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プロフェッショナル・ゼミ

病は気から、は本当だった《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事: 大國義弘(プロフェッショナル・ゼミ)
 
昔から聞いてはいた。
病は気から。
けれど、医者になって何年もの間、ほとんど、いや全くこの格言は気にも留めてはいなかった。
気にしなくても何とか仕事になっていた。
新卒1年目に麻酔科医を経験したのも、気にしなかった理由かも知れない。
診療相手は、ほとんど眠っている。
手術が怖くて、不安で一杯だろうが、これで病気とは、おさらばだと高揚していようが、(そんな人は居なかったが)、何にせよ、麻酔薬で強引に眠らせてしまうのだ。
眠らないと外科医の仕事が始まらない。
眠ってしまえば、気持ちもヘチマも無い……。
しかし”病は気から”を気にしなかった最大の理由は、気にしないといけないということを知らなかったことに尽きよう。
回り道をして、内科医の端くれになっても、長い間、気にしないで診療をしていた。
けれど遂にこの格言の重要性を知る日が来た。
それも素人の女性のお陰で。
リウマチで通院中の保険の外交員、つまり保険のおばちゃんが教えてくれたのだ。
彼女は”病は気から”を次のように説明してくれた。
「リウマチの原因、知ってる?」
昔、教科書で読んだのは、抑制性のリンパ球の機能不全で、免疫系が正常に働かない……。
でもまさか、素人の女性がそんなことを医者に教えようとするはずがない。
素直に答えた。
「知りません」
「教えてあげる。自分で自分を責めることなのよ」
単純な私は深く感動した。
リウマチがその代表である自己免疫疾患は、別名膠原病とも呼ばれる多くの疾患の総称だ。
膠原病の名前の由来は、人間の臓器、組織を支えるコラーゲンから成る膠原繊維が傷むことによる。
リウマチがその代表の膠原病の原因は、医学的には免疫細胞が正常に働かなくなり、云々と、次々と新たな発見が繰り返されようとも、常に、では何故、それが起こるのか? という問いを永遠に聞き続けることが出来る。
ちょうど、子供の
「何で空は青いの?」
という質問に対して、
「実は太陽光線は七色の光から出来ていて、そのうち青い光が一番沢山、空中のチリにぶつかり地上に反射するからだよ」
と答えたなら、
「何で青い光が一番沢山ぶつかるの?」
という問いが成り立ち、
「青い光が一番波長が短いから、一番沢山ぶつかるんだよ」
と答えたら、
「何で一番波長が短いと、一番沢山ぶつかるの?」
と質問は永遠に続く。
高血圧の原因も同じだ。
高血圧の人が10人いたら、そのうちの9人は原因不明で、その中には、原因として推定されている塩分の摂り過ぎ、喫煙、肥満(これも病気といえば病気だが)、過度の飲酒などを止めても下がらない人がいる。
このような人達の血圧上昇の原因として推定されているのが、腎臓で塩分が過剰に回収されるという説だ。
しかし、この説を知れば、何故、塩分の回収が増えるのか? という問いが生まれる。
この答は恐らくこうだ。
ホルモン系(RAS;レニン、アンギオテンシン、アルドステロン)の働きが増えるから。
しかしまた問うことが出来る。
何故、そのホルモン系の働きが増えるのか?
多分、人類はまだ分かっていない。
もし分かったとしても、その答に対して何故? と聞くことが出来る。
永遠に疑問は解けないのだ。
亡き安保徹先生は、高血圧の原因は交感神経の緊張です、と喝破した。
交感神経が緊張すると血管が縮み、血圧は上昇する。
医学者は、交感神経の緊張の原因として先ほどのRASつまりホルモン系も想定しているようだ。
目下、RASが一番さかのぼれる原因で、そのために交感神経の緊張が起こる。
なら何がRASの亢進を引き起こしているのか、とRASの上流を医者達は研究しているようだ。
しかし、私は間違っているかも知れないが、この交感神経の緊張が最終結論だと思う。
もうその上流(原因)はRASならRASでいいが、その先は検索しなくていいと思う。
何故なら、もう交感神経の緊張の原因は、物質を探さなくても日常でよく見られることだからだ。
逃げるか戦うか。
これが交感神経の緊張の原因だ。
緊張した気持ちが原因なのだ。
私が学生だった40年前、高血圧の原因の9割は不明だと教わった。
今もその比率は変わっていない。
これだけ医学が発達していながら、血圧の原因については、進歩がないかのようだ。
医学者がサボっているのではなく、物質を追求しているからだと思う。
次々と新たな発見がこの40年間で生まれたに違いない。
でもそれが究極の答にはなってはいない。
(だからこそ原因不明が9割のまま)
究極の答は安保先生が言われたとおり、交感神経の緊張、すなわち気持ちに違いない。
自分を押し殺す。
