プロフェッショナル・ゼミ

「理想の上司」を目指すために、あえて周り道をすることにした。《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:よめぞう(プロフェッショナル・ゼミ)
 
 
「あなたの理想とする上司の姿はなんですか?」
 
「女性のキャリアアップ」と称したアンケートに、なんとなく答えている時だった。産休を1年経て会社に戻ると、私は下っ端じゃなくなっていた。たまたま、配属先が若いスタッフの多い所というのもあるけれど、明らかに先輩より後輩の方が多くなっていた。
 
流れ作業で動かしていたマウスの手を止め、パソコンの脇に置いているお茶に手をやった。
 
「そうだなぁ……」
 
気づけば、いつのまにか「上司」になっていた。名刺にもお飾り程度に「主任」という肩書きまでつくようになった。新人の頃、背中を追い続けた上司の姿に比べると、今の自分は非常に頼りない。それでも、こんな私を頼ってくれる「後輩」がいる。
彼らの目に、私は「どんな上司」として映っているんだろう? 出来れば「良い上司」の姿であってほしい。もし、嫌われていたら……辛すぎる。
そもそも「良い上司」ってなんだろう? ふと、疑問が頭に浮かんできた。
 
仕事ができる人?
優しい人?
カッコいい(キレイな)人?
 
福山雅治みたいな人が上司だったら、めちゃくちゃ嬉しい。企画を持ち込んで「実に面白い……」なんて言われたら、間違いなくズキュゥゥン! ってなる。多少、理不尽なことがあっても気にならないだろうし、仕事に行くのも毎日楽しいだろうな。まあ、そんなドラマのようなことが、現実で起こることはほとんどないのだけれど。
私が思う「良い上司」や「目指す上司像」は、自分が「下っ端」だった時と、今こうして「上司」になってからでは少し変わってきた。
営業をしていた時、右も左もわからなかった私にとって「バリバリと仕事をこなし、成果をあげている上司」はとてもカッコ良く見えた。自分のお客様を大切にして、責任を持って自身の業務を全うする姿は本当に眩しくて「トップセールスマン」の名前を文字通り我が物にしていた。「実積が伴って、周りをグイグイ引っ張っていけるリーダーシップのある上司」が私の憧れで、いつかは私もそうなりたいと思っていた。
けれども、私の営業職人生は決して順風満帆とは言えなかった。憧れの「上司像」とは程遠く、実績をあげてバリバリ働く営業マンというよりは、むしろ「営業所のお荷物」と言ったほうがよかった。私は「売れない営業マン」だった。たとえ、売れなかったとしても愛嬌があればまだ可愛かっただろう。だけど、たとえ相手が上でも「自分の意見はハッキリと言う」性格が災いして、売れない上に「問題児」になってしまった。飲み会の席で、異動した上司の後にきた上司から「お前だけは気をつけろよって言われた」と、うっかり緩んだ上司の口からこぼれた時は、ただ笑うことしかできなかった。
産休に入るまでの5年間、決して日の目を見ることのない「売れない営業マン」だった私は、なんだかんだで会社を辞めることはなかった。ただ、「辞める勇気」がなく、辞めた後で「アイツは使えん奴やったな」と言われるのだけは絶対イヤだった。せめて「アイツは良い奴だったのに、勿体無いな」と言ってもらえる位になってから辞めたいと思っていた。
そんな中で、一度だけ本気で「もう、こんな会社辞める」と思ったことがあった。ちょうど入社して3年が終わろうとした時だった。昼過ぎに、店長が神妙な面持ちで私のところにやってきた。
 
「さっきお前のお客様のところ行ったんだけど、お前どういう仕事してるの?」
 
朝、店長宛にお客様の奥様から電話が入ったそうだ。私じゃない人に担当を変えて欲しいという事だった。とにかく、このままじゃいけない! と思った店長がすぐにお客様のところへ行ったそうだ。店長の口から出てきた内容は、あることないことも言われていたようで、思わず笑いが出そうな内容もあった。どうやら、私が色目を使って仕事をしているということも言っていたそうだ。
ひと通り、事の次第を聞いた上で、店長は続けてこう話した。
 
