メディアグランプリ

膝に手を置く見本の面接スタイルは、私には必要ない


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記事:井上かほる(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「では、自己紹介からどうぞ」
 
前の仕事を辞めて2カ月が経ったころ。そろそろ動かねばと重い腰を上げて仕事探しをはじめた。転職サイトに登録し、エージェントからの紹介も受けはじめた。
最初の関門は、書類選考。前職と異なった職を希望した私は、35歳という年齢と未経験という壁にぶちあたり、書類選考を通過する確率が低かった。
 
正直、落ちるのは面接でだろう、と思っていた。簡単ではないとは思ってはいたが、書類でここまで落ちるとは思っていなかった。前職では「井上がいるんなら大丈夫」「井上さんに担当してもらってよかった」と言われてきたからだ。
自分で言うのもなんだが、まわりの評価は高かった。
ところが、新しい職種、新しい環境を求めたところ、紙1枚で落とされる。お前は要らないと連日言われる。数日後には、「まぁなんとかなるか」「合わなかっただけだ」「次いこう!」と思えるようになるが、落ちて2〜3日は「貯金がなくなったら死ねばいいか」なんて思ったりする。
そんななか、ぽつりと書類が通ることもある。書類が通ると、やっと、「会って話す権利」が与えられる。
 
面接。これがまた、書類選考と同様に苦痛である。
今まで仕事をする中で会議でも顧客との打ち合わせでも資料を見ながら話を進めることが多かった。まわりも資料を見ながらこちらの話を聞いていた。なにかを手元に置きながら話すことに慣れていたのだ。
それが、面接の場になると、暗記した内容をツラツラと話さなければならないのだ。
違和感、そして苦痛である。
なぜこのスタイルなのかというと、エージェントが親切にフィードバックしてくれる模擬面接やYouTubeに流れる面接の見本が、手を膝に置き、面接官をまっすぐ見て自己紹介や志望動機を一瞬の間もなく話すものだからである。私もこの見本を参考に、話す内容を考え、暗記した。
そして、面接日当日。新人の初舞台のように必死で暗記した内容を、口から出すのである。
 
面接が終わってから、ふと、前日に暗記している自分の姿を思い出した。自分を頭の上から見る感じ。気持ち悪かった。家の中で片手にノートを持ち、ウロウロ歩きながら抑揚をつけて話す。きもい。でも、この時点ではこの方法が、自分を伝える方法だと思っていた。話しすぎてはダメ、話さなすぎてもダメ。1分におさめろ。長くて3分だ。頭に入れて、話す内容を長くしたり短くしたりする作業をしていた。
 
次に「会って話す権利」を得たのはそれから数日後。気持ち悪いと思いながらも解決法を見つけられなかった私は、前回の面接を少しアレンジした程度のものを暗記し、面接にのぞんだ。
 
「前の会社では、この辺りまわってたことあるの?」
あれ? 自己紹介から始まらない。練習と全然違う入りだ。
聞かれたことに答える。
 
「そうなんだー。原稿ってどうやって作るの? 〆切日は遅くまで残るの?」
思い出しながら話す。
 
いつまで経っても来ない。
「では、自己紹介をどうぞ」「志望動機は?」が来ない。
暗記していた言葉は、ほとんど使うことなく面接を終えた。これまでの働き方や考え方を会話のように話す感じだった。想定していなかった。いや、自分の中にはあったはずだ。暗記することに時間と頭を使い、これまでの自分の働き方や考え方を言葉にできていなかっただけだ。
 
なんだったんだ、模擬面接。気持ち悪い姿で暗記に費やした時間は。
 
ほけーっとしながら外へ出て、思った。面接のスタイルは今回の方がしっくりきた。ただ、自分の言葉を引き出すまでに時間がかかっていた。もともと自分の中にあったはずなのに、自己紹介とか志望動機を暗記する方ばかりに気を取られていて、引き出す準備ができていなかった。失敗だ。でも、自分の中にあるものを言葉にしておくことができていればうまくいっていたはずだとも思えた。
 
そこから私は面接の練習をやめた。そして、自分のこれまでの働き方や仕事に対する想いをノートに書くことにした。人は忘れるものだ。仕事でも、商談であれば商品の金額やメリットデメリットも、会議であればこれまで話し合ってきたことも、時間が経つと忘れる。手元に資料があれば、思い出せるし、そこから話ができる。資料を元に深い話ができる。だから、メモしておいたり、資料をお互いに見ながら話す。面接においては履歴書や職務経歴書が共有する資料になるが、面接官は持っていて面接を受ける側は持っていないのが基本だ。基本となって「面接といえばこんな風景」の中に面接を受ける側の机には何も置いていないイメージがついている。でも、舞台とは違い、面接で話す際に机の上に何も置いちゃいけない決まりなんてないはずだ。
だから私は、面接時に自分の想いや考えを記したノートを机に置いておくことにした。これできっと伝え漏れはなくなり、余裕が出た私はベストな状態で話ができるはずだ。もちろん頭と心にも染みついている。想定していなかった質問はきっと来るだろうけれど、自分を表す言葉さえ手元にあれば、エピソードを話せる。
「そんな、手元にノートなんか置いて。そうまでいないと自分のことを話せないならうちには要らない」と言われるんならそれでいい。だって、私は仕事中も資料を見ながら話すんだから。この状態が仕事をしている状態に近いのだから。だから、次の面接もノートを机に置いて自分を伝えよう。面接官が、働いている私の姿を、イメージできるように。

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2018-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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