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プロフェッショナル・ゼミ

ジンのような女になりたい《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:松尾英理子(プロフェッショナル・ゼミ)
「松尾って名前の人は、先祖がお酒の神様だからね。お酒強い人が多いって言われてる」
随分前になるが、会社の先輩にそう言われて初めて知った。私は結婚してこの苗字になったから知らなかったけど、松尾という苗字の人は酒豪が多いらしい。そういわれる理由は、京都の嵐山エリアにある松尾大社の存在だ。ここは古くから酒の神様として広く信仰されてきた神社。だから、松尾という姓を持つことで、酒の神様のご加護があると言われているらしい。

お酒の神様に見守られているはずの私は、人生で一体どのくらいのお酒を飲んできただろう。ワインは5000本くらい、カクテルは1000杯くらい飲んでいるかもしれない。日本酒や焼酎、ウイスキーの杯数も、合計すれば多分4桁超えている。私の人生、まさに酒まみれ。でも、お酒の神様に見守られているからか、お酒の大きな失敗、つまり記憶をなくしたのは、人生で1度だけだ。

もう何十年も前のことになるが、会社の歓送迎会で今まで飲んだことのないような極上のお酒がいくつも出てきた。嬉しくて美味しくて次から次へと杯が進んでしまった。先輩がほとんどだったその会で気が張っていたのか、あまり酔った気はしていなかったのに、解散した後、歩き出したところまでは記憶があるのに、いつの間にか記憶がぷっつり切れていた。目覚めたら、朝方。私は一晩コンクリートの路上で寝ていたのだ。強烈な頭痛とともに顔にはコンクリートの模様がくっきりとついていた。何度振り返っても寒気がする、若い頃の情けない思い出。

その頃はまだ若い女の子だったわけで、襲われていてもおかしくなかった。
それに路上で寝ていたのだから、車に引かれてしまう可能性だってあった。
たった1回の失敗が、取り返しのつかないことになったかもしれない。

記憶に残らないような飲み方をしたから、いつも守ってくれていたお酒の神様に見放されてしまったに違いない。一生、いい酔っ払いでいたい。私は心の中で、お酒の神様と約束した。
これからは、もう記憶に残らないお酒は飲みません。
飲む時は大事に、一杯一杯記憶に刻むようにお酒を飲みます。

それから数十年。私の人生の思い出のほとんどにお酒が登場し、思い出は積み重なってきた。
うまく付き合えば、お酒は人生の強い武器になることも知った。

私を守ってきてくれたお酒。そして思い出として記憶にたくさん刻まれている大好きなお酒の中の一つ。それが、ジン。「ジン」という音の響きを聞くだけで、その香りを思い出し愛おしい気持ちになる。ジンは、私の人生にずっと寄り添い続けてくれている、そんな存在だ。

ジンは、ジュニパーベリー(ネズの実)をメインに、コリアンダーシードやアンジェリカなどのボタニカル素材をいっぱい使った香り高い蒸留酒で、もともと、オランダやイギリスでは薬用酒として親しまれてきたお酒。あまりメジャーなお酒ではないけど、恋に仕事に、友達との時間に、お酒を通じてこれからいろいろな経験をするであろう若い女子達へ、ジンはオススメしたいお酒の一つでもある。
なぜなら、ジンは恋愛にも仕事にも穏やかに効くお酒だから。

大学生になってすぐ、憧れていた人はいつもジントニックを飲んでいた。だから私も真似して飲んだ。
その時感じた香りが、うっすらと今も記憶に残る。
「ジントニックはさ、ビリー・ジョエルのピアノマンの中にも出てくるんだよね」
当時流行っていたビリー・ジョエルの名曲を聴きながら、そう教えてくれた。だからなのか、今でもビリー・ジョエルを聴くと、ジン・トニックが飲みたくなる。

その後、数々の失恋の痛みに苦しみながら過ごした20代は、江國香織の小説が大好きだった。彼女の小説には、ジントニックが頻繁に登場した。江國さんはきっと、ジントニックが大好きだったのだろうな。話の設定が自分に少し似ていて共感してしまった小説「ホリー・ガーデン」では、主人公の果歩は、バーに行くと必ずジントニックを頼んでいた。その頃「一人でバーに行く」ことがマイブームで、私も主人公気分で、ジントニックやジンを使ったカクテルを頼んで悦に入っていた。特に、疲れている時や悩んでいる時は、心にジンが染み渡った。

