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自転車運転免許取得試験


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:卯月そら(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「やっぱり、ない」
 
教室の先生不在の机に生徒たちが群がっている。
先日行われた試験で合格した生徒の運転免許証が、先生の机の上に置かれていたのだ。
「やった~、俺合格してる。これで、正々堂々と自転車ぶっ飛ばして遊びに行けるぜ!」
「俺も合格だー」
自分の免許を探しあてた生徒は、みんな口々に喜びの言葉を放って、どこかに行ってしまう。
私は、ドキドキしていた。
それは……、全然自信がなかったからだ。
 
群がっていた生徒があらかた自分の合否を確認して、人がいなくなったころ私はこっそり自分の免許証を確認した。
でも、何度確認しても自分の免許証はなかった。
試験を受けた子の免許はほとんどあった。多分、この試験に落ちたのは私と、いたとしてももう一人くらいだ。
 
ああ。
きっとこれが、私の人生の最初の挫折だ。小学5年生の冬。
もうすぐ2学期がおわって、世間はクリスマスだ。なのに、私はどんよりとした気持ちになった。
 
私が小学生の頃、自分が住んでいた地域には自転車の運転免許取得試験というものがあった。公道をひとりで自転車に乗るためには、この免許証が必要だったのだ。
試験は、たしか4年生から受けられて年に2~3回チャンスがある。
自転車に乗れるようになって、出発や停止、右折、左折の合図が片手でできるようになった子から試験を受けられる。
早くに自転車に乗れるようになった子は、早々に試験を受けた。そして一発で免許を取得して、街中の道路を自分の自転車で自由に走り回っていた。もちろん、「自転車運転免許」を携えて。
 
試験の日は、校庭を道路にみたてて道や横断歩道を表す白線がひかれ、信号機も設置された。そして、なぜかその中に細い8の字の道があった。
 
12月の寒い朝、私は自転車を押して学校に向かった。放課後に行われる自転車運転免許取得試験を受けるためだ。もちろん、まだ免許がないので自転車に乗っていくことはできない。
 
実は私は、最近自転車に乗れるようになったばかりだった。
家で自転車を買ってもらうのが遅かった上、私は運動音痴だった。優等生ではあったが、優等生にありがちな、勉強はできるが運動は全然のタイプだったのだ。
だから、自転車に乗れるようになるのも大変だった。運動神経のいい子は持ち前のバランス感覚で、さほど苦労しなくても乗れるようになるのだと思う。しかし私は何度もバランスを崩してあらぬ方向へハンドルが切れ、そのまま側溝に落ちるなど数々の惨事にみまわれていた。もう、自転車に乗るのが怖いとさえ思っていた。
しかし、試験を受けようと一緒に練習していた同級生のゆうこちゃんは勇敢だった。彼女は、ハンドルを切り損ねて、側溝を超え、さらにその隣の田んぼに突っ込んだりしながらもひるむことなく練習を続けていた。
 
さて、試験当日。
私は緊張した面持ちで、ついに自分の番を迎えた。
自転車をまたいで、出発の合図をしてパダルを踏む。ゆっくりと自転車は動き出した。よしよし、出だしは順調だ。
しかし、ゲームのように次々と難関が訪れる。左折、右折、そして赤信号での停止。あっ、止まるときに停止の合図を忘れた! 慌てて右手を後ろに引いて合図をしたが、もう自転車はとっくの昔に停止している。監督の先生が、手元の表に何か書き込む様子がちらりと見えた。ああ、減点だ。
動揺しているうちに、信号が変わった。次は最大の難関、8の字だ。私は、いよいよだと思うと緊張のあまりハンドルに力が入った。するとバランスが崩れて、自転車がぐらぐらしはじめた。でも、この8の字からはみ出るわけにはいかない。絶対に!
そう思った瞬間、私の自転車はポーンと大きく8の字からはみ出した。実際の道路だったら、わきに転がり落ちていることだろう。
ああっ!! 先生の手が表に書き込むのがわかった。
万事休す。
 
終業式のあと、合格者には自転車の運転免許が先生から手渡された。
私は、合格した子たちを羨ましいと思いながらも、心のどこかで「やっぱり、この程度の実力でホントの道路で運転したら危ないわ。やっぱり。もう一回練習して出直しだわ」と納得していた。
一緒に練習したゆうこちゃんは、頑張ったかいあって合格した。
終業式が終わって、うちに集まってやるクリスマスパーティーの準備の時も、自転車に乗ってきてもいないのに、大切にケースに入れた「自転車運転免許証」を首にかけていた。
しかし、ゆうこちゃんは、そんな思いをしてとった免許証をもらった当日に、なんとうちのトイレに落としてしまったのだ。
泣きながら、半狂乱になってトイレから免許を拾うゆうこちゃんの姿を見たとき、私は「ああ、私はこんなになるほど自転車に乗る努力をしたんだろうか」と思った。
 
私は、それから一生懸命練習した。
実践を兼ねて、免許をとったゆうこちゃんと彼女の自転車で、こっそり公道を運転させてもらった。そしておまわりさんが見えたら、さっと自転車をおりてゆうこちゃんと交代した。
 
私は6年生になって、再度運転免許の試験にトライしてやっと免許を手に入れた。
みんなの中ではずいぶん遅い合格だった。
でも、ここで諦めなかったことは、その後の私の人生を「諦めない人生」にしてくれた。
人生最初の挫折は、心も体も痛かったけれど、無駄ではなかったのだ。

 
 
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2018-06-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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