メディアグランプリ

「撃つな!」と言われたサバゲーの話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:射手座右聴き(ライティング・ゼミ朝コース)
 
暗く細い階段を降りると、「乾ききった戦場」が姿を現した。
 
山手線の線路近く、築20年くらいの感じのマンション。
地下に、サバイバルゲームのフィールドがあるのだ。
 
緑色のペンキの床、打ちっ放しの壁。
そこに、不思議な造作物があった。真ん中にロッジのような木の階段、
2階建の砦、ダクト沿いに狭い通路、レンガで囲われた陣地、などなど。
 
私は、この日が初めてのサバゲーだった。知人の企画に、好奇心から手を挙げた。
仕事のもやもやがあったので、撃ち合いは気持ちいいんじゃないか。4DXのハリウッド映画にでもいくような気持ちで参加した。ご一緒する方々が次々と到着した。マイガンを持ってくる人、いかつい、SFのようなゴーグルを持つ人。初心者でも大丈夫かな?レクチャーきちんと聞かなきゃ。
 
この店のオーナーが先生だった。肩幅と胸筋がしっかりとしている。明るいけれど、落ち着いたトーンの説明が始まった。ゴーグルは外してはいけない、フィールドに入るまで銃のトリガーを外してはいけないことなど。
 
「今日はこの銃です」
小さいハンドガンを渡された。あれ? バンバン撃ち合うんじゃないの?
 
「買ったばかりのマシンガンを持って来たのに」
ベテラン勢から声が上がった。
 
「初心者の方も多いので、このハンドガンでやります。まず、撃つ練習から」
 
さっと銃を構えた先生の姿は、笑顔だったけれど、只者ではない感じだった。
 
狙いを定めて、撃つ。意外と大変だった。
「しっかりと撃つ姿勢をとって、狙いを定めないと当たりません。
 アクション映画みたいに無理な体勢から撃っても、自分が的になるだけです」
 
さらに、驚きの一言が飛び出した。
 
「ゲームが始まったら、撃たないでください」
 
どういうこと?
 
「撃ったら、弾は減ります。このハンドガンは24発しか弾が入りません。
 弾がなくなったら、やられます」
 
 
撃ちまくれると思って来たのに。
 
「よく撃ちまくる人いますよね。ストレス解消になりますが、実際は弾が限られています。外さないように練習して、最小限撃ってください。それで生き残ればいいんです。
 
 
そうだ。生き残るためだよね。
 
「このフィールド。どの場所にも、必ず死角があります。絶対安全な場所はありません。隠れながら、いざという時、狙って撃ってください」
 
言われてみれば、そんな気がした。砦は、高さがあるが、動きにくい。壁に囲まれたもう一つの陣地は、安全に見えて、後ろにあるダクト通路から攻められたら、弱い。真ん中の階段は、その上に登るか、下から攻めるか、どちらも、死角が生じた。
 
電気が消え、2チームの対抗戦が始まった。初心者の私は、裏の通路で敵を待つという使命を与えられた。
 
シーン。
 
真っ暗な静寂の中、敵を待っていた。心臓の音が聞こえないようにと、息を止めた。通路に光の差し込んだ部分がある。見ると、床に映った影がゆっくりと、こちらに向ってくるではないか! しっかり構え、狙いを定めて引き金を引いた。
 
パーン! 「ヒット」という敵の声がした。倒した!
 
「ダクト待ち伏せしてるぞ、気をつけろ」
そうか。撃つと言うことは、こちらの存在もバレるんだった。
 
また、影が動いた。今度は早かった。走ってくる。
 
パーン! 「ヒット」
 
もう1人撃てた。手は汗でびっしょりだった。ゲームは負けたが、2人倒せた!緊迫感と達成感がたまらなかった。次のゲームが楽しみになった。
 
ビギナーズラックは続かなかった。ゲームを重ねるごとに、みんなの動きが変わってきた。サッ。短い距離を素早く移動する。サササッ。2人同時に移動して、狙いをそらす。サササッ。パンパーン。動く人が狙われないように、後ろから撃って援護するのだ。戦いが高度になると、勝負はつきにくくなった。
 
がしかし、やればやるほどワクワクした。盛り上がった。静かにゲームをし、終わると、「倒された」とか「1人倒した」とか大騒ぎで感想を語り合った。端から端まで30m程のフィールドだったが、どうしたら生き残れるのか、戦い方は無限にひろがっていた。6時間は、短すぎた。
 
「狭いけど、気軽にサバゲーの魅力が伝わるような、都心ならではのフィールドに設計したのです」
 
そうか。フィールド作りも、自らの生き残りを考えて作られているのか。聞けば、警察官や自衛官といった銃を扱うプロの方々も、練習に来られるらしい。
 
簡単に撃たない。正しい撃ち方を練習して、いざという時外さない。
「刀を抜かずして勝つ」は、銃でも同じだったのだ。
 
ハリウッド映画の爽快感を想像して行ったが、サムライ映画のようなストイックで緊迫感のある楽しみを経験した。
 
気軽にやってよかった。同時に、奥深さも知った。
ここのサバゲーは、何にでもあてはまる生き残り方を教えてくれた。
 
また、来よう。もっと奥は深いはずだ。
わかった気になってる自分を、気持ちよく裏切ってくれるに違いないから。
 
***

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2018-07-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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