メディアグランプリ

生け花をするとお産が楽になる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山口なつ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
月に一度の生け花に通って1年が経つ。三日坊主の私としては、珍しく続いている趣味だ。
生け花は華道であり、「道」と名のつく習い事は師匠が絶対だ。一度師匠のもとに入ったら合わなくても簡単には辞められない。月謝の他に何かと謝礼が発生し、それを払い続けなくてはいけない。師範の資格をとり事実上卒業したあとも、階級はあがり続け、その度に謝礼を払い続けるというのだから、恐ろしい……。
でも私が通っている生け花教室は違う。どう違うか。まず、先生が変わっている。一流のコンサル会社に勤めた後、海外に留学をし、これまでグローバルで社会課題解決のために働いてきた女性である。
その彼女の意向は「生け花という日本の伝統に触れる機会を増やしたい」というものだから、月謝制ではなく社会人は花材費込みで1回5000円、学生は3500円という破格の値段で一回からクラスに参加ができる。
だから、彼女が会社を辞め「自宅で生け花教室を始める」とfacebookで告知した時、老若男女国籍問わず面白くてナイスな生徒が集まった。今日は、そのナイスな生徒の話をしたいのだが、その前に生け花の面白さを伝えたい。
生け花の面白さは、引き算だと思う。たとえば、花屋で売っているフラワーアレンジメントを思い出して欲しい。華やかな花がビッシリ詰まっていないだろうか? あれはオアシスという緑色の少し硬いスポンジのようなものが見えないよう、埋め尽くすように花を挿してつくっている。だから、ビッシリ詰まるのだ。
けれども生け花は空間が多い。私の先生は言う。
「花にはそれぞれ流れがあります。一本一本の花が求める流れを見つけてください」
 生徒たちは、花を手にとり、空中にかざしてクルクルと回し、花の流れを見極める。1本目の花が作り出す空間の流れを、2本目の花が形づくり、3本目の花がさらに決定していく。
 自分の思い通りに花を使っているようでいて、そうではない。どう挿して欲しいかは花が語りかけてくる。花は自分の思い通りにはならないのだ。
生けている間は、心を静かにして花と対話をする時間だ。1本の花と対話し、さらに全体のバランスも見ていく。
 それでいて、生徒全員が同じ花材を使ってもまったく違うものができあがる。人間の側もちゃんと個性が出るのだ。この個性は面白いもので、フレッシュなMちゃんが生ける花はいつもフレッシュで、論理的なOくんが生ける花はいつも念入りにデザインされている。
私自身を振り返ってもいつも自分らしいものになってしまう。「これが自分らしさか」という手応えが嬉しい気もするが、それを打破したいと毎回のように抗っている。
さて、その日は、初めての人が1人いた。まだ20代、公衆衛生大学大学院の2年生だ。仮にKちゃんとしよう。私を入れて生徒は3人と珍しく少人数で、先生も含めて全員が女性である。2時間かけて生け終わったあと、お茶をしながら「なぜ生け花をしようと思ったのか」という話になった。
Kちゃんが言った。
「私は助産師をめざしていて、実際にお産の現場にも立ち会うんですが、たくさんのお産を見ていくうちにあることに気づいたんです」
同じ女性として、妊婦の何に気がついたのか、我々は興味津々だ。
「自分を何かで表現したことのある人は産めるんです。でも、表現してこなかった人はお産が止まっちゃうんです。なかなか産めなくてすごい時間がかかったり。科学的な根拠はないので、これから自分で研究したいんです」
なんて深い。まだ20代前半の彼女の発言に我々は感心するばかり。
「だから、お産の前に妊婦さんに生け花が出来たらいいのかなと思って来ました」
そうKちゃんは語った。なぜ、自分を表現していないとお産が止まるのだと思う? 誰ともなく口にした質問にKちゃんは答える。
 「お産って、起こり得ることなので日常なのですが、特別です。日常の延長にある非日常といいますか。それで、これまで自分が持っていた本当の気持ちとか課題とかが出てきちゃうんです。
たとえば何かトラウマがあったとして、それを解消しなくてもいいんです。ただ自分はそういう感情を持っているんだって気がついていれば。自分の気持ちを隠していると、お産が怖いって思っちゃうみたいなんです。
自分の気持ちを隠しても、違う形で課題として出てくるから“いつ向き合うか”だけなんです。それだったら、お産より前に自分を表現することが出来たらいいなと考えています」
 聡明な彼女の発言に3人とも口があんぐりと開いていたに違いない。
自分の本心を隠すことの弊害が40手前になればわかってくる。人目を気にして、功績を積み上げても自分の心に沿ってなければ歪みが出る。歪みを振り切れるほど頑張れなくなってくる年代だからだ。でもKちゃんは既にわかっている。彼女の理知的な瞳に心打たれる。
自分を受け入れていなければ自分の本音はわからない。自分を受け入れられないのに、新しい命を産むのはさぞかし怖いだろうと想像する。でも、これは全く他人事ではない。私たちはすぐ、本音がわからなくなってないだろうか。
花という自然の前で謙虚になり、花と調和していく。花が静かに語りかけてくれるから、自分の気づかぬ心も顔を出しやすい。Kちゃんに言われて初めて気が付いたが、生け花は私に心の声を聞くことも教えてくれていたようだ。だから三日坊主の私が飽きもせずに1年続けてこられたのだろう。そう思うと生け花がありがたく、また来月の教室が楽しみになった。

 
 
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2018-06-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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