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プロフェッショナル・ゼミ

あのカレーを食べたい!《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中野 篤史(プロフェッショナル・ゼミ)
 
 
もうすぐあのカレーを食べられる! 冷房の効いた店内から公園を見下ろすと、白い服を着た3歳くらいの男の子とお父さんが、滑り台で遊んでいた。あのカレーを待つ間、ここまでの道のりが蘇ってきた。
 
あのカレーを食べたい! 7月18日(水)の昼休み、私は酷暑の中を歩いていた。恵比寿駅東口のみずほ銀行から、恵比寿ガーデンプレイスへと向かう上り坂。風呂場のような空気を吸っては吐きながら坂をのぼる。吸っても吸っても酸素が足りない気がする。ふと子供の頃の記憶が蘇った。湯船の中で大きな青いポリバケツを被り潜水艦ごっこをしている。密閉されたバケツの中は、息を吸うほどに酸素が薄くなり苦しくなっていく。そんな昔の記憶に囚われながら歩いているうちに、ボンベイというカレー屋についた。炎天下の中、既に5人が並んでいる。当然私も並ぶ。ケーキ屋のような大きなガラス窓から店内を覗いた。カウンターのみで、6人客が入ると満席になってしまう広さだ。外は日除けがないので、額がジリジリしてきた。少しでも日光に当たる面積を小さくしようと、太陽に対して両肩が垂直になるように立ってみる。みんなが並んでいる方向に対して、私だけ変な角度を向いて並んでしまっている。が、傍目を気にしていられる暑さではないのだ。そして10分後、ようやく店内に入った。
 
券売機でこの店「一番人気」のカシミールカレーの食券を購入。「一番人気」の文字につられ、カレーの説明書きをちゃんと最後まで読まずに選んでしまったことを、この後悔することになる。5分ほどで注文したカレーが運ばれてきた。白いプレートにはライスが。アーモンド型の金属製の器には、若干赤みがかったダークブラウンのカレーが入っている。ところどころ、カレーの表面から角を現す鶏肉。香ばしいスパイスの香りをかぐと、唾液が口の中に溢れてきた。シャバシャバのカレーをライスにかけて、1投目のスプーンを口に運ぶ。口の中に広がるダークなスパイスの香り。固めに炊き上げられたライスの食感がたまらない。続いてやってきたのはダークな刺激だ。けっこう辛い! 大人な辛さだ。それでも構わず、2投、3投とスプーンを口へ運ぶ。うまい! 熱い! 辛い! 辛いもの好きの私にも、このカレーは相当辛かった。妙に思って、メニューをもう一度確かめると、そこにはこう書かれていた。「ボンベイ45年の不動の一番人気。辛さのなかに混沌の妙味、激辛口」。ゲキカラかよ! 食券購入を急ぐあまり、最後の「激辛口」の文字が見えていなかったようだ。胃がヒリヒリしてきた。ちょっときついかも。口へ運ぶスプーンの回転数が落ちる。それでも旨いから食う。なんだこの鞭を打たれながら食べるような、痛みと快楽の感覚は。もやはSMプレーのようだ。そうだったのか私……。
 
あーーー、食ったー。ついに完食した。ついでに新しい自分も発見した。今週最初のカレーとしては、上々な体験だ。あのカレーを食べるまでの序章としては悪くない幕開けだった。あのカレーを食べたい! 翌7月19日(木)、私は、製薬メーカーとの打合せの為、大阪へきていた。正午前、御堂筋線の本町駅から炎天下の中を、ボタニカリーを目指して歩いていた。昨日のボンベイのことが蘇る。また炎天下で行列か……。スマホで場所を探しながらボタニカリーの近くまで来た。しかし、行列は見当たらない。そんなはずはない。ネット調べた時には、いつも行列ができていると書いてあった。ここまで来て、まさかの休みか? でも、見つからない理由はすぐにわかった。ボタニカリーは、ビル1階の通りから奥まったところに店舗があったから、外から見えなかったのだ。到着した時、数人が店舗前に並んでいるように見えた。でも彼らは、店から出てきた客だった。正午前だからなのか、客の切れ目だからなのか、幸運にも並ばずに入店することができた。カウンター席を案内されメニューを拝借。インド風スパイスカレーのボタニカリー&シュリンプカリーの合いがけに決め、注文した。
 
「こんにちはー!」
背後から男性の声で話しかけられた。あまりに親しげな声に、知り合いかと思って振り向く。するとそこには見たことのない30才前後の男性が立っていた。
 
