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暴力とちょろがしのカクテル  映画「孤狼の血」


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記事:瀧本将嗣(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「おう、お前何年生になったんや?」
「……2年生」
「ち○毛はもう生えたんか?」
「……」
 
ちょろがしだ。
下品ないじりで、いつも会うたびにちょろがされる。
毎年毎年、このやり取りがあった。
 
僕が小学生の頃、両親は共働きだった。
だから夏休みになると、きまって祖父母の家で過ごした。
当時東京で大学院生だった叔父は、夏になると広島の呉に帰省していた。
必然、夏休みには若き叔父と会う。
彼の挨拶は決まって下品なちょろがしだった。
年上の人との関わりには、たいてい強烈なイジリがあった。
広島の一部の地域でそれを「ちょろがし」という。
 
そんな僕は大学生になると、夏休みには朝からパチンコに並んだり、建設現場でのアルバイトに明け暮れた。
 
「お前はホンマに広大(広島大学)の学生か? パチンコとバイトばっかりで、天婦羅学生じゃのう」
「天婦羅学生ってなんですか?」
「広大なのにそんなことも知らんのか。天婦羅学生いうんは、見てくれだけで中身がないことよ」
 
バイト先の社員の人たちからよく、ちょろがされた。
 
 
そんな僕も、今では東京にいる方が広島にいた時よりも長くなった。
ちょろがされることは、なくなったが息子に対しては、ついついちょろがしてしまう。
息子が思春期になると生意気な口のきき方をするようになったが、僕は一方的に押さえつけるのではなく「ちょろがし」で、いなしてきた。
おかげで大きな対立もなく思春期は過ぎていった。
そして息子は現役で東京の某国立大学に入った。
かたや僕は広島大学、しかも2浪で。
地方国立大学の広大は旧国立大学群では全国でも偏差値は真ん中くらい。
キャンパスは田舎にあり、のんびりしたもんだ。
有名人を数々、輩出しているわけでもない。
特徴がないのが特徴だと自虐的に思っていた。
息子は学歴では完全に親父を超えている。
しかし親父の沽券は保たなければならない。
息子をちょろがしながらも。
 
そんな僕が最近見た映画が「孤狼の血」だ。 
 
広島は呉が舞台のヤクザ映画
東映が久しぶりに放つ、「仁義なき戦い」の流れを汲むエンターテイメント作品だ。
 
自主規制が世にはびこり、何かに忖度している昨今、R15+指定でここまでやるのか。
ここまで表現するのか。
脂ぎった汗と、血と、暴力の匂いとがスクリーンから溢れ出す。
 
残酷な暴力シーン
死体などの特殊メイクはリアルで思わず目を背けたくなるほどだ。
見せてもらったぞ、これが東映の本気か。
しかし同じくらい劇場から笑いも起きる。
これは「仁義なき戦い」でもそうであったが、下品で愛嬌のあるちょろがしたセリフのおかげだ。
「仁義なき戦い」では「牛の糞にも段々があるんで」と物事の序列のことをそう例えるように「孤狼の血」でも、ちょろがした名台詞が多い。
啖呵を切る緊迫したシーンにも、あえてちょろがしたセリフが入る。
これが逆に、怖さを倍増させるし残酷なだけの印象にならない。
 
恐怖と笑いのジェットコースターで脳髄がシェイクされる。
そしてできたのがエンターテイメントのカクテル「孤狼の血」だ。
名作品には名セリフが多い。
この「孤狼の血」にも名セリフが多い。
もう面白くならないはずがない。
 
作品では警察と極道、そして警察・極道の中でも上層部と末端が、それぞれの正しさを信じ貫き通す。
正義とか悪とかという、くくりではない。
何が正義で何が悪かもない。
ただただ、自分にとっての正しさ
あるいはエゴといってもいいかもしれない、それらが激しくぶつかり合い軋む。
 
一体、何を信じていいのか?
一体、誰を信じていいのか?
 
松坂桃李演じる新米刑事
広島大学を出ながらキャリアには進まず一兵卒から刑事になった変わり者。
役所広司が演じる破天荒な上司とバディを組み「広大、広大」とちょろがされる。
「おい、広大!」と役所広司が松坂桃李に怒鳴るたび、いちいち広島大学出身の僕はピクンと反応してしまう。
とにかく役所広司が荒々しく、極道よりも滅茶苦茶なのだ。
捜査のためなら、荒っぽいことはなんでもする。
やってることはほとんど極道と変わらない。
ただ、自分にとっての正しさが違うだけだ。
そんな役所広司が威勢のいい広島弁と、映画「この世界の片隅に」のような柔らかい広島弁とを使い分ける。
言葉の硬軟と緩急が、とにかく巧みなのだ。
ああ、こんなおっちゃん広島におるおる、と思わずニヤニヤしてしまう。
同様に組長役を演じる石橋蓮司
仁義なき戦いの金子信雄を彷彿とさせる怪演だった。
彼の名セリフは今年の流行語大賞に是非ぜひにもノミネートしたい!
いや、されないか。
もしされたらビックリ・ドッキリだ。
しかしそれくらいのインパクトを残した。
 
またインパクトといえば今回、極道役を初めて演じる江口洋介と竹野内豊。
これから彼らのキャリアで新たな地平が切り拓かれたに違いない。
もともとイケメンの彼らが歳を重ね、凄みと厚みが出てきた。
他にも俳優陣は豪華で、これだけしか登場シーンないのにこの人使うの? という無駄遣いぶりがゴージャスだ。
もし原作の続編である「凶犬の眼」が映画化されたら、楽しみで仕方がない。
 
とにかくも、見終わった後は「はぁ〜」という疲労感と充実感に包まれる。
あまりにも楽しめたので2度目には息子と一緒に観た。
 
「いやぁ、やっぱり広島弁って、ええねぇ。でも広島の人ってみんな、あんな感じにちょろがすんじゃね。ちょろがすのはお父さんだけかと思っとった」
 
ニヤリ
 
「まあ、昔の広島のおっちゃんはあんな感じよ。それはともかく、これからは広島大学の時代がくるかもしれんで。なんせこの映画で広大は松坂桃李の出身校になったけぇね」

 
 
***

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2018-05-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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