最近、ジンの香りのアロマオイルが出たと聞き、調べていたら、ジンが心に染み渡る理由が分かった。ジンの原料である、ジュニパーベリーという植物に由来するさわやかで甘い香り。その香りの一番の効能は「浄化」つまりデトックスだった。ネガティブな気持ちやわだかまりを押し流してくれる。心を暖め、強くする。そんな効能があると知って心底腹落ちした。

ジンは、20代の私の、苦しむ気持ち、悩める心を癒してくれていたんだね。
ありがとう、ジン。

そして仕事でも、ジンは私にとって、なくてはならないパートナーでい続けてくれている。
会社の飲み会の二次会や接待で、バーや小さなクラブなどに連れて行かれる時がある。
そんな時、甘系のカクテルやハイボールって少しつまらない。でも、ウイスキーだと少し可愛くない感じ。そんな時は、ジンを頼む。それも銘柄名で頼む。
「すみません、ビーフィーターをソーダで。それとライムを絞っていただけますか」
超カッコいいんですけど。そう思いながら、オーダーする。

赤い制服を身にまとったイギリス衛兵のラベルがカッコいいビーフィーター、水色の透明ボトルが美しいボンベイサファイヤ。最近では、日本で作られたクラフトジンもある。ジンは、ずっと眺めていたくなるようなボトルに入ったものが多い。だから、デザインが気に入ったボトルの銘柄をいくつか覚えておけばいい。それだけで、「あ、こいつ酒知ってるんだ」って思われる。そうなると「酔わせてやろう」なんて思えなくなるから、若い女子達は自分の身を守ることにもなる。

また、会社勤めをしていると、歓送迎会に忘年会そして接待と、年間通じて飲む機会、いわゆる飲みニケーションがたくさんある。飲み会が多い時はあっという間に1ヶ月で2キロオーバーとか、そんなことを繰り返しながら年を重ね、どんどん横に巨大化していく同僚たちを数多く見てきた。

この飲み会太りを防ぐにも、ジンは活躍してくれる。お酒はエンプティカロリーというけど、やっぱりお酒を飲むと食が進んでしまう。でも、せっかくの会合でお酒の量をあまりにセーブしたりすると、お酒好きが全員に知れ渡っている私の場合は特に「えー、何で飲まないの? 具合でも悪いの?」と心配されて、とっても面倒くさい。それに、接待の時には、ご一緒している方々に対して失礼にあたってしまうこともある。

だからそんな時は、ジントニックかジンソーダを頼む。そしてお店の人に小声で「できればジンの量少なめでお願いします」と頼む。ちょっとした手間にはなるが、その一杯で1時間はもつ。透明だから薄く作ってもらってもわからない。氷が入っているから、飲んでも量が少しずつ増えていく。酒量をセーブしたい時には、場をシラけさせることもなくのめるスマートなお酒としてオススメだ。

そして、ジンはおうちに一本あるだけで、たくさんの種類のカクテルを作ることができる万能なお酒。家に友達を呼んだ時、ホームパーティなどでこんなに重宝するお酒はない。
トニックウォーターで割れば、ジントニック。ジンジャーエールとレモンジュースで割れば、ジンバック。レモン味のソーダで割ったら、トム・コリンズ。オレンジジュースで割ればオレンジフィズ。プレーンなソーダと割ったらジンリッキー。ああ、たくさんありすぎて止まらない。
どうしてこんなに、どんな素材にも寄り添うことができるんだろう。ジンってやつは。

だから私は、ジンのような女になりたい。
一緒にいるだけで、相手を癒し、浄化してくれるような存在。
一緒に組む人に柔軟に合わせて、よさを引き出してあげる存在。
でも、自分自身の個性もしっかりある。

人生後半は、ジンみたいな女を目指すそう。
まさに「ジン生」だ。
今日もジンを飲みながら、笑ってそう決意した。

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