プロフェッショナル・ゼミ

塩から得た自信《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:なつき(プロフェッショナル・ゼミ)

学生時代から料理が好きだった。ただし、自己流なので、美味しくできる時とそうでない時の差がかなりあった。原因は基礎がおざなりだったからだが、面倒くさがりの私は、もくもくと基礎を学ぶことがつまらなくて、応用の華やかさにばかり目が行っていた。

ある料理教室が気になった。会社からも近いので平日でも通えそうだ。ホームページを見てみた。大正11年創業の荘厳な建物。歴史ある料理を提供しているレストラン。煌びやかで美味しそうな料理写真の数々。でも実際に食べてみたことがなかったから、お金を払ってまで申し込むほどなのだろうか、と気持ちが動かなかった。ところが、背中をポンと押される出来事が起こった。

それはこのレストランの料理を口にする機会を得たことだ。会社の新人歓迎会の時に、このレストランでビュッフェが行われることになった。食べてみたかった料理が食べられる。わくわくしながらお皿を手に取り、洋食が品数豊富にずらりと並ぶ中で、ソースのたっぷりかかったお肉を選んだ。一口食べて衝撃的だった。今まで食べたことのない素晴らしいソース! 余韻に浸りつつも、これまた別のソースがたっぷりかかった魚料理を頬張る。これも美味しい! 素材だけでなくどのお料理もソースがとてつもなく美味しい! 食べれば食べるほど、このお料理を、このソースを習いたい気持ちが募る。

翌日、ホームページを見たところ、無情にも4月開講分の料理教室の受付は終了しました、と表示されていた。そんな……、私のこの気持ちはどこへやればいいの……! 習えなくても仕方ない、でもこの気持ちは伝えたい!! 何とも言えない強い気持ちに突き動かされ、私は電話を握っていた。「はい、東京會舘クッキングスクールです」と男性が電話に出た。「4月開講の料理教室に関してホームページでは締切との事ですが、難しいですか?」「そうですね」「昨日、会社の行事で初めてお料理をいただきました。どのお料理も素晴らしく、特にソースが美味しくて、美味しくて、このソースが習いたくて電話しました!」「そんな風におっしゃっていただけるのは初めてです。4月開講いいですよ」

そうやって駄目元で電話をかけ、温情をかけていただいたおかげで4月から通えることになった。このスクールは半年ごとの更新があるタイプで、初級科、中級科、速成科、上級科がある。面倒くさがりの私だったが、この初級科は東京會舘のレストランでメニューとしてある、伝統のカレー、ハヤシライス、鶏もものコンフィなど、初級とは思えないラインナップ。初級にもとても惹かれる。急ぎたいので初級科と中級科を同時進行できる速成科にした。と言うのも、今期が終了したら、東京會舘が建て替えのため、この建物の地下で行われていたクッキングスクールも休業するというのだ。もしも場所が無ければ、存続の危機という状況でもあった。

そんなこんなで始めたスクール。当時は、西洋料理、製菓、中華料理、ワイン、カクテルを全て学べる盛りだくさんな内容だった。それを初級と中級を同時にやるんだから2倍である。自分で日程調整を行いながら、週に2~3回の割合で通い詰めた。毎回楽しくて、充実して、たくさんのことを学べた。業務用の火力の強い大きなコンロを使えることも嬉しさの一つだった。更に初級では、初級ならではの包丁の持ち方、フライパンの振り方から料理の完成までの一通りを全て自分で行う。他の料理教室では、初級は難しい部分は講義のみで実習は部分作業が多かった。ここは地道な工程も全て実習させる。楽しく基礎を学べた。

例えば初級で習った東京會舘伝統のカレー、こんなに細かい玉葱のみじん切りは見たことが無かった。細かくしていくうちに玉ねぎがキラキラ美しく輝く。まるで宝石の様な輝きを帯びる。この玉ねぎを使って作ったカレーは絶品。楽しくてあっという間に半年が過ぎた。この期で終了の筈だったが、生徒の強い要望により、建替え前にもう一期継続が確定した。初級・中級の内容も家ではあまり復習は出来ていなかった。それで上級を習うのは、と躊躇はしたが、この機会を逃してはならない。迷わず上級科を選択。上級科は、中々手に入らない高級な食材を惜しげもなく使う。ますます家での復習は難しくなった。

教室では講師の元で色々質問しながら行えるが、家で実践するとなると、段取りがおぼつかない。レシピとにらめっこしながら作るので時間がかかる。面倒くさがり体質がむくむく顔を出し、結局、中々凝ったものは作らなくなり、簡単な煮物、炒めもの、が主流となってくる。教えてもらってレパートリーが増えた筈なのに、お洒落な料理は数えるほどしか作っていなかった。あんなに情熱をもって始めたのに、お金も掛けたのにちゃんと自分のものにできたのはごくわずかだった。

