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メディアグランプリ

母が今日も笑顔で歌っていますように


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:甲斐菜々子(チーム天狼院)
 
思い返せば、母はいつも歌っている。
 
そういえば、近所のスーパーに行く合間や、学校の送り迎えによく歌ってくれていた。
母の歌声は澄んでいて、よく通る。
本当に楽しそうに歌うので、わたしも楽しくなってきて、リズムをとる。
ふんふふん、と適当なリズムに乗って変なアレンジをしだす母が心底おかしくて、
涙が出るくらい笑いあう。
「途中から適当に歌ってたやろ!」
なんて突っ込む父の笑い声。
そんな時間がとても大好きだった。
 
 
歌うのが大好きな母に比べて、わたしは全然歌が上手くなくて、
人前で歌うなんてとてもじゃないけどできない、と思っていた。カラオケでさえとても勇気がいる。
私が物心ついた頃、すぐに歌い出す母の陽気さと歌のうまさを不思議に思って、
「どうしてそんなに歌が上手いの?歌、小ちゃい頃から好きやった?」
と聞いたことがある。
すると母は、上手くないよ〜! なんてまんざらでもなさそうに笑って、
 
おかあさんね、小さい頃からおじいちゃんによく歌わされていたんよ。
近所の人が毎晩家に遊びにきていてね、毎晩が宴みたいだったんよね。
毎度のように、こっちこんか! って酔っ払ったおじいちゃんに呼ばれて、
姉さんといっしょにお客さんの前で歌ってたんよ、楽しかったなあ……
 
と話した。母の目には、幼い頃の記憶が映っている。
その記憶が、今の母の歌好きに繋がっているのだろうな。
そういえば祖父も祖母も、母の姉である叔母もよく歌っていて、
母の親戚が集まるといつも大合唱になる。
私は圧倒されてしまって笑顔で聞いているだけなのだけど。
そんな家族の中で過ごした母だから、歌は身近で、幸せな家族のイメージなのだろうなと思った。
 
そんな明るい母に支えられて、我が家は回ってきた。
 
たけど私が高校生になった頃、父の役職が上がり、家族の時間が減った。
もともと忙しかったのにさらに仕事は増え、通常の勤務時間では仕事が回らない、と早朝に出勤し、
帰ってくるのは夜中になった。たたでさえゆっくりと話をする時間がなかったのに、
さらに父の顔を見る機会が減っていった。
父の話を聞く時間も、わたしの話を聞いてもらう時間もなかった。
 
でも、たまに会う父はとても疲れていて、愚痴が止まらなかった。
激しい声で吐き出される愚痴を、すべて母が受け止めていた。
大変やったね、お疲れ様やったね、と優しい声で根気強く隣に座って話を聞く。
どれだけ遅く帰ってきても必ず起きて待っていたし、
次の朝も父より早く起きて栄養満点の朝ごはんを作る。
そして、「いってらっしゃい!」と笑顔で父の肩をたたく。
父にとっても、母にとっても、ほぼ休みのない毎日が続いていた。
そんな両親を、私は見つめることしかできなかった。
父に対してどう接していいかわからなかったのもあるけれど、
毎日バタバタな高校生活を送ることにも必死で、父の愚痴から逃げていた。
 
 
そんなずるい私だから、母が歌わなくなったことに気づけなかった。
 
 
その日は休日なのに父は出勤の準備をしていた。
怒涛の勢いで父を送り出した母は、魂が抜けたようにポスンとソファに沈んだ。
そして、
「お母さん、いつもみんなが歌ってるような家がいいなぁ」
とポツリと呟いたのだ。
そして、「疲れたなぁ……」と消えるような声で言い、私に背を向けた。
滅多に泣かない母が、肩を震わせて泣いていた。
 
その言葉を聞いて、咄嗟に言葉が返せなかった。
そして、気づいた。
母の歌声を最近聞いていなかったこと。今更、気づいたこと。
何もできていなかった情けなさが、
ザクリとわたしの心を刺した。
 
 
家族が家族を見ていないで、どうするのだ。
ものすごく後悔した。
いつも明るい母なら、父の暗い気持ちもなんとかしてくれる、なんて。
そんな風に軽く考えて、母の負担に気づいていなかった。
母だって、苦しいのだ。
いつも歌を歌って、苦しいことを楽しいことに変えてきた母が、まさに今倒れそうなのだ。
 
 
私にも、何かできることがないのだろうか?
母の歌と笑顔を取り戻したい一心で、叔母に相談した。話を聞いた叔母は、
あなたのお母さんは頑張り屋さんやから、と一言いい、
気晴らしになることに誘ってみるから安心しなさい、と電話を切った。
 
 
そして叔母に誘われ、母は「気分転換になるかもしれないから」とフラダンスを始めた。
かわいいスカートが恥ずかしいよ、なんて始めは言っていた母も、
だんだんと楽しそうな様子が見えるようになった。
 
次はこのダンスを踊るんよー!
 
みてみて! としゃもじ片手に歌い、踊り出す母を笑っているうちに、わたしの目に涙が滲んだ。
この涙を、笑っているせいだと母が思いますように。
やっぱり、この笑顔が我が家には必要だ。
母が笑っていてくれたら、きっと父も、私も、笑顔で家を出発できるのだ。
そして、家に帰ってきたら母の笑顔につられて、きっと笑っていられる。
だから、私は母の笑顔と、楽しげな歌声をいつまでも守りたいと思う。
 
大学生になった今、母からのラインが届く。
 
フラダンスの発表会があるから、いつか見に来てね!
 
母が歌って踊る動画に、父の笑い声が入っている。父はきっと強引に撮影係に任命されたのだろうな。
想像して、クスリと笑ってしまった。
 
私も、母みたいに歌えるようになるといいな。
そして、母みたいな素敵なお母さんになれたらいいな。
そんなことを考えていたら、いつのまにか母が踊る歌を口ずさんでいた。
 
***

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2018-08-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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