「すみません、秘密のケンミンSHOWという番組なのですが、ちょっといいですか?」と親しげに話してくる。
「はい」と返事をしたものの、普段テレビを見ない私は、番組名を言われてもさっぱりわからない。ローカル番組だろうか。たて続けに男性は話しかけてきた。
 
「おひとりですか?」
「あぁ、はい」まあ肉眼では1人だが、ひとり身かと問われれば妻がいるのである。
 
「府民のかたですか?」
「いえ、仕事で東京から」
「そうでしたか、すみません。府民の方にインタビューさせてもらってまして。失礼しました。」
とういうと、彼はまた新たに入って来た客に話しかけにいった。なるほど、大阪のローカルの番組だったのね。
 
そうこうしているうちに、注文したカレーが運ばれて来た。藍色の大きな皿の真ん中に、丸く盛られたライス。その右側にボタニカリー、左側にはシュリンプカリーがかかっている。この2種のカレーを真ん中で隔てるように、ライスの手前に小さくキューブ型にカットされた、白と黄色のピクルスが。ライス奥側には色とりどりの野菜、スライスチーズ、副菜が盛り付けられていた。すでに見た目で美味しいカレーが完成していた。早速、右のボタニカレーへスプーンを入れた。おっ、意外とまろやかな口当たり。やや気を緩めていると、一瞬遅れてエッジの効いたスパイスの刺激がやってきた。しかし、それほど強烈という訳でもない。ほほー、なるほど。そういう攻め方ですか。続いてシュリンプカレーへスプーンを入れる。こちらはエビの出しが効いているが、ボタニカレーと大きく違う味ではない。交互に食していくが、後半になってこのカレーの真骨頂が現れてきた。左右のカレーと、前後のピクルスと副菜が渾然一体となり、ボタニカリーのカオスな味が出現したのだ。しかも、これがたまらなくイイ! もっと早く混ぜておけばよかったと後悔するくらいに、美味さを増していた。まあ、また今度来た時にじっくり味わうことにしよう。それよりも、もうすぐあのカレーを食べれるという期待感の方へ、私の心は動いていた。そして、同日19日、次の商談のため12;43発のぞみ23号に乗り込み、広島へ移動した。
 
広島駅について改札を出ると、東京では見かけない光景に出くわす。カープのベースボールシャツを来た40代〜50代の女性二人組が歩いていたのだ。東京で中年女性が2人、昼からベースボールシャツを来て歩いている光景には、出くわしたことがない。これがいわゆるカープ女子なのか。
 
さて、夕方の商談がおわると、私は路面電車で八丁堀へむかった。本当は、広島で最高のスパイスカレーと呼び声が高いnandiへいく予定だったが、木曜の夜は営業していないことがわかり、予定を変更したのだ。それでも、にわかに心がはずむ。今夜はタイ料理だ。しかもサワディーレモングラス グリルは、広島でも評判の高いタイ料理店と聞く。そして、ここのゲーン マッサンカレーは、アメリカのCNN Goで世界一美味しい料理50選に選出されたという強者だ。店のドアを開けると、タイ人らしきおばちゃんが、テーブルまで案内してくれた。今夜は生春巻きとゲーン マッサンカレーでいくことにした。まず生春巻きがやって来た。弾力のある食感と、本場のチリソースが、甘く強く舌を刺激する。生春巻きを食べ終わる頃、ついにゲーン マッサンがやってきた! 白いプレートにライスが。薄いヒスイ色をした深底の器には、クリーミーなオレンジ色のカレーが。ココナッツミルクの甘い香りが食欲を誘う。カレーの中には、トマトとジャガイモ、鶏肉がゴロゴロと入っている。私は1投目のスプーンを入れ、口に運んだ。……。ふむふむ。おーー、なるほど。いやー、そうかそうか。ココナッツミルクの中で、クラッシュしたカシューナッツの香ばしさが映える。ああ、このまろやかな甘みと辛さ。極上の幸せ。今日のような熱帯夜にぴったりの南国カレーだ。でもゲーン マッサンカレーは、あのカレーではなかった。あのカレーは、明日7月20日(金)におあずけだ。
 
翌20日(金)、午前中のカード会社との商談を終えると、広島駅から路面電車に乗り込み、中電前駅を目指した。駅から歩くこと数分。ついに来た、nandiだ。ここの店主は、東京にある老舗のインド料理店で修行をつみ、2011年に広島中区にnandiをオープンしたという。木枠のドアを抜け店に入ると、カウンター席に案内された。
 
