メディアグランプリ

異常なほどの暑さのさなかに気づいた、わたしが見失っていたこと。


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記事:山本しのぶ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
暑い、暑すぎる。
今年の夏はとにかく過酷だ。
 
もともと暑さには弱い。中学校最後の部活の大会の最中に熱中症になったこともある。
大学に入り、大阪で暮らすようになってから、ますます夏が苦手になった。実家は山のなかにあり、当時は日中の日なたは暑くても、夜になれば扇風機で過ごせるくらいの、クーラーがなくても困らない気候で過ごしていた。
 
ところが、大阪の夏は逃げ場がない。街中はアスファルトとコンクリートで覆われ、あたりを見回しても、山が遠い。焼きつけるような太陽と動かない空気。
「実家に帰りたい」
夏になると毎年つぶやいていた。
 
数年前から神戸で暮らすようになり、大阪の街中よりはすこしはましかなと思っていた矢先の今年の夏。七夕あたりの、西日本各地に大きな被害をもたらした豪雨が終わるとともに、短かった梅雨が終わり、いきなり本格的な夏が始まった。
 
その頃、わたしは微熱続きだった。朝起きた時点で体温を測ると37度前後。日中測ってみると37.5度前後なことがしばしばだった。
妊活中、そして時期的には移植後の高温期。
これはいい兆候なんじゃないかとこころひそかに思っていた。妊娠していれば、体温は高温が続き、それは普段の高温期よりも高めだったり、風邪っぽいような症状がでたりする(こともある)。
移植を終えて、検査日までそわそわとしながら日常を過ごす。仕事も家事も普段どおり。マラソンや激しいスポーツは止められているけれど、もともとそんな習慣はない。ホルモン剤を使い続ける日々にも慣れた。体温が安定して高い、そのことが希望をもたらす日々がある。
 
判定日は相も変わらずとにかく暑い日だった。
予約の時間の都合上、日中に出る必要があったので、なるべく日なたを歩かず、地下を歩けるところは歩き、そうして行って帰ってきた。
血液検査で結果を確認する。
結果は、陰性。
慎重に慎重を重ねて、受精卵の検査も子宮の検査も血液の検査もすべてして万全にした状況での陰性だった。あぁ。ため息しかでない。
 
長い待ち時間を経て、遅い昼食を食べ、行きつけの鍼灸院に寄り、帰宅。こういう結果を聞くことを何度も繰り返していると、泣くこともうまくできなくなってくる。次はあれとこれの検査をして、それにはいくらかかって。あー、はい、よろしくお願いします、と言って、再びたくさんの血を抜かれた。ただ、次。次はどうするか。とにかくできることをやり続けていく。それ以外のことを考えると、頭が混乱してくる。考えに考えて、結局、できることをするのみ。すでに、考えることは考え尽くしている。思い悩むことも悩み尽くしている。
 
家に帰って横になる。だるい、とにかくだるい。なぜだか喉がとても痛い。夜になり、からだを引きずるようにして夕ごはんの買い物に行ってなんとかものを食べたけれど、吐いてしまった。
翌朝、いつものように体温を測る。そしてまた次の朝も。
38.3度。さすがにおかしい。風邪? なに? めまいと吐き気がひどい。
 
入っていた予定をキャンセルして、本格的に寝込む。とにかくだるくて動けない。2~3日して、ようやくからだを起こせるようになり、すこしずつ日常に復帰していった。
 
思えばあれは熱中症だった。おそらく、あのしばらく続いていたいつも以上の高温はからだの熱がこもってうまく放熱できなくて起こっていたものだったのだろう。ホルモン剤を使っていた影響もあるのかもしれない。そして、冷えることをおそれるわたしの行動も影響していたのかもしれない。
 
暑さが苦手なわりに、わたしは寒さも苦手である。
とくに足が冷えやすくて、幼いころは毎年足指にしもやけをつくっていた。
なので、夏場でもクーラーの効いたところにいると足から冷え出す。冷えることは血行がよくないことだから、なるべくからだを冷やさないように生活していた。
暑いさなか、クーラーはしっかり使っていた。設定温度は高め。冷やしすぎないように気をつけながら。お風呂にもなるべくしっかり入るようにしていた。
 
熱中症だったかも、と思い出したころ、ネット上ではたくさんの熱中症対策の方法を見かけるようになっていた。異常なほどの猛暑。多くの人が熱中症になっていた。
そこでみかけたもののなかに、熱中症になった人を冷やすのには、脇や鼠径部を保冷材で冷やすだけでは不十分で、水風呂に入れたり水をかけたりするのがいいという情報があった。
 
なるべくからだは冷やしすぎないように、と思って生活していたわたしにとって、これはちょっと衝撃的な情報だった。しかし、からだのなかの熱感はずっと残っている。保冷剤を頭や脇に当てたりしていたけれど、全身の熱が取れる感じはしなかった。
だったらちょっと試してみようと思い、水のままのシャワーを浴びてみた。はじめは抵抗があったが、すこしずつ慣らしていくと、あら、なんだか気持ちいい。
全身で水浴びをしているような感じになり、からだの熱が引いていく感覚があった。
 
あぁ、そっか。
わたし、熱がこもっていたんだ。
あらためてそう思った。そして、思いっきり水を浴びてまずはからだの熱をとったらよかったんだ。そこからまた、今度は熱中症にならない対策を考えてみればいい。
 
そう思ったら、急に気持ちが楽になった。
自分で対処できることがある。まだまだできることがある。それだけの余裕はまだある。
 
改めて検査を行う周期が始まっている。
まだまだわたしのなかで、できることがある。そして、自分の状態を自分で気づいて、できることをしたらいい。
思い込みやあきらめではなく、きちんとからだの状態を見て、そしてそれに対処していく。
暑いさなかに、わたしはそんなことに気づいた。

 
 
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2018-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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