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