メディアグランプリ

仮面を取ってみたら、面の皮は分厚かった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:吉村心音(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「お名前は?」って聞かれると「あれ、私誰だっけ?」と戸惑う。
 
場面に応じて色んな名前を使い分けているからだ。
ズボラな私には管理しきれておらず、この場面ではどの名前を名乗っていたのか戸惑ってしまうのだ。
 
色んな名前を名乗るようになったのには、二つ理由がある。
 
一つ目に、私の生まれついた名字と名前は超珍しいから、良くも悪くも特定されやすいのが嫌だった。
名字は漢字3文字で音は5文字。名前は漢字2文字で音も2文字。
まず、フルネームを漢字で書くと、どちらが名前か名字かもわからないと言われるし、どこで区切るか戸惑われることも多い。
どんなに滑舌よく発音しても大抵聞き返される。7文字のフルネームをどう発音したら普通っぽく聞こえるか涙ぐましい努力をしたが効果はなかった。
珍しい固有名詞は一度では耳に入ってこないものだ。
 
名乗る機会は沢山ある。
聞き返されるたびに私は、ロボットのように「さしすせその“す”に、あいうえおの……」と今まで何千回としてきた説明を繰り返す。
 
性別も判断しづらい名前なので、女性専用エステの予約の際など、まずは性別から説明しなければならない。それから名字と名前を説明する。そして「変わっていますね」という類の感想に失礼のないように受けこたえる。
男性向けダイレクトメールが送られてくることも多々ある。
「紳士服なんて、買わんわ!」と毒づきたくなる。
“素直に生きるように”という名前の由来だけは気に入っているが、すぐに読めて性別もわかってかわいい名前にどれだけ憧れたことか。
 
親は珍しい名前をつけておきながらよくこう言っていた。
「悪いことできない名前ね」
新聞に載ったら珍しい名前だからすぐに私が特定されるという意味だ。
子供心に、特定されるのが怖かった。
 
日本では明治時代に戸籍制度ができてから、名前を勝手に変えられなくなってしまった。
名前は自分が一番よく使うものなのに、なぜこんな受け身で決められるのか、と制度を恨みがましく思った。
「成人したら自分の決意を表す名前に改名できればいいのに」と思った。
 
大人になって、同じ名字の人がどれ位いるのかを調べたところ、全国でおよそ370人。
名前はFBで調べてみたら7人いた。私以外は全員男性で、名前の読み方も色んな読み方があった。
それくらい珍しい名字と名前である。
 
大人になると、他人に名乗る機会が増えてくる。
レストランの予約をする時、偽名でも確認されないし不都合がないと知ったときは嬉しかった。
私は、憧れの名前を恐る恐る名乗り始めた。
 
「有栖川 麗華(ありすがわ れいか)」
「伊集院 里桜(いじゅういん りお)」
 
憧れの名前でも、つい平凡ではない側に寄ってしまうが、これは聞き返されても全然嫌な気がしない。作り物を聞き返されても私自身は傷つかない。自ら選んで作って名乗っているし、うっとりするような綺麗な漢字と響きに、麗しい人になったような気分になれた。
名が体を表すように、優雅に振る舞いたくなってくる。
こうして、憧れの名前を名乗ることにより、私は名前コンプレックスを発散する機会を得たのだ。
 
決定的に本名を使わなくなったのには、もうひとつ大きな理由がある。
 
通販サイトや習い事の支払いから個人情報やカード番号が漏れる被害に3回も遭った。
それから用心のため、買い物をするサイトごとに名前を変えるようになった。
 
だから名前を聞かれると答えに詰まってしまうのだ。
 
これは、色んな顔を持っているのと同じだなと思う。
 
仕事ではテキパキ頑張り屋の顔になり、家に帰ると気を抜いてダラダラモードになり、子供とふざけていたのに、学校から電話があった途端にキリっとしたお母さんモードに変身。色んな仮面をつけて生きていると、「本当の自分がわからない」という感覚になりやすい。
 
心理学ではこの仮面のことをペルソナと言う。
ペルソナとは周りの人に向けてつける仮面のことだ。
 
大人になるにつれて、周りに適応していく為に仮面をかぶりはじめる。
自分で嫌だな、人に受け入れられないなと思うところは隠したり、いい所はよりよく見せていくのが仮面だ。全ての仮面は、自分を守るために作っているのだ。
 
私は人生でツラかった時には、仮面をいっぱいつけていた。
一番分厚かった仮面は、幸せそうに見せる仮面。ツラくてもニコニコしている仮面。
本当は、泣きたいくらいツラくても、変なプライドがあったり、同情されるのや憐れまれるのが嫌で、必死に幸せそうに見せていた。
「幸せそうでいいね」と望み通りのことをよく言われたが、「本当の私は違うのに……」と、仮面をかぶった自分を褒められた気がして虚しかった。
仮面で隠している癖に、本当の自分をわかってもらえないような孤独感を感じた。
 
作り物の仮面が代わりに頑張ってくれていると、本当の自分は守っていられる。
が、仮面が分厚くなりすぎると、重いし息苦しくなってしまう。
 
私は、息苦しくなった時に初めて、沢山の仮面をつけていたことに気付いた。
幸せそうに見せる仮面。笑顔の仮面。いい人の仮面。断らない仮面。頑張り屋の仮面。
私は、時間をかけて沢山の仮面を外していった。
 
ありのままの自分で行くのは、時には恥ずかしいし傷つくけれども、その度に強く逞しくなっていった。面の皮が厚くなるとは、このことだと思う。
 
今の私は、仮面は薄くなり、その代わりに面の皮がだいぶ厚くなっている。
必要以上に自分をよく見せようとしないし、ありのままでいるから心地よくいられる。
 
相変わらず、自分の名前はわからなくなるが、本当の自分は見失わないでいる。

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2018-05-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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