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プロフェッショナル・ゼミ

一人旅をして、ようやく人生が始まった 《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:伊藤千織(プロフェッショナル・ゼミ)
 
先日、ふと思い立ちパソコンの中にある過去の写真などのデータを整理していたときのことだ。一通り中身を見ていたところ、大学生の頃に初めて一人旅したときの写真や自分が計画した工程表が出てきた。
 
工程表はとても詳細に書かれており、どの路線に乗って何時に到着し、どこを観光し、どこでご飯を食べるかなど、隅々まで事前に調べ尽くされていた。見ていると、当時の記憶が蘇ってきた。
 
思えば、あの一人旅がなければ、今の私はいなかった。
「自分」という扉が開いた瞬間だった。
 
大学3年生の夏だった。青春18きっぷを使い、3泊4日で自宅のある東京から三重県と奈良県の観光地を巡る旅をした。
 
私はこれまで自分1人の力だけでどこか遠くへ行こうだなんて考えたことがなかった。行ってみたい、やってみたいと思うことはあったが、あまり冒険ができないタイプで、どこかお店に行くときなどは事前に口コミなどの情報をしっかり調べてからでないと行けないタイプだった。
 
それがなぜ急に一人旅を決行できたのかというと、それは「生きているうちに絶対行きたい」と思う場所があり、その場所への愛が私を後押ししたからだった。
 
私が生きているうちに絶対行きたいと思っていた場所は、奈良県の明日香村だ。
小学生の頃、明日香村にある石舞台古墳を題材とした漫画を読んだことがきっかけだった。
 
一般的にイメージする古墳は、前方後円墳という上空から見ると鍵穴のような形が特徴的な丘陵だろう。しかし、石舞台古墳は山のような形ではなく、草木もなく、四角い石が積まれた状態で遺されている。元々はきちんと土の盛られた古墳だったようだが、鎌倉とき代に盗掘され石室だけが遺されてしまったそうだ。
 
私が読んだ漫画は石舞台古墳を題材としてはいたが、今思えば古墳の背景とまったく異なる作り話だった。しかしそれでも、その不思議で特徴的な姿を見て、当時小学生だった私の心は確実に震えたのだった。
 
また、明日香村には石舞台古墳だけでなく、日本最古の寺である飛鳥寺や、今から1500年以上前の日本初期の天皇陵など古い遺跡が点在している。そういった日本史の最初の方のページで勉強するような、未だ謎多きとき代が実在した証拠が明日香村には数多く残されており、私はその神秘性に触れるたび心がざわつくのだった。
 
それ以来、私の頭の片隅にはいつも石舞台古墳があり、誰かに旅行したい場所があるか聞かれると必ず「明日香村に行きたい」と答えていた。
 
その思いを抱えたまま10年が経ち、私は大学3年生になった。中学、高校生の頃よりは自由に動ける環境になり、自分への制限は外れてきたが、相変わらず行動を起こすまでに何かと時間がかかっていた。そんなときに、ファンクラブに入会するほど好きだったアーティストが明日香村でライブをすることを知った。
 
この情報を知ったとき、好きなアーティストのライブを好きな場所で見られるとは、なんて最高の機会だ、と思った。絶対行きたいと思った。
 
しかし、結局そのライブに私は行かなかった。行動に起こせず、行く勇気が出なかった。
私の周りにそのアーティストを好きな友人はいなかったし、冷静に考えて、明日香村は自宅からかなり遠かった。自力で泊まりに行くという発想は、当時の私にはなかった。
 
その行かなかったライブの様子は、後日ファンクラブの会報に掲載されていた。明日香村の雰囲気について詳細に書かれており、その様子がそのまま写真に収められていた。
やっぱり行けばよかった。私はひどく後悔した。
絶対に行きたいと思った場所なのに、どうしてためらってしまったのだろう。このまま行かずに、気持ちを無視して私は死ぬつもりなの?
 
私はインターネットで地図を開き、自宅から明日香村までのルートを検索してみた。
もしあのときに行っていたとしたら、どんなルートになっただろうか。
ついでに、三重県の伊勢神宮は行けるだろうか。鳥羽市にある石神さんにも行きたい。奈良県に行くなら、平城京にも行きたい。全部回るとしたら、何時の電車だろうか。何泊必要だろうか。初日はどこに泊まろうか。
これ、青春18きっぷで行ったら安く済むだろうか。
 
とにかく思いつくことを書き出し、がむしゃらに大学のテストや課題そっちのけで行きたい場所を調べ尽くした。そしていかに効率よく行きたい場所を廻れるかルートを探し、細かく計画を立てていった。
この工程表を作っているときはとても楽しく、時間を忘れて夢中で取り組んでいた。絶対に行きたいという愛が詰まっており、この愛だけは必ず成就させなければならないと、自分の中で決めた。
 
