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プロフェッショナル・ゼミ

長崎名物精霊流し《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山田あゆみ(プロフェッショナル・ゼミ)
 
あなたが夏の到来を感じるのは、どんな時ですか?
蝉の声を聞いた時? 思わず、「暑い」と一人で呟いてしまった時? エアコンのスイッチを押した時?
私は、爆竹がスーパーで売ってあるのを目にした時です。
 
では、お盆を感じるのはどんな時ですか?
盆踊りを踊る時? 線香の匂いを嗅ぎながら風鈴の音を聞く時? 親戚と食卓を囲む時?
私は、「チャンコンチャン」というカネの音と、爆竹の音を聴いた時です。
 
長崎には、お盆の習慣として「精霊流し」というものがあるのですが、ご存知でしょうか。
8月15日の夕方に行われるこの行事は、盆前に死去した人の遺族が故人の霊を弔うために行うものです。
竹で骨組みを作った船を板や、ワラで表面を覆って手作りで完成させます。故人の家族や友人などの親しい人が、白い法被を着て、この船をひきながら、街を練り歩き、極楽浄土へ送るというわけです。
船の飾り付けも、大きさも、それぞれで、船の飾り付けには、故人の好きだったものを反映したものも数々見られます。会社の社長などの場合は、その会社にちなんだものになっていたり、車が好きだった方なら、車の形に作られていたり、趣向を凝らした船が人々の目を奪います。
町で合同の船も出され、毎年かなりの数の船が街を練り歩くことになります。だいたい毎年1500前後の船が市内に流されます。
これこそが、長崎の夏の風物詩なのです。
 
長崎出身の有名人、「さだまさし」さんは、この行事を題材とした曲、その名も「精霊流し」を作っています。
とても有名な曲ですので、ご存知の方も多いかもしれません。
とても切なく、寂しく、美しい曲です。この曲を知る人々は、精霊流しは、厳かで、とても静かな行事なのだろうと想像するようです。
さめざめと、故人との思い出を反芻しながら霊を見送る行事という感じです。
 
しかし、この行事に、「厳か」とか「静か」とかいう言葉は全く似つかわしくありません。実際は、精霊流しは、大変、ものすごく賑やかです。
 
まず、長崎では夏になると、大量の爆竹がスーパーで売られるのですが、これは、もう全てと言っていいくらい「精霊流し」用となります。船をひいて街を練り歩く人々が必ず手にしているアイテムです。彼らは、最初から最後まで爆竹の束をひたすら鳴らし続けます。一箱丸ごと火を付けるのもざらです。
おそらく、日本のほとんどの爆竹が、この日に長崎で使われるのではないかというくらい凄まじい勢いで消費されて生きます。
 
この爆竹が、何故精霊流しの必須アイテムとなっているのかについては、諸説あるようですが、最も有名な説は、精霊船が通る道を清めるためというものです。
この考え方は中国由来のようです。長崎には、土地柄、中国からの文化や、西洋の文化から色々なところに影響を受けており、この精霊流しにも中国からの影響があるようです。
 
道路を占拠する精霊船の全てが、束になった爆竹をひたすら鳴らして歩いていくわけですから、この音の威力には凄まじいものがあります。
冗談抜きで、鼓膜が破れそうなくらいです。
警備をしている警察の方々は、皆耳栓をしています。
スーパーには、爆竹と共に、耳栓が置かれています。
もしも、長崎に精霊流し見物に来られるなら、必ず耳栓を買うようにして下さい。
期間中は、コンビニでも手に入れることが出来るくらい、耳栓を至るところで見かけますから、購入するのも簡単です。
身の安全のために是非用意してください。
また、火花対策のために、長袖、長ズボンで出かけた方が無難です。帽子もあると、なお安心かもしれません。
 
爆竹の音が凄まじく、忘れられがちですが、精霊船はカネを鳴らしながら進みますし、人々は「どーい、どーい」と掛け声をかけます。
ですから、音が途切れる瞬間というものが、この行事にはありません。
爆竹の音、カネ音、掛け声がミックスされ、街中に響き渡ります。
また、船は趣向を凝らしたものが多いため、見ているだけで、鮮やかで、まるでお祭りの山車を楽しんでいるかのようです。
今は、安全上の理由から禁止されていますが、昔は道路のあらゆるところで、精霊船が回されていたほどです。
もはや、本当にお祭りの山車状態です。
とっても賑やかで、明るいです。
 
まだ、幼かった頃、私はこの精霊流しがあまり好きではありませんでした。
祖父が亡くなった後、初めてのお盆に、精霊船をぼーっと見ながら、祖父がいなくなって悲しいのに、どうして賑やかにしないといけないんだろうと考えていました。何だか、人として正しくない気がしていました。不謹慎というか。違和感を感じました。
精霊船を見上げながら、そこにおじいちゃんが乗っているのか、と考えました。
帰っていくんだ、寂しいなと思いました。
 
「なんで、悲しいのに明るくしないといけないの?」
 
そう聞いた私の問いへの母の言葉を今も覚えています。
 
「おじいちゃんが寂しがらないように、明るく送るのよ。みんなが悲しい顔ばかりしてたらね、おじいちゃんも心配になるしね」
 
そうか、私たちが寂しさや悲しさを感じるのと同じで、おじいちゃんも寂しいって思ってるんだ、そんな事は、考えたこともなかったので、びっくりしました。
でも、なんだか納得しました。そうだよね、きっとおじいちゃんだって家族と離れて寂しいよね。
それに確かに、冗談好きなおじいちゃんだったし、悲しんでいるばかりじゃ、きっと心配になるだろうな、私のこと。
 
相変わらず、爆竹の音は、高らかに鳴り響き、幼い私のは、少し怖かったですが、もう嫌だという気持ちは消えていました。
 
みんな、大事な人が亡くなって辛いけれど、故人が寂しくないように、明るく、派手に見送っているのです。
爆竹を燃やし、声を張り上げ、騒いでいるのです。
 
みんな辛い。でも、それでも別れを受け止めて、生きているのです。
 
むしろ、もっと爆竹を燃やせ! と思いました。
みんなが寂しさを忘れられるように。
 
県外の皆さん、もしもお盆の時期に長崎にいらした際は、あまりの爆竹の轟音に、驚かれ、煩い、怖いという風に思われるかもしれません。ひょっとしたら、昔の私のように不謹慎だと思われるかもしれません。
しかし、爆竹の数だけの悲しみを、この街の人々はこの1年で乗り越えてきて、今を生きているんだと、どうぞ暖かい気持ちで見守って頂ければ、と心から思います。
 
***

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