ところ変われば鼻変わる
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:遠藤貴子(ライティング・ゼミ平日コース)
外国人、特に欧米人をさっと絵に描くとき、三角形のとがった高い鼻をつけることが多くないだろうか。
それぞれの国の歴史やグローバル化の影響など、さまざまな事情で世界中のあちこちに住む人が多いとわかっていても、やはり欧米人というと青い目に金髪、高い鼻を思い浮かべてしまう。
わたしもそうだった。
子どものころから翻訳された本を読んだり洋画を見たりするのが好きだったので、高くてすっきりした鼻に憧れてもいた。
オードリー・ヘップバーンやジュリー・アンドリュースを見た後に自分の小さな鼻を確認しては、鏡の前でため息をついたものだ。
そして鼻のコンプレックスが、いつの間にか欧米人全体にどことなく感じるコンプレックスに進化していた気もする。
その後イギリスで暮らすようになると、鼻の高い人達に囲まれて、初めはうろたえた。
しかしだんだんとヨーロッパにもいろいろな鼻の形があるのだと気付き始めた。
必ずしもとがった三角形の鼻ばかりではない。
ぽってり肉付きのいい鼻の人もあるし、意外にしっかり横に張り出した鼻の人もいる。
童話に出てくる悪い魔法使いのように、高すぎるワシ鼻の人も本当にいる。
それでもふとした拍子に、例えばコーヒーショップで見かけた美人のお姉さんの鼻が高かったりすると、その美しさはやはり美しい鼻から来ているのかもと感じてしまうことも多い。
われながら、なかなかしつこい鼻コンプレックで苦笑する。
ちなみにイギリス人の夫の鼻も、とても高い。
わたしたちがおそらく真っ先に思い浮かべる「外国人の高い鼻」で、横から見ると絵に描いたような三角形だ。
だから、わたしは夫をたまにクチバシくんと呼んでいる。
結婚したばかりの頃、日本の友人にクチバシくんを紹介した。
そのときの友人の第一声は「やっぱり鼻が高いなあ!」だった。
子どものような感想だが、とても無邪気な人なのだ。
もちろん彼は思い切り褒めてくれたつもりで、僕もそうなりたい、うらやましい、と言っていた。
友人と楽しく過ごした後、夫と二人になって、「鼻が高いっていう第一声は彼らしいなあ」と笑っていたら、「僕は日本人に慣れているから気にならないけど、本当はあまり嬉しくない言葉だよ」と夫が言った。
え? 鼻が高いって褒め言葉じゃないの?
「鼻が高いっていう言葉は英語にはないし、変に英語で言おうとすると鼻が大きいっていう意味にもとられちゃうと思うんだけど、鼻が大きいってすごく失礼な言葉なんだよ」
驚いて調べてみると、確かに「鼻が高い」「鼻が低い」という英語はないようだ。
そしてやはり鼻が大きいと人に言うのはとても失礼なことらしい。
だから褒めたつもりで、トール・ノーズですね、と言ったりすると、鼻が目立っていて大きいという意味にとられて、失礼な人だと思われる可能性があるというのだ。
それは大変! では、どう言えばいいのか。
鼻の高さが大きさにつながるなら、そこには触れないとしても、やはり鼻筋の通ったすっきりした鼻は美しい。
鼻の形がきれいだから褒めたいと思ったらどうすればいいかと夫に訊くと、「鼻の形がきれいだね、って言えばいいじゃん」とのこと。
なるほど。
調べてみると、「きれいな鼻」という言い方は使っても大丈夫のようだ。
それ以来、あまり人の鼻の形には触れないようにしているが、あまりにも美しい鼻に出会ったときには、「まるで彫刻みたいにすっきりしていてきれい」と具体的に褒めるようにしている。
ちなみに横から見ると三角形の高い鼻を英語ではローマン・ノーズ、ローマ人の鼻、というそうだ。
古代ローマ人に多い形だったのだろう。
このローマン・ノーズを持つ人がヨーロッパには多いからか、鼻が高いことが特にすばらしいという感覚自体がないらしい。
それに高い鼻はちょっとケンカしたりぶつかったりしただけで折れたり曲がったりやすく、実用的にもよろしくない。
若いときのやんちゃで鼻を折り、今も少し鼻が曲がっている人をわたしも2人知っている。
鼻に興味をもってあちこちの友人と話題にしていたら、ヨーロッパや中東では、なんと鼻を低く小さくする整形手術さえ人気が高いこともわかったきた。
なに!? 低くて小さな鼻が人気!?
そういえば、わたしが夫に「クチバシ」と名付けたとき、夫は「ふんっ! じゃあ、きみはボタンだ!」と悔しそうに言ったのだった。
もちろん花の牡丹ではなくて、洋服についているボタンのことのことだ。
ブタのような鼻を想像したわたしはガックリきて、夫の毒舌を呪ったものだったが、小さな鼻がよいとされるなら、ボタンも悪くないはずではないか。
そう思ってから、わたしの鼻コンプレックスもほんの少しだけ和らいだ。
ボタンの鼻、結構、結構。
ちょっとぐらいぶつかっても曲がりにくい強さがあるのだ。
ところ変われば理想の鼻の形も変わる。
気楽にいこうではありませんか。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
http://tenro-in.com/zemi/47691
天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら
天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
【天狼院書店へのお問い合わせ】
【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。