これまで「絶対したい」と思うことでさえためらい本気で取り組まずに後悔ばかりしてきた私だったが、出発前日まで綿密に計画を練り続け、入念に荷造りをして、ついに一人旅初日を迎えた。
 
朝6時に自宅を出た。初めて一人旅をするにあたり、両親はとても心配してくれた。当日、朝ごはんを食べずに家を出ようとしたところ、母親がおにぎりを2個作ってもたせてくれた。それを電車の中で食べた。あまりに美味しくて、両親のためにもこの旅行を絶対にいいものにしてこようという気持ちになった。
 
電車の始発から終点まで乗り続ける作業を何度も行い、電車を6回ほど乗り継ぎ、12時に名古屋に着いた。
名古屋駅で特急料金を払い、伊勢神宮のある伊勢市へ向かった。初日は外宮をお参りし、伊勢うどんを食べてホテルに戻った。翌日、内宮やおかげ横丁などを巡り、鳥羽駅へ向かった。到着後バスに乗り石神さんと呼ばれる神明神社へ行ってお参りし、鳥羽市内のホテルに泊まり、3日目、念願の奈良県明日香村へ向かった。
 
飛鳥駅に着いた瞬間、ああ、やっと来られたと、この時点ですでに幸せな気持ちになった。心の中で「おまたせ」とつぶやいた。
 
駅前のレンタサイクルで自転車を借り、自分の組んだ道順通りに巡った。次、いつ来られるかわからない。後悔のないように、省略しないように、隅々まで計画通りに進めていった。
 
石舞台古墳に向かう途中、雨が降ってきた。突然のにわか雨だった。近くに雨宿りできる場所はなく、傘をさす余裕もなく、びしょ濡れになりながらも必死に自転車をこいだ。また、自分で決めたルートだったが、途中の道があまりにも緑に生い茂っていて、本当にこの道なのか不安になった。それでも、ここで引き返すと大幅な時間のロスになるし、ほかに逃げ道はない。ひたすら前へ進み続けた。
 
石舞台古墳の看板が見え、不安は払拭された。到着すると雨は止んでいた。汗と雨が一緒になった姿でチケットを買い、門をくぐると、そこには憧れていたものが佇んでいた。
 
実物は、あまりにも厳かだった。石室の内部に入れたので、階段を降りて入ってみた。雨が降っていたからだろうか、少しひんやりとしていた。石の一つ一つが分厚く、薄暗く、すきまはあるものの密閉されたように感じ、緊張とも恐怖とも言えない感情が押し寄せた。
 
ここに昔の人が、葬られていたのか。目に焼き付けるために、隅々まで内部を凝視した。再び外へ出て、古墳を一周して、お辞儀してその場を離れた。ずっと見ていたかったが、いつまでいても仕方がない。またきっと来られる。そう思い、次へ向かった。
 
明日香村を巡り終えると、2駅ほど電車に乗り、ホテルへ向かった。電車を待っている間、母親に電話をした。無事、目的を達成したことを伝えると、良かったねと安堵してくれた。
私も安堵した。体が濡れていたのもあり疲れ切っていたが、これまでに味わったことのない達成感で心が満たされていた。
 
最終日である翌日は、平城京へ向かった。最後は岐阜県の大垣駅まで移動し、そこから夜行列車で東京へ戻ってきた。自宅に着くと、すぐに泥のように眠った。かなり疲れたが、幸せな気分だった。
 
自分が決めたルート通りに動き、全て実行し、無事に帰ってこられた。
正直、自分の計画通りに素直に実行したのは、はじめてに等しかった。そして自分の立てた計画が正確だったことに、自信がついた。今までの私が、自信のなさゆえに自分の行動に確信が持てていなかったのかもしれない。その意識を、少しだけ変えることができた。
 
すっかり旅行することへの自信がついた私は、その後一人で海外へ行くことにも挑戦してみた。場所は台湾で、以前友人とも旅行したことがあったため雰囲気は知っていたが、さすがに一人海外は寂しい気持ちになった。それでも、自分の生きたいところへ行くという単純なことでも達成する癖がつき、確実に考え方が変わった。
 
私はこの一人旅を通して、自分の考え通りに行動するという、人間としての第一歩をようやく踏み出すことができた。おかげで旅行だけでなく、その後に迎えた就職活動でも自信をもって取り組むことができた。就職活動中はとても楽しく、そこで知り合った友人と今でも交流がある。かけがえのない仲間ができた。
 
以前の私のように、なかなか踏み出せない人や、諦める癖がついている人はたくさんいると思う。それでも、人は好きなもののためなら動けるはずだから、ぜひともそれを原動力にして、一目など気にせず飛び込んでみてほしい。きっと変われるし、人生はそこからようやく楽しめる。自分の力で変えていけるということを、もっと気付いてほしいと思うし、この経験を通じてそんな支援ができたらいいと思う。
人生は夢だらけ、という言葉があるが、本当にその通りだ。人生はこれからだ。
 
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