プロフェッショナル・ゼミ

感度の高い上司の話《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:伊藤千織(プロフェッショナル・ゼミ)
 
 
「感受性豊かな人で仕事ができない人を知らない」
 
6月から通い出したプロフェッショナル・ゼミで、三浦さんのこの言葉を聞いた時、真っ先に上司の顔が浮かんだ。
昨年の9月、私は人事異動により今の部長に出会った。これまではお客様と直接やりとりする営業所にいたが、9月からは本社に異動になった。
私が異動になった部署は、主に接客マナーや職種別の社員研修を行ったり、取扱商品の保険に関する知識を提供したりする社内向けの支援部署だった。
 
私は部長に一目会った時から「あ、この人苦手な人種だ」と思った。
 これまで一緒に仕事をしてきた上司は冷静な人が多く、良し悪しの判断はこれまでの経験から踏まえた相対評価だった。私もどちらかというと相対評価をするタイプだった。真顔で黙々とタスクをこなしたいタイプで、余計なことに気を取られたくないタイプだった。
それが、今の部長は私とは真逆で、感情的な人だった。おまけに正義感も強かったため、その場の絶対評価を感情と共に素直に放出できる人だった。
 
 例えば、部長から異動になった部署の説明を受けた際、社員の見本とならなければならない部署だと言われた。異動したその日から、あいさつの仕方、電話の取り方、言葉遣いなど対応が悪いと細かく注意された。
確かにそうだ。接客マナーを教える社員のマナーができていなければ、説得力がない。
しかし私が実際にマナー研修を受けたのは2年前にまでさかのぼる。それまでは社内にマナー研修など存在しなかった。敬語も正しい言葉遣いも知らなかったが、お客様は現場で働く建設作業員がほとんどで、接客時は言葉遣いよりも気さくさが求められた。
 
本当にこんな研修必要なのか。
営業所の実態を知らないからだろう。
実際、人の習慣なんてそんなにすぐには変えられない。
 
そんなネガティブな感情で部長の言動を批判し、なかなか直す気になれなかった。
しかし部長はしつこかった。何度指摘してもできていないと、声のトーンや表情が変わるのがすぐ分かった。
 
「ここまで表情に出すんだ……」と、私は少しひいてしまった。
私は感情的な人の言動をどうしても信じられなかった。いくら感情的に何かを発信したとしても、データで分析した結果の方が信頼できる。そう思っていた。
 
 しかし部長は、ただ感情的なだけではなかった。部長をやっているくらいなので当たり前なのだが、とにかく何事も「気付く」のが早かった。
母親から何かを注意され「今やろうと思ったのに!」と思った経験があったが、まさに部長はその母親役だ。頭の後ろにも目がついているのではないかと思うくらいに、敏感で俊敏だった。
 
 ある日、部長の感情的な面と俊敏な面の相乗効果により会社のピンチを救った出来事があった。
 
 私の部署は、取扱商品に付与される保険の証明書発行作業も行っている。保険は1年更新なのだが、事前にどの商品に付与するか、毎年営業所から申請をしてもらっている。その情報をもとに、お客様から依頼があれば証明書を発行している。
とある営業所から証明書発行依頼が来たので対応しようとしたところ、申請がないことに気が付いた。営業所で申請が漏れていたようだった。気付いたその場で申請を入れてもらったが、すでに商品は2日前にお客様のもとに納品されていた。
 
証明書の発行日は、申請が承認された日付で作成しなければならないという社内ルールがある。よって申請が承認されたその日の日付で作成したが、発行後にお客様から連絡があり、納品日に変更してほしいと連絡があったそうだ。
 
