メディアグランプリ

¥1万円札とパンツ¥


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記事:かい(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「え!? 何をしてるんですか?」
衝撃の光景であった。
なんと、目の前で、会社の先輩が1万円札を破りだしたのだ!
 
それは金曜日の夜に、先輩と二人で居酒屋で飲んでいた時だった。
その日、私はある誰にも打ち明けられなかった悩みを話した。
「今、流行っている仮想通貨に手を出してしまって大きな損失を被り、容易には返せる金額ではない借金を背負ってしまいました。借金を抱えながら生きていく未来が見えません」
そんな時だった。
先輩がおもむろに自分の財布から取り出した1万円札を破りだしたのは……。
「君はなぜお金が欲しいの? こんなに脆く、簡単に破れてしまう1万円札に何を見出しているの?」
もちろん、お金について漠然と考えたことは何度もあった。
が、しかし、質問に対して答えられない。
そもそも、なぜ自分は仮想通貨に手を出したのか?
一儲けして働かなくても生きていくためか?
漠然と不安を抱える老後のためか?
お金持ちになって女性にモテるためか?
 
物心がついた時から何気なく遣っていたお金。
思い返してみると、お金でいろんなものを買っていく中で、徐々に、お金には絶対的な力があると信じ込まされてきたのかもしれない。
小学生のとき、100円の力はとても大きかった。なぜなら、100円あれば駄菓子屋に行って、いろんなお菓子を組み合わせて買えたから。
高校生のとき、1,000円の力はとても大きかった。なぜなら、1,000円あれば友人とファミレスで食事したり、カラオケに行けたりするから。
大学生のとき、5,000円の力はとても大きかった。なぜなら、5,000円あればサークルの飲み会に参加できるから。
昔は、お金はあくまでも目的を達成するための道具であったような気がする。
しかし、社会人になり、数十万単位のお金を稼ぐようになり、いつしか、買うことより、集めることが人生の目的にすり替わっていった気がする。
集めても、集めても、満足することのないお金。
 
そこで先輩は、「今、自分が所持しているモノの中で、この1万円札の端切れと等価なものはある?」と、破れた1万円札の端切れを渡して聞いてきた。
私は財布の中はもちろん、カバンの中や、ポケットの中を探ってみた。
しかし、どれもこれも、何かしらの目的を持って所持しており、1万円札の端切れほど役に立たない、無意味なものが見つからなかった。
私は、「見つかりません……。強いて言えば、コンビニで買い物したときにもらったレシートくらいです」と答えた。
先輩は「そうだよね。人が所有しているものには何かしら意味がある。みんな無意味なものを常に持ち歩いてはいない。では、君がいつも、何気なくはいているパンツはどう?」
パンツ?
初めは全く意味が分からなかった。
しかし、よくよく考えてみると、パンツをはいている生き物は「人」くらいである。
赤ん坊の時はオムツをしていた。が、それ自体には目的があった。
一方で、成長して、オムツの代わりにパンツをはくことには大きな意味はないかもしれない。
にもかかわらず、1日の中でパンツをはいていない時はお風呂の中くらいである。
 
1万円札とパンツ。
そう考えると少し気持ちが楽になった。
どちらも、現代の社会においては、急に生活から無くすことは出来ない。
とは言っても、無くなって人が死ぬわけではない。
むしろ、もともと存在しない世界が仮にあったとしても何不自由なく生きていくことが出来る。
パンツが無いことが当たり前の世の中であれば、パンツをはかずにズボンをはいているかもしれない。
それと同様に、お金が無いことが当たり前の世の中であれば、お金を媒介とせずに衣食住が成り立つかもしれない。
 
改めて、無情にも簡単に破られて、机の上にちらばる1万円札を見て、不思議な気持ちになった。
なぜ? 本来は意味のないはずの紙切れによって、自分の人生を棒に振りかけたのだろう?
お金のことで、勝手に悩み、生きる気力を無くすことは、自分の人生として、とてももったいないことに気付かされた。
 
最後に先輩は、「とは言っても、現代では、お金は道具として便利だからこの破れた1万円札は銀行で交換するけどね。もちろん、明日からもパンツをいつも通りはくのと同じように」と。
 
失ったお金は大きいが、気持ちを新たに生きていける勇気をもらった。
そんな忘れられない、私にとってはパンツに命を救われた一日だった。

 
 
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2018-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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