言いたいことを我慢する。
これは逃げるか戦うか、で言えば、戦っているのだと思う。
これで交感神経が緊張し血圧が上がるのだ。
いくら試験管を振っても出てこない答だ。
40年経っても原因不明の人が9割のまま、というのも、そう考えると納得が行く。
恐らく、間違いであることを祈るが、あと40年、マウスやモルモットの皆さんの貴い命のご協力を仰いでも、究極の答は出ないと思う。
リウマチも同様ではなかろうか。
いくら物質的な原因を追及して答が出ても、常に、なぜ、それが起こる? という疑問は消えないのだ。
ただ、高血圧の原因追及も同じだが無意味とは思わない。
どちらも素晴らしい薬が開発されてきている。多分原因追及の成果だ。
物質の追求では終わりは来ないといったが、リウマチの原因は自分を責めることだ、という仮説は、安保先生の血圧仮説に負けないくらいに魅力的で、それが究極の答たり得るからだ。
究極とともに私が惹かれたもう一つの訳は、この”責める仮説”が持つ”偶然”の一致だ。
それは自分を責めると自分を攻撃する抗体が出来て、自分で自分を破壊するということ。
まるで潜在意識が、あなたはそんなに自分を攻撃したいんですか、分かりました、それならお望み通り、攻撃して差し上げましょう、と言わんばかりだからだ。
どういうことか。
自己免疫疾患(膠原病)においては、その名の通り、自己に対して免疫が発動されて、疾患が発生する。
自己に免疫が発動して病気になる、とは、本来なら、自分以外の細菌やウィルスを攻撃し、自分自身を攻撃することはないはずの免疫細胞が、何が悲しくてそんなことをするのかは不明だが、間違いに間違えて、自分を攻撃した結果、病気になるということなのだ。
本来は自分で作った抗体A(ミサイル)が、自分以外の物質Bを攻撃するはずなのに、間違って自分Sを攻撃する。
想像されている理由は、自分の組織Sと自分以外の物質Bが似ているから。
そうなのかも知れない。
しかし、何故、間違えるようになったのか、との問いは残る。
問いは永久に続く。
しかし物質を離れたら、それで医学的な問いは終了だ。
どちらが真実か、あくまで物質か、あるいは心か、は、まだ分からない。
 
あるリウマチの患者さんに、あなたは自分を責めていますか、反省は大好きですか、と聞いたら、いいえ自分は責めません、人のことはよく責めます、と即答してくれた。
脳には自分と他人の区別がつかない領域があるそうだ。
自他の区別がつかないなら、他人を責めたら、自分が責められていると錯覚する可能性は十分ある。
この世の全ては認識という形で自分の心の中に取り込まれる。
他人も同じだ。
“他人”というのは自分が認識し取り込んだ記憶の一つという意味で自分の心の一部。
ということは他人を責めれば、自分の心の一部が責められていると自分が認識する可能性は十分ある。
自分(ないし他人という名前の自己の一部)を責める結果、それに呼応するかのように、自分を攻撃する抗体が作られてしまい、自分で自分を壊してしまうという可能性は大いにあると思う。
残念ながらリウマチの患者さんに出会う機会は少なく、この仮説が正しいかどうかは未だ知らない。
リウマチの専門の先生に聞いても、これが正しいという印象はお持ちではなさそうだった。
しかしこの保険のおばゃちゃんにとっては間違いなさそうだった。
ご自身が責める度合いが強まると、リウマチによる関節の痛みが強まる。
自分を責めるのを止めると、リウマチもよくなる、と言うのだ。
リウマチの特効薬は、今は違うが、当時はプレドニンという副腎皮質ホルモン剤だった。
彼女はよくなるとこの薬を減らし、悪くなると増やす、ということを繰り返していた。
そして久しぶりに会ったとき、教えてくれた。
「折角、(プレドニンを)8mgまで減らしてもらってきたのに、また10mgに戻されちゃったのよ」
痛みが増えたと医者に言った結果のようで、大変残念そうに言うので、からかう意味も込めて、最近、反省してませんか? というツッコミを入れてみた。
すると全く笑いは取れず、代わりに、急に真剣な顔になり、
「そうだわ、そういえば最近、確かに自分のこと、責めてたわ」
と言う。
あなたが教えてくれたんですけど、と言って互いに笑い合った。
「そうだ、もう自分を責めるの、止める」と彼女は宣言し、これでよくなるわ、と明るい表情に戻った。
彼女はまた、有り難うございます、と繰り返し唱えると、病気はよくなると教えてくれた。
同じ時期に、同じ場所で一緒に学んでいた内科の医者で地方の病院の院長がいた。
この院長も、自分自身が患った難病を、自分の膠原病を笑いで治したノーマン・カズンズのように、笑いと感謝で治したと言う。
二人に言われた結果、もしかしたら、自分を責めるのは止めにして、有り難うございますと唱えると本当に病気はよくなるのかも知れない、と思い始め、その後、少しずつ、外来や病棟で試すようになった。
