メディアグランプリ

午前6時半のアイドルソング


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:射手座右聴き(ライティング・ゼミ朝コース)

 
 
その日は、閑古鳥が鳴いていた。
70平米ほどのお店に、お客さんは20名程。
 
前回100人も入ったイベントなのに、である。
人気スポーツの大きな試合と重なったのだ。
 
期間限定の青山のカフェバー的なスペース。
 
曲をかけはじめると
主催しているお店のマネージャーから細かく指示がきた。
 
「最初から踊れるやつをかけてください」
 
最初から盛り上げて欲しい、
と言われても、自分の決めてきた曲順があったのに。
ゆっくりの曲からだんだん、盛り上げたいのに。
 
「最新のやつより、少し懐かしいやつをかけてください」
 
懐かしいやつ、と言っても
後半のDJさんのかけそうな曲と同じ曲はかけられない。
どうしよう。
 
でも、曲を止めるわけにはいかない。
とりあえず、みんなの知っていそうで、後半にかけなそうな曲を選んだ。
 
「もっと盛り上げられないですかね」
 
少しイライラした様子で、マネージャーが言ってきた。
 
もう、後半に配慮していられなかった。
盛り上がる曲、盛り上がる曲、それだけ探した。
 
ウケない、と思ったら、曲の年代を変えた。
年代を変えても盛り上がらければ、ジャンルを変えた。
 
「ウェーイ」
 
15分おきに乾杯の声が起きていた。
バーのスペースでは
テキーラが飛び交っている。
 
酔い潰れない程度の絶妙な感じだ。
 
そうか、お客さんが少ない分、
お酒の売り上げを頑張るのか。
 
マネージャーは
ひたすら電話をしていた。
 
すると、一気に十数人のお客さんが入ってきた。
50代の社長風の男性が、20代の男女を連れていた。
 
マネージャーがDJブースに来た。
 
「リクエストいけますよね」
 
社長からだった。5,60代なら誰もが好きな男性シンガーの曲だ。
 
えええええええええ。
2,30代が喜びそうな、90年代00年代の曲を中心に、って言ったじゃん。
 
なのに、その曲は80年代前半の渋い曲だった。
踊れるどころか、結婚式などで、来賓が歌う系の曲だ。
 
でも、そんなことは言っていられなかった。
もう、曲順だとか、リズムだとか言ってる場合ではなかった。
 
シャンパンが5本。社長のテーブルに並んでいるのだ。
 
ここは、社長の好きなシンガーの曲をかけ続けるしかなかった。
 
そのくらいのことは、素人DJ3年目の私でもわかった。
 
「君わかってるじゃないか。ありがとう」
 
社長からお褒めの言葉とシャンパンをいただいた。
 
嬉しいけれど、今夜はDJやってる感じがなかった。
 
あんなに準備してきたのに、めちゃくちゃだった。
 
自分の出番は終わり、カフェ専属のDJさんの時間になった。
お客さんは70人ほどまで増えた。
 
王道の選曲。確実に盛り上がるやつ。
 
それでも、マネージャーは電話をかけ続けていた。
まだ売り上げは足りないのだろうか。
 
やがて、朝の4時半になった。
出番の終わった自分と友人に、マネージャーが近づいてきた。
 
「すみません。お願いがあります」
 
「なんでしょう」
 
「実はまだ売り上げが足りないので、
曲をかけ続けて欲しいっす。
これからまだお客さん呼んでるんで」
 
えええええええ。
 
自分と友人は、途方にくれた。
 
でも、やるしかなかった。
 
「できれば、あのグループやあのグループあたりの曲をかけてほしいです」
と複数の男性アイドルの名前があがった。
 
運のいいことに、友人は、そのへんの曲をまだ少し持っていた。
 
朝の5時。延長戦が始まった。
残っているお客さんは、40代の男性と20代の女性がメインだった。
 
マネージャーからの指示に沿って
ひたすら、アイドルソングをかけ、女性たちを盛り上げ続けた。
 
「もう限界です」
 
なんども言った。でも、お店専属のDJさんは帰っていたし、
自分と友人がなんとかするしかなかった。
 
もうしばらくDJやりたくない。そんな気持ちにまでなった。
 
朝6時半。3本のシャンパンが空いた。
 
「売り上げいきました。もう大丈夫です」
 
マネージャーの声で、イベントは終わった。
朦朧としていたが、ほっとした。
 
力が抜けた瞬間、ふと思った。
あれ、今日、結構楽しかったな。
 
自分の考えてきた選曲など一個もできなかったけれど
盛り上がったり、お酒を飲みたくなる選曲はできた。
 
それもいいのかもしれない。
 
趣味でDJを始めて3年。イベントと言っても顔見知りや友達に向けての
選曲がメインで、知らない人ばかりの場所での経験は少なかった。
 
この日は、いつもの仲間といつもの曲で盛り上がるのとは違っていた。
お客さんの顔色だけを見て、その場で選曲した。
 
やってるときは、準備してきたことは、何の意味もなかった。
と思ったが、いや、逆だった。
 
準備してきたからこそ、突然のリクエストに応えられた。
そして、一緒に延長戦まで
つきあってくれた友達のDJが曲を持っていたことが大きかった。
 
協力してピンチを乗り越えたおかげで、
今でも、彼と会うと午前6時半にかけたアイドルソングの話になる。
 
この後から、ピンチのDJ現場になると、ワクワクするようになった。
 
ドMなのか、怖いもの知らずなのか。
素人の癖に、生意気な自分だ。
 
 
***

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2018-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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