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ギャル男に恋した女の末路


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記事:とまと(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「え?! 彼氏ってあの人なん? やばー!」
たくさんの人がが行き交う、大学での昼休み。
広場のど真ん中で、ギャハハハ、と大声で笑われる。
金髪をストレートアイロンでピーンと直毛にして、緑色のパーカーに、細身のジーパン、
靴の先っちょは、しっかり尖がっている。
私が指さしたのは、どこからどう見ても、「ギャル男」な人。
まさか、ベレー帽を被るようなタイプの私が、「あれが彼氏だよ」と指をさす相手には、意外だっただろう。
 
自分でもそう思う。この人と付き合っているなんて。
 
同じ高校の、優秀な英語科クラスの中で、彼は成績トップ3のギャル男だった。
ガラケー全盛期のその当時は、仲間でホームページを作るのが流行っていた。
もちろんギャル男の彼も、不良の仲間たちとホームページをやっていて、高校三年生のある夏の日に、ブログを書いていた。「今日から俺は」的なタイトルだったと思う。
その内容は、「今日から受験勉強を頑張る。絶対に志望校に受かる」と熱く宣言しているものだった。
 
か、か、かっこいい……!!
 
不良仲間に流されず、信念を持って自分の意志をもって「勉強」をすると決めた彼の姿に感化されて、
私も受験勉強を頑張ることにした。
みんな、顔はかっこよくないと言う。よく言えば小栗旬をぐしゃっとした感じだ。背も小さい。
それでも、わたしはしびれた。しびれていた。
彼の教室に行き、伝えた。
「あなたは私のヒーローです。ブログ読みました。私も、勉強頑張ります」
 
結局、彼は第一志望の学校には合格できなかった。多分、第三希望ぐらいの大学に入学することになったけど、その大学は、私が入学する学校と同じだった。学部まで同じ。
高校を卒業し、あとは入学するだけ! に迫ったまだ肌寒い春のある日、彼は私を食事に誘ってくれた。
私は、ヒーローでギャル男のその彼と、なんだかんだで、付き合えることになった。
 
彼の信念は、大学に入ってからも続いた。
チャラチャラしく浮かれた大学生の空気に流されずに勉強していたし、ギャル男のファッションスタイルも貫いていた。
「卒業したら、行政書士になる。だから、俺は今から勉強する。学校のテスト前は、会わないから」
くー! かっこいい。けれど、おもしろくない。
いざ、付き合うと、やっぱり会いたいし、遊びたい気持ちが勝ってしまう。
そもそも、彼はめちゃくちゃインドア派で、私は真反対のようにアウトドア派だった。
そんな私たちがすれ違っていくのに、そう時間はかからなかった。
半年足らずで、わたしはフラれてしまうこととなった。
全然趣味が違うところも、面白いなって思っていたはずだったのに。
一歩「身内」に入ると、不満に思うポイントに変わっていってしまった。
 
泣いた。
やさぐれたりもした。
そんなこんなで、あれよあれよ、と、4年の年月が流れた。
彼は、気づけばストレートヘアを辞めて、おしゃれパーマを当てるようになっていて、なんかイケてる感じになっていた。
はじめのころ、私の彼氏と知って大笑いしていた友達たちも、すっかり彼と友達になっていた。
大学卒業を前にして、Iphoneが徐々に普及し出し、SNSは、ミクシィからFacebookに移行している途中だった。
友達たちは、彼とFacebookの友達になっていて、「なんでみんなは友だちなんよー! ずるいー!」とか冗談で言ってみたりしたけど、本心では、別に、ずるいとも思ってなかった。
彼氏ではなくなってから、友達のように、ギャハハハ、と笑い合える仲にもなれなかったことを、淋しいとか、切ないとか、そういう気持ちも抱かなくなるのに、4年という時間はちょうど良かったのかもしれない。
友達から始まった恋じゃなくて、私の熱烈な憧れから始まった恋だから、別れを選んだ私たちには、戻るところがなかったのだと思う。
 