ものごとは何でもそうで、教室でできた、美味しいから大丈夫と思うと、自分のものにできたと思いがちだが、一人でやってみてできなければできたことにはならない。わかっていた筈なのに、同じ味にならないとつまらなさもあって、やらなくなってしまう。だんだん面倒になってしまう。私の悪い癖だ。2回目に魔法の様に同じく作れるなんて滅多にないこと。何度も失敗をしてコツが見えてきて、初めて自分のものにできる。頭では分かっているのに、やらないことを棚に上げて私には無理なんだと思うようになった。

そんな中、先日実家から野菜が送られてきた。きゅうりと、ピーマンと茄子。なんとも嬉しい夏野菜である。実家で栽培した採れたての野菜。味が濃くて美味しいに違いない。この野菜は素材の味を楽しめるシンプルな味付けにしたい。ピーマンと茄子、それに塩を多めに揉みこんだ豚肉を加えて炒める。以上。これ以上の味付けはしない。美味しかった。やっぱり旬の野菜はシンプルな味付けが際立つ。これに味をしめ、翌日も同じ炒め物。今回はきゅうりを足した。その翌日も、更に送ってもらった野菜が終了した後も1週間、ピーマンと茄子と豚肉を買い足し、同じ塩で味付けしただけの炒め物を続けた。毎日ってよく飽きないねと言われそうだが、飽きないのだ。嫌なら嫌とはっきり言う、食卓を共にしている主人が「飽きない」と言うのだから間違いない。

でも塩でしか味付けしてないんだよ? 何故飽きないのだろう。ふと思い当たることがあった。塩の使い方だ。東京會舘クッキングスクールでは塩の使い方を、手に、舌に、身体に覚えさせる。レシピには分量が書いてあるものの、その通りになったことはない。計量スプーンで一気に入れることはしない。たとえばスープを作る時、塩のケースから一つまみずつ塩を入れ、その都度味見をさせる。実習は一テーブル4人で行うのだが、必ず全員に味見をさせる。始めは素材の味しかしないスープだったのが、塩の少し尖った味に変わり、この後加えたほんの少しの差でまろやかな味に変わる。まろやかな、素材と一体となったスープの味を知った時は驚きと共に本当に嬉しかった。同じスープでもちょっとの差で全く違う味になる。これを知ると塩の味付けが楽しくなる。ただし、このちょっとの差を超えてしまうと塩辛くなってしまうので要注意だ。

塩だけでこんなにも素材が活き活きとして旨みが凝縮されるのがわかるのか。それまで市販のコンソメをよく使っていたが、全く使わなくなった。鶏の出汁スープが飲みたい時は、好きな部位の鶏肉に多めに塩を揉みこみ、馴染んだら水から煮る。これだけで鶏も柔らかく旨みがしっかりある、とても美味しいスープができる。そうやって塩に慣れ親しんできた。それを繰り返しているうちに、だんだん目分量でも加減がわかるようになってきた。

そうなると塩を使うことが楽しくなった。塩に目が行き始めると、なんとまあ種類の多さに圧倒される。焼き塩に、柚子など柑橘類を入れた塩、岩塩に、花びらが入った塩もあった。冷奴に塩、サラダにもレモンとオリーブオイルと塩。気づけば凝った調味料を使わなくても塩が大きな役割を果たしていた。色々な塩を使ってみたが、ある時カルディでパッケージに惹かれて買った「南の極み」。使ってみると、普通の塩に比べて、粒が大きめでしっかりした塩辛さの中にまろやかな味わい。野菜炒めに入れても、煮物に入れても馴染んでスッと染み込む。更には、湿気で固まることがない、いつでもサラサラとストレスなく使いやすい。今でもこの塩はリピートして使っている。

塩の大切さは味ばかりじゃない。お肉を焼く前、煮る前の下準備で、塩を揉みこむことでお肉を柔らかく仕上げることができる。塩を揉みこまずに焼いたり煮たりしたものとは雲泥の差だ。この一つの作業をプラスするだけで、食感も全然違う肉料理を楽しめる。

ただし、塩は入れる順番を間違えると素材を台無しにしてしまう恐れもある。そのことを料理教室で教わった。初級科でも中級科でも上級科でも一貫して塩の大切さを叩き込まれた。そのおかげで、塩の使い方と重要性が私の中に定着した。「さしすせそ」の「し」とも言われるように塩は基本中の基本だが、これだけやったからこそ身に付けることができた。家でも当たり前の様に使えるようになった。コツをつかむことができた。塩ライフを楽しめるようになった。つまらないと思っていた基礎だったが、基礎から見える大切さだったり、基礎と言う土台ができたことで自分への自信にもつながった。もっと基礎を大事にしようと思った。

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