「すみません! ナンディーカレーで」
「ありがとうございます、ドリンクはどうされますか?」
「じゃあ、ラッシーで」
 
しばらくしてナンディーカレーが運ばれて来た。卵型の白いプレートに黄色いサフランライスが丸くこん盛りと。その脇にはキャベツなどの副菜が盛られている。そしてボール型の白い器には、サラサラしたダークブラウンのカレーが。見た目は辛そうだ。私は、1投目のスプーンをいれ、カレーを口へ運んだ。香り高いスパイスのブレンドが鼻腔を突き抜けた。これこれ! 私は嬉しくなった。ダークな辛さだが、ボンベイのカシミールカレーほどの辛さはない。コクが際立つカレーは、食べているうちにどんどん次が欲しくなってくる。自然とスプーンの回転数があがる。副菜のキャベツも混ぜながら、さらにスプーンが回転数をあげる。そして、最後の一滴までかき集めるように口へ運び完食。食ったー! ナンディーカレーはあと引く美味さだった。おかわりしたい。しかし、そんな衝動を抑えつつ、私は店を後にした。なぜなら、これからあのカレーを食べにいくからだ。広島駅へ戻ると13:09発のぞみ19号へ乗り込み、次の商談がある福岡へ向かった。
 
同日20日(金)16:00過ぎに、この日最後の商談が終わった。ビルを出て、すぐにタクシーを捕まえ行き先を告げる。
 
「すみません、今泉公園てわかります?」
「ああ、はい。今泉公園ね」
「じゃあ、そこまでお願いします」
 
5分ほどで今泉公園についた。外はまだ灼熱の気温だった。公園の反対側に「(株)西日本新聞福岡販売」の看板が見えた。たぶん目指すお店は公園の向こう側だろう。白い砂がしかれた、誰もいない公園を横切る。革靴で一歩進むたびに、ジャリ、ジャリという音がした。公園の反対側に着くと、その店が入るビルを見つけた。ついに来た。店がある2階へ階段を上がっていく。左手のドアを開けると、既にカレーのイイ匂いがしていた。レジにいた女性の店員さんに話しかけた。
 
「カレーもらえますか」
「あ、すみません。今ちょうど作っていて、あと30分程時間をいただきます……」
 
折角博多まできたのだから、他でカレーを食べてまた戻ってこようかとも考えた。でも帰りの飛行機の時間を考えると時間がない。注文して30分待つことにする。
 
「待つので、大丈夫です。カレーお願いします」
「ドリンクはいかがですか?」
「じゃあ、ラッシーで」
 
ついにあのカレーが食べられる。注文して店の奥へ行くと、どうやらあのカレーの考案者らしき人が仕事をしていた。後ろ姿しか見えないが多分そうだろう。
「こんにちは」とか言って挨拶しようかとも考えた。でもやめておこう。流石に東京からカレーを食べに来ましたなんて言ったら、ドン引きされるに違いない。目立たないないように、窓側のカウンターの一番奥に陣取った。
 
もうすぐあのカレーを食べられる! 冷房の効いた店内から公園を見下ろすと、白い服をきた3歳くらいの男の子とお父さんが、黄色い滑り台で遊んでいた。
 
「お待たせしましたー!」物思いにふけっていると、ようやくバターチキンカレーが運ばれて来た。念のため、運んで来てくれた店員さんに確認する。ここまで来て、実はあのカレーは既にメニューから外れていましたなんて、オチがなくもない。
 
「これって、あのカワシマさんのブログのカレーですよね?」
しまった! こんなところで痛恨の言い間違えだ。あのカレーを目の前にして浮き足立ってしまった。名前を間違えるなんて、アホか。
 
「あ、はい、あのカワシロ(川代)のカレーです!」
そして、少し会話のやり取りをした後、店員さんは仕事に戻っていった。
 
まあるく白い皿に盛られた、ライスとトマトベースのカレー。くーーー、もう香りが美味しいのだ。1投目のスプーンを入れ、口に運ぶ。ほわんとカレーが口の中にひろがった。それは、トマトが優しく香る、ソフトなカレーだった。ここ数日、男らしいスパイシカレーを食べ続けてきた私にとって、それはオアシスのような口当たりだった。今週を締めくくるにふさわしい味だ。あっという間に完食し、あのカレーの余韻に浸る。「もう一杯いける!」おかわりしたい衝動にかられたが、帰りの飛行機に間に合わなくなる。帰ることにしよう。公園を見下ろすと、もうあの親子の姿はなくなっていた。そして私は天狼院を後にした。
 
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