「お前、本当にお客様が話した通りなのか?」
 
「いや、申し訳ないですけど、そんなこと……ありえません」
 
私が話し終えるや否や「じゃあ、どうしてお客様がそんなことを言うんだ!」と、顔を真っ赤にした店長が大きな声をあげた。
 
少しの沈黙の後、私は次第に今自分が置かれている状況がわかった。
 
 
私、完全に信用されていない。
 
 
上司なら、信用してくれていると思っていた。
上司なら、お前に限ってそんなことないよなと言ってくれると思っていた。
1日、24時間のうち会社にいる時間が一番長い。その中で上司は私のことを見てくれているもんだと思っていた。それは勝手な私の思い過ごしだった。「売れない営業マン」の私に信頼なんてなかった。おまけに「問題児」ときたら、信用なんてハナからなかった。
信用されないのは自業自得だというのは分かっていたけれど、とにかく悔しくて仕方がなかった。信用してなくてもいいから、別に私のことを嫌いでもいいから、できれば「信じてる」という一言が欲しかった。いつも見ているけど、お前に限ってそんなことはないよな、って嘘でもいいから言って欲しかった。
 
その後も、店長は何か話していたけれど、私の耳には何にも入ってこなかった。
「もう、辞めよう」という思いだけが、身体じゅうをぐるぐると駆け回っていた。
この会社にいる意味がなくなった。「売れない営業マン」として息をしているのは、辛いし、毎日がとても怖かった。他の人が応対したら売れていたかもしれない、なんて言葉を回り回って聞かされると胸が張り裂けそうだった。それでも、雑務や先輩の仕事を手伝うことでかろうじて「居場所」を作ることで、なんとか「ここにいて良いのかもしれない」と自分に言い聞かせてきた。だけど、いよいよ信用すらされていないなら、もう私に居場所なんてなかった。
 
それでも辞めなかったのは、周りの先輩のおかげだった。
「時間が解決するから」という助言を信じ、とりあえず目の前の仕事に没頭した。結局ひと月もすれば、担当は変えられたものの、気がつけばいつも通りの日常に戻っていた。けれども、私の心は鋭くえぐられたままだった。
今でも、その時のことが夢に出てきてうなされることも珍しくない。その当時は、まだ私が一番下だったから「あの時はしんどかったわ」と思うだけだった。けれども、今こうして営業では無くなったけれど、自分自身が誰かの上に立つ存在になって、当時の体験を通して「上司としてこうありたい」と思う姿が強くなった。
 
私が今している仕事は、現場のエンジニアがスムーズに仕事ができるように手伝う事務職だ。営業の時と違って、商品の構造の知識を少しずつ勉強しながら手探りで仕事をしている。資格を持っている後輩の方が色々と知っている、という前提なので、後輩に構造を教えてもらうことも良くある。今まで「できないことがある=ありえない、恐ろしい」と思っていたけれど、案外そうでもないらしい。どうしても、立場や経験の差で、できる仕事とできない仕事、向き不向きは誰にだってある。もちろん、できるに越したことはないけれど、できないことは努力することは当たり前だけれど、それが得意な人にお願いすることも「業務効率をあげる」上での懸命な判断だ。そして、誰がどの仕事が得意なのか、どういうところに秀でているのか……それは、普段から人と向き合っていないとできない。
だから、私は「きちんと人と向き合える上司」になりたい。部下が多い今、常日頃、自分がされて嫌だったことだけはしないように、気をつけて仕事をしている。上司に向き合ってもらえなかったことは、私の中で一番辛かったことで、それだけは私の部下にはさせたくない、と心から思う。だから、私の仕事に邪魔なプライドは必要ない。部下の目線に立って、まっすぐ向き合う……ただそれだけだ。
 
「部下の目線に立って、きちんと向き合うことができる上司」
 
パソコンの画面に入力を終えた後、なんだか憑き物が落ちたみたいに清々しい気分になった。ひょっとしたら、私の考えは甘いのかもしれない。だけど、仕事ができても人としてクズだったら、社会人としては如何なものかと思う。それよりも、人間的に成長して行けた方が、結果遠回りだとしても大輪を咲かすことができると、私は信じている。
 
「森さーん、ちょっと良いですかー?」
 
後輩が困った顔をしながら駆け寄ってきた。
こういう時、私に答えられるかどうか、毎回不安で仕方がない。けれど、わからなかったら、一緒に調べれば良い。そして、一緒に成長できればなお良い。まだまだ「上司」としてはわからないことばかりだ。上の人に引っ張ってもらいながら、下の人に背中を押してもらって、今日も私はエンジン全開で店舗を駆け回っている。
 
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