部長に相談したところ、例外を作ってしまうと以後もそういった対応をせざるを得なくなってしまうため、できないと返答するよう言われた。電話でその通りに営業所に返答したが、お客様が納得しない、当社のミスなのでなんとかできないかと、さらに言われた。
 電話を保留にし、再度部長に相談すると、今度は部長が電話に出た。しばらく経緯や状況について営業所から話を聞いていたが、だんだんと部長の声のトーンが大きくなっていった。
これは例の通り部長が爆発するかもしれない。ドキドキしながら会話に耳を澄ましていたその時、ついに(やはり)部長の感情が爆発した。
 
「お客様が困っているのでしょう!? だったらもう対応するしかないから!」
 
そう言って電話を切り、今度は私の方を向いて言った。
 
「伊藤さん、すぐ証明書発行して! お客さんと営業所でもめているから!」
 
「は、はい!」
 
私は考える隙もなく超特急で証明書を作成した。
 
今回の件は、早急に対応できたことでお客様とは大きな問題にならずに済んだようだ。あそこでグズグズとルールにしばられたことしかできていなかったら、何が起きていたかわからない。
 
私は今回の件で、部長への見る目が変わった。部長は過去の事例よりも、人として、会社として正しいかどうかで判断し、正しいと思えばその場で実行した。
ちゃんと現場のことを考えられる人だったのか。
私は部長に対し、少しだけ信頼度が上がった。
 
それ以降、私の部長に対する評価はうなぎのぼりだった。
部長は社内で上下関係なく人とすれ違うたびに談笑していた。どうしてこんなに人脈があって、コミュニケーション能力が高いのだろうか。いつそんなに親しくなるのだろうかと、不思議だった。
 
部長の人づきあいの良さは明らかに社内に好景気をもたらしていた。部長は、人のコントロールが上手かった。冗談と本音のつかい分けがうまく、また、持ち前の感情表現により、人をいとも簡単に説得できた。上の人間からも信頼されていた。
 
今は、何億円もかかる営業用の新しいPCソフトウェアを導入するために、上の人間を説得している最中のようだ。
現行のソフトウェアでも使えるし、金額的に真っ先に却下されそうな案件だが、持ち前のコミュニケーション能力でこの調子ならもしかしたら承認してもらえるかもしれない。非常に今後の展開が楽しみである。
 
さらに私が部長に対し感心したことがある。それは、部長が「フルスロットル」で毎日過ごしていることだ。
 
私の部署は全国で研修を行うため、出張が多い。多い時で週3日はある。月曜日に研修がある時は、前日の日曜日中に前もって移動しなければならない。
 
以前、部長に土日は何をしているのか聞いたことがあった。平日がハードな分、土日くらいはいくらかっちりしている部長でもさすがに遅くまで寝ているのではないかと思い、聞いてみた。すると部長は「子供の部活動の試合に帯同している」と言っていた。
部長には子供が男女一人ずついる。長女は高校生、長男は中学生で、二人とも学校でバスケ部に所属している。その試合が毎週土日にあり、毎週観に行って応援しているのだそうだ。
 
たまに、聞いてもいないのに長男の自慢をしてきたことがあった。部長は身長が180cmあるのだが、長男も身長が同じくらい高く、細身のため結構モテるのだそうだ。
「こないだ俺にとある親子が話しかけてきたんだよ。あの背番号10番の子のお父さんですか? って言われて。そうですって答えたら、娘が大ファンなんですって、なぜか俺に握手求めてきたよ」
 
部活動がないときは、家族で日帰りでどこかへ出かけるのだそうだ。
なんてアクティブな日々を送っているのだろう。まさに三浦さんの生活のようだ。しかも土日は自分のためではなく、家族サービスに勤しんでいる。
 
部長にとって仕事も人生の一部であり、プライベートと同じくらい楽しんでいるのだろう。それは当たり前のことなのだが、仕事をつらいと思ってばかりいたころの自分を思い出した。部長のそばにいれば、自然とあの頃に戻らずに済みそうな気がする。
 
この人のもとなら、まだこの部署で働いていてもいいかな。
すぐに異動するような話も出ていないのだが、ふと思った。
 
***

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