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メディアグランプリ

天使なんかじゃないけれど


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:濱田 綾(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「えっ、吸入やってないの? 点滴終わったらやってと言わなかったっけ。今からやって」
相手は、さも当たり前のように、そして早口で言い放った。
その表情からは、苛立ちのようなものさえ感じられる。
 
「いただいた明細書には、吸入処置をやったと記載されていますが、今日は吸入処置はしていないんです。先ほどお会計をしてしまいましたが、確認してもらえますか?」
連休中のクリニックでの出来事。事の始まりは、私が受付窓口に尋ねたからだ。
 
ほどなくして、スタスタスタと足早に白衣の女性がやってきた。
ん? 何か怒っている? そしてあの早口な言葉が、体を突き刺すように降ってきたのだ。
 
一瞬、あたまの中が「?」でいっぱいになった。
が、すぐに別の感情が浮かんできた。
いやいや、それはおかしいでしょ。
ぼうっとするあたまをひねり、記憶をたどってみる。
「点滴が終わったら、待合室で待って。診察で呼ぶから」
「診察は終わりですので、会計前で待っていてください」
体のしんどさも加わって、言われるがままに移動していたように思う。
 
何で、こんなに苛立っているのだろう? 
私は、何かとても迷惑がかかることをしたのだろうか? 
返金手続きは、手間がかかって申し訳ないのはわかる。
でも今は、吸入の順番を待つほど体力が残っていない。
出来れば、一刻も早く、家に帰って横になりたい。
波風が立ってしまうが、ここは自分の体を優先しよう。
勇気を出して言った。
「もう来院してから随分時間もたっているし、体もしんどいので今日はいいです。返金の手続きをしていただけますか?」
「あっ、そう」
くるりと背を向け、スタスタと歩いていく姿は、とても白衣の天使には見えなかった。
 
実は、少し前から喉と耳に痛みは感じていた。
でもいつものことだし、内服で何とかなるかと思い、様子を見ていた。
週の真ん中、ここで倒れるわけにはいかないという思いもあった。
ただ週末の夜、喉と耳の痛さが強くなり、眠ることもままならなくなってしまった。
すがるようにして、翌朝に休日でも開いているクリニックへ向かった。
 
いくつかの検査を経て、医師が言った。
「溶連菌陽性ですね。連休中は点滴に通ってください」
大人になって溶連菌? 抵抗力が弱っていたんだろうか。自己管理できていないな、私。
家庭のこと、仕事のこと。あたまの中でぐるぐる考えがまわる。
ただ、この我慢できないほどの痛みの原因が分かって、何よりほっとした。
あとは治療すればいいだけだから。そんな思いで、ベッドに横になった。
 
日曜で空いている病院が少ないんだろう。
診察室を出るころには、あっという間に待合室は、人で埋め尽くされていた。
確かに忙しそうだ。ベッドに横になってからも、バタバタバタと足音が聞こえる。
冷房の風が当たり、弱った体はさらに冷える。声をかけても届かない。
いつ来てくれるんだろう。
「採血検査と点滴をするから、起き上がって椅子に座ってください」
カーテン越しに声をかけられる。えっ、寝たのにまた起きるの?
「ちょっとふらふらして。このままでは難しいですか」
何とか寝たままできないか、頼んでみる。
「起きてください。ここでやりますので」
交渉の余地がない。
何とか起き上がったが、体に感じるだるさのせいか、座るのがやっとだった。
 
そのあと、体の芯まで冷えながらも、何とか点滴を終え、診察を終え、会計に向かった。
もうこの時には、早く帰りたいという気持ちしかなかった。
そして、最後に放たれた早口の言葉と、足早に立ち去る後ろ姿。ダメージは大きい。
私はようやく帰宅し、ベッドに倒れこむように横になった。
 
実は私も病院で働いている。
病院で働いているのに、自分の体調管理ができていなかったことは、情けないの一言だが。ただ、自分が病院に行くという立場になって、忘れていた思いに気づいた。
やっぱり、白衣の天使はいてほしい。
 
たくさんの患者さんを前にすると、つい、気持ちや行動に焦りが出てしまうことがある。
時に「少しでも早く楽になってもらいたい」という思いが、周りを見えなくし、焦りにつながってしまうことさえある。
次々にやってくる業務で、目の前が覆いつくされてしまう。
まして休日だったからこそ、普段よりも忙しかったんだろうとは思う。
 
ベッドに横になりながら、私もおんなじだなと思った。
自分が患者の時は、天使はいてほしいと思った。
でも、いつも天使なんかじゃいられない。
その前に一人の人間だから。様々な感情が先に立つことも少なくない。
けれど病院には、それ以上に色々な思いや不調を抱えて、たくさんの人がやってくる。
私もそうだったが、やっとの思いで、それぞれの事情を抱えてやってくる。
願いは一つ「体の調子や気持ちが、今よりも楽になるように」だと思う。
迎える側は、一対多数だ。けれど患者さんにとっては、一対一の存在。
そのことは忘れてはいけない。
 
じゃあ、忘れずに寄り添えるためには、どうしたらいいんだろう。
自分を抑えるのか?それも違う気がする。
人と人とのかかわりだから、感情なしではロボットとおんなじだ。
感情から関係性が深まることもたくさんある。
 
日々の流れに心をなくしそうなとき、ふと思い出す大事な言葉がある。
「水のような心でいなさい。水は器によって色々と形を変えていけるでしょ。
カチコチの氷ではだめ。そんな、やわらかい心でいれたらいいね」
 
今なら、分かる気がする。
水のようにやわらかで、器に寄り添い、自然にそこに居るには、想像力が必要だ。
今、この人はどんな思いなんだろう。何を抱えて、何を求めているんだろう。
実際には同じ境遇になることは難しい。
けれど、想像するということが私たちにはできる。
たとえそれが、わかったつもりだったとしても。
そこから始まるんじゃないかと思う。
 
 
白衣の天使じゃいられない。
むしろ、戦士なのではないかと思う。
色んな感情の動きや緊張感や、時にはどうにもならないこともあるだろう。
けれど想像力という武器があれば、どんなことも、一つ一つ消化して、また目の前が広がるはずだ。そんな戦士に私はなりたいと思う。
 
点滴三昧の連休。しんどさが初心を思い出させてくれた。
さぁ、また想像力を胸に、やわらかに戦いますか!

***

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2018-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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