話もせぬまま、目も合わさぬまま、卒業して、働き出して、三年が経った頃。
彼から突然Facebookの友達申請が届いた。
「急に、なんだろ? 私のこと覚えていたんだ」
喜びとか、なんの感情も動かぬことを感じながら承認した。
 
ほどなくして、「報告があります」という記事が上がってきた。
行政書士として開業した、と。
なーんだ、宣伝のために友達増やしていたのか。
とか、思うよりも先に。
「だから、私は彼を好きになったんだ!」
私の目に狂いはなかった、やっぱりかっこいいなあ! という気持ちでいっぱいになった。
宣言通りに、ちゃんと行政書士の資格も取っていて、開業までした。
さらに、高校時代の不良仲間のボスを社長とし、彼は右腕となって起業もしていた。
目標に向かって、ちゃんと毎日一歩ずつ進んでいて、それを叶えていた。
 
可愛い奥さんと、子供が2人もいた。
一時は隣に居た彼は、遠く遠く、遥か遠くに行っていた。遠すぎて、もはや訳がわからない。
奥さんのことを「うらやましい」とか「きー! 私が結婚したかったのに」など微塵も思うことなく、
ただただ尊敬した。
かまってほしい、とか、淋しいとか、自分のそういう気持ちを横に置いておいて、
彼を支えられる女性って、相当、懐が広いというか、深いというか、どっしり頼もしい人なんだと思うから。
まあ、2人がどういう関係性なのかは、まったく知らないし、完全に私の想像の奥さん像だけど。
彼が結婚相手に選ぶ人は、きっとそういう人だと思うから。
笑顔で、深くて、サポートしてくれるような。
私は、なれないなあ。きっと、あのまま付き合ってたって。
「自分が、自分が」の我が強い、自分中心の私には。
「彼に負けないぞ!」と刺激を受けて何かしらを頑張っていたとしても、サポート役には、なれなかったと思う。
 
彼は、高校生の時から「こうなる」というものを描いて、それを見つめていた。しっかりと。
「その彼を支えるお嫁さんになるぞ」とか、「私も〇〇になりたい」みたいなものを描こうともせず、
とにかく毎日を全力に楽しんで、おしゃれして、バイトして、今を生きることに力を注いだ。
未来を描くことから逃げて。どこかにたどり着けると願いながら、とにかく前にだけ進んできた。
だから、彼がいる場所も、私が居る場所も、当然だと思える。
彼は、見ていた未来に、ちゃんと進んで行っただけ。
 
彼の「開業報告」から、更に5年ほど経った今だってわたしは、行く先が見えないけど、
迷いながらも、進むことだけはやめたくないから。
だから、私も、行政書士の勉強から始めることにした。
資格を取ってからどうしたいのかを描けていないのに、行政書士への道を目指すことは、
無駄なのかもしれない。けれど、私は、やっぱり彼に近づきたい。
ギャル男なのに、まじめで、強くて、信念があった彼に。
「好きな人が海外サッカーが好き、だから私もサッカーを詳しくなりたい」のテンションと同じ。
憧れの彼が行政書士だから、わたしも目指してみる。それだけのこと。
18歳のあの頃から、何も変わらない。
熱烈な憧れから始まったあの恋が破れて残ったのは、私の熱烈な憧れだけだった。
隣に、彼はもういないけど、私の中には残り続けている。
彼のことを「かっこいい」としびれた、あの時の気持ちが。
 
「いい恋」だったかは分からないけれど、「いい人に恋をした」とは思う。
私にとっては、いまでもヒーローなんだ。
彼を尊敬しなければ、今の自分はなかっただろうから。
今、なにかになっているわけじゃないけれど。
焦ったり、憧れたり、自分も頑張りたい、とさえ、きっと思えていなかったんじゃないかな。
 
本当に行政書士の資格が取れたら、胸を張って彼に伝えたい。
「あなたは私のヒーローです」
そして、あわよくば、ギャハハハ、と笑いあえる友達になれたらいいな。

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2018-06-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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