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あなたは「片足の鳥居」を知っていますか?


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記事:くまはら ひろみ(ライティング・ゼミ日曜コース) 

 
 
あなたは「片足の鳥居」を知っているだろうか?
それは長崎の浦上にあり、文字通り片足1本だけで70年以上も立っている鳥居である。
爆心地からほど近く、山王神社の被爆クスノキとともに原爆の脅威を知ることが出来る貴重な存在だ。
 
私が初めて片足の鳥居を見たのは中学生の修学旅行の時だった。
バスの中から一瞬だけ見えた姿があまりに鮮烈だったため、ずっと心に残っていたのだ。
初めて間近で見た片足の鳥居は、あの頃の記憶のままだった。
そして、その後方には爆風で飛ばされた左の片足が横たわっている。
鳥居の奥には山王神社があり、被爆しながらもまだ生き続けているとても大きなクスノキがあった。
その姿は美しく、たくさんの枝葉を広げていた。とても被爆しているとは思えないほど生命力にあふれている。その姿に圧倒されていると、ひとりのおじいさんに声をかけられた。
 
「どこから来たの?」「福岡です」「福岡か。私は大濠公園にあった軍の本部にいたことがあるよ。
でも、どうしてここに来たの?」私は一度だけ見た片足の鳥居がずっと忘れられなかったこと、
ちょっと時間はかかったけどやっと夢が叶ったことを話した。
するとおじいさんは、ガラスケースの中に展示されているモノクロの写真の前に私を呼んだ。
 
そこには被爆直後の浦上の街があった。
一面真っ黒な焼け野原の中に、道だけがまるで定規できっちりと線を引いたように白く伸びている。
おじいさんは白い道を指なぞりながら「私は叔母を探すためにこの道を歩いたよ。叔母は黒焦げの遺体で
見つかった。まるで魚の焦げみたいだった」と言った。
 
そして、おじいさんと私は片足の鳥居に移動した。すると衝撃の事実が発覚した。
なんと、左の片足が吹き飛ばされたとされている今の場所は、実は間違いらしいのだ。
しかも、その倒れていた片足を今の場所に移したのは、おじいさんだったのだ!
本当は、あの左の片足は元々立っていた場所の根本に後ろ向きに倒れていたそうだ。
倒れた片足は、おじいさんの家に向かう道をふさいでおり、邪魔だったらしい。
なので、仕方なく残った右の片足の後ろに移動した。そしたら、いつの間にか爆風でここまで吹き飛んだと
いうことになり、それが記された看板まで立ってしまったそうだ。
でも、おじいさん曰く、爆心地の方向を考えると右足の後ろに吹き飛ばされるのが正常らしい。
では、なぜ根本に倒れていたのか? それは、通常ではありえない力、いわゆる「G重力」が働いたから。
それだけ凄まじい爆風が吹いたということなのだ。
 
そして、おじいさんは立っている右の片足の一部分を指差した。
そこには文字が彫ってあったが、一部分が極端に薄くなっていた。中には消えているところもある。
その場所は爆心地の方を向いており、強烈な熱と光が鳥居の表面を溶かしたかららしい。
石でさえこんな状態になるのだから、人間なんてひとたまりもないだろう。
 
「あの光景は一生忘れられない」おじいさんは静かにつぶやいた。
そして、「なぜなら、私は被爆者だから」と続けた。その様子はほんの少しだけためらいのようなものが
感じられた。私はおじいさんに被爆してからのことを聞いてみた。
まずは激しくお腹を下したそうだ。次に歯茎からの出血。そして強烈な倦怠感。
当時は原爆が原因だなんてわからないから、日に日に悪くなっていく体調にとても不安だったそうだ。
目に見えないものに蝕まれていくのは本当に恐ろしかっただろう。
 
私は何も言葉が出てこなかった。でも、おじいさんは私の目をしっかりと見てこう言った。
「私はこれから絶えてゆく人間だけど、あなたはこれからの世の中をつくっていく人だ。
だから、二度とあのようなことが起こらないよう、頼みましたよ」
私はうなずくのが精いっぱいだった。私は平和を願っているけど、おじいさんの前では何を口にしても
薄っぺらくなるような気がしたから。
ふいに託されたバトンを、軽々しく受け取ってはいけない気がしたのだ。
 
それから私は、原爆に関する本やドキュメンタリーを探した。
そして、スティーブン・オカザキ監督の「ヒロシマ ナガサキ」というドキュメンタリーには、
まさに戦争の正体というべきインタビューが収められていた。広島で被爆した女性は母親を失った。
そして、ある日近所にやって来たアメリカ兵に「私のお母ちゃん、何か悪いことをしましたか?」と、
問いかけるのである。
物を盗んだわけでもない、誰かを傷つけたわけでもない。なのに、なぜ母親は死ななくてはいけなかったのか。
おじいさんとその女性が、片足の鳥居と重なる。戦争によって大切なものを片方もがれてしまった人たち。
結局、戦争のツケを払わされるのは普通に生きている人間なのだ。
 
あれから私は、毎年片足の鳥居と山王神社を訪れている。
普通の人たちが幸せに暮らせる世の中を祈るために。今年も私は手を合わせる。

 
 
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2018-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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