あるとき、80才くらいのご婦人が入院してきた。
検査の結果、肺癌と判明。
高齢でもあり、手術でなく、放射線治療を受けることになった。
近ければ通院で治療を受けられるのだが、遠方にお住まいだったため、およそ六週間、週末だけ自宅に帰ることにして、入院したまま治療を受けることになった。
5分で終わるような治療で、あとは暇だ。
暇に任せて話を聞けば、実は二年前から頭が痛いのだとか。
頭のCT検査は異常なく、脳転移ではなさそうで、神経内科医に相談した。
結果、様々な鑑別診断(考えられる色んな病気の可能性)を教わり、病気の特定のため脊髄液の採取などの検査も勧められた。
しかし、教わったどの病気も当てはまらないように思えて、勧められた検査をする代わりに、これは精神的なものが原因かも知れないと思い、おばあさんに聞いた。
「頭痛が始まった2年前にいやな事はありませんでしたか? ショックだったこと、悲しかったこと、腹が立った事はありませんでしたか?」
すると、おばあさんは、しばらく考えたあとに、
「孫に腹が立ちました」と答えた。
当時、大学生だった孫娘が在学中に妊娠したというのだ。
結婚前の妊娠は、今では珍しくない。
これがきっかけで結婚したりすれば、近頃は、授かり婚というくらいで赤飯かも知れない。
しかし大正生まれのおばあさんにとっては、学生で未婚なのに妊娠なんて、あり得ない。
腹が立った理由がもう一つあった。
孫には夢があった。
卒業後に保母さんになるという夢が。
しかし妊娠を契機に孫は結婚し、つまり授かり婚が実現し、代わりに夢を断念。
保母さんになる代わりに出産し、お母さんになった。
目指していたのは、保母さん。
実際になったのは、お母さん。
”保”と”お”の一文字の違いが大違い。
おばあさんにとっては初のひ孫でうれしいはずが、単純にうれしいだけでは済まなかった。
孫が保母になるという夢を、いつしか自分の夢として生きてきた祖母にとっては、孫が自分の夢を諦めたことは、自分の夢を壊されたのに等しかった。
自分の孫が、もうちょっとで保母になるところだったのに……。
ほぼ保母になるはずだったのに……。
おばあさんは初ひ孫を抱けてうれしい反面、「自分の」夢を壊され、人知れず怒り爆発。
孫が夢を断念し、とってもダンネン、どころか、とっても腹が立った。
そして、その頃から頭痛が始まったようだった。
恐らくは、怒りを爆発させたかったけれども、我慢したのだと思われる。
初ひ孫を抱かせてもらっても、怒りは消えず、その結果始まった頭痛も消えず、ということのようだった。
頭痛の原因は、これに違いないと感じ、おばあさんに聞いた。
「孫は可愛いですか?」
「かわいい。」
「ひ孫も可愛いですか?」
「かわいい」
「ひ孫を抱かせてくれて、お孫さんには感謝していますか?」
「してる」
どうやら怒りと感謝は同居出来るようだった。
更に聞いた。
「あなたは何か信仰を持っていらっしゃいますか?」
「持っている」
「何宗ですか?」
「日蓮宗」
「日蓮宗のお題目は?」
「南無妙法蓮華経」
そこでこのおばあさんに、南無妙法蓮華経と繰り返し唱えるのと同様に、頭痛治しのために、お孫さんに向かって、繰り返し、繰り返し、ありがとうと言ってくれとお願いした。
今日からあなたは、日蓮宗と、ありがとう教の二つの宗派の信者です、という訳だ。
放射線治療は、5分で終わる。
時間はたっぷりあった。
怒りはあるものの、頭痛が消えるのならと、おばあさんは、「ありがとう」と繰り返し言うことを約束してくれた。
すると、「有り難う」を一週間余り続けたところ、効果が現われ始め、それまでは一日中続いていた頭痛が、
「午後になると楽になるようになりました」
と言ってくれた。
2週間を過ぎると、頭痛は起床後数時間程度で消えて、一ヶ月後、退院が近づいた頃には、朝の一時間程度で無くなり、更に退院間際には、朝から頭痛は消えていた。
二年も続いていた頭痛が、2カ月足らずで消えたのだ。
筆者の想像では、ありがとうの言葉が「鎮痛薬」となり、その効果が現れるのに最初は昼過ぎまでかかっていたのが、朝から唱え続けることで、段々と効くのが早まっていったのではないかと思う。
もしあなたが痛みなどの不快な症状をお持ちで、病院で調べ尽くしてもらいながら、なおかつ、その治療が痛み止め、つまり鎮痛剤だけであるなら、その痛みは、消してもいい痛みかも知れない。
そう、痛みには消していい痛みと、そうではない痛みがある。
もしかしたら「ありがとう」を、お経のように唱え続けることで、消していい痛みは、消えるかも知れない。
そしてその「ありがとう」を言うべき相手は、一番「有り難くない」相手、腹が立つ相手かも知れない。
「有り難う」と言うことが、一番効果が現れるのは、「有り難う」と一番言いたくない相手かも知れない。
 
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