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プロフェッショナル・ゼミ

1000万PVを稼いだ私が「まとめ」を辞めた理由《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:牧 美帆 (プロフェッショナル・ゼミ)
 
 
「よし、またトップページに掲載された!」
 
 ある朝、電車に揺られながらスマホからログインして、PV(ページビュー)をチェックしていた私は、こっそりガッツポーズをした。
 
 これは天狼院メディアグランプリの話ではない。
 もう何年も前、とあるメディアに「まとめ」コンテンツを投稿していた頃の話だ。
 
 あなたには、知りたい情報について検索してみたら、いろいろなサイトの文章からの引用ばかりで構成されていて、本人オリジナルの文章は最後に少しだけとか、下手すると全くない……そんな記事がヒットした経験はないだろうか?
 
 そういうことを、私もやっていた。
  
 始めたきっかけはあまり覚えていない。
 ただ、何かのまとめを見て、「これなら自分にも出来るかもしれない」と思ったのだ。
 
 文章を書くのは昔から好きだったが、仕事と育児の両立で、書く時間を捻出するのが難しかった。
 そして……それは言い訳で、自分の書いた文章が否定されたり、読まれなかったりすることが怖かった。
 
 でも「まとめ」であれば、否定されたところで、それは「私」ではない。だから、傷つかない。
 そんなずるくて臆病な考えから、私は「まとめ」を始めた。
 
 もっとも、最初は注目されたい! そのページを開いた数、いわゆるPV(ページビュー)を増やしたい、という気持ちはなかった。
 
 最初に手をつけたのは、「名付け」に関する情報のまとめ。
 というのも、私は子供の名前を考えるという趣味がある。以前にメディアグランプリにも『「子供の名付け」は服装を選ぶようなもの』という記事を投稿させていただいた。
 
 私はさっそく、名前に使えそうで使えない漢字についてまとめたり、色を軸にまとめたり、名前に使えそうな外国語の響きについてまとめた。
 あとは、自分が高校時代に好きだったバンドの近況について細々とまとめたり、映画のレビューをまとめたりしていた。
 それはまるで自分のブラウザに登録された、「お気に入り」の延長のようなものだった。
 PVは、1日に数百だったり、数十だったりと伸びなかったが、それでも私は満足していた。
 
 次に、赤ちゃんに関するニュースをまとめた。
 自分自身が育児中だったこともあり、赤ちゃん関連のニュースはずっと追っていた。
 そして、ただニュースを読むよりも、その読んだニュースをまとめた方が「賢い!」なんて思っていた。
 
 あるとき、いつものように「まとめ」メディアのページにログインした私は、異変に気付いた。
 
「嘘っ! PVが、1万を超えてる……?」
 
 それは、こんなニュースだった。
 丸い図形と四角の図形が登場し、片方の図形は、もう片方の図形にぶつかったり、追いかけ回したりする動画を赤ちゃんに見せる。動画を見せ終わったあとに、赤ちゃんに図形を選ばせたところ、8割がぶつかったり追いかけ回される方を選んだ、だから人は生まれながらに善人なのではないか、という研究を取り上げていた。
 そのニュースと、他にネットで検索して拾ってきた、最近の赤ちゃんに関する研究をまとめた。
 それが、ちょうどタイムリー、かつ他にまとめている人がいなかったため、トップページに取り上げられたのだ。
 PVの数になんて興味がない……なんて思っていたのに、いざ自分のまとめがみんなに見られると、嬉しいし、気持ちよかった。
 
 そのサイトは、運営者が定期的に新しい「まとめ」をチェックし、いいと思ったものがあればトップページに取り上げる、という仕組みを取っていた。
 トップページに載れば1記事あたり数万から数10万のPVが見込めるが、トップページに載らなければ、1日に10PVしか見られないなんてことも珍しくない。トップページに載るのと載らないのとでは、天と地の差があった。
 
 結局、そのまとめは、最終的に6万PVを記録した。
 パソコンの画面とにらめっこしながら、私はつぶやいた。
「この調子で続ければ、トップページにどんどん取り上げてもらえるのでは?」
 
 欲が出た。そして、その日を境に私の「まとめ」のスタイルが、がらりと変わった。
 
 早起きして、自分の興味のある・ないに関わらず、ニュースを片っ端からチェックし、気になる見出しをメモする。
 Yahoo! JAPANのトップページにあるようなニュースはみんながまとめるので、もっとマイナーなものでなければならない。
 
 ニュースのまとめは、とにかくスピードが命。
 
 まとめられそうなニュースが見つかれば、既に誰かがまとめていないかを、検索してチェックする。 
 当然ながら、誰かがまとめてすでにトップページに取り上げられたものを、後からまとめても意味がない。
 それが続報でない限り、同じニュースのまとめが二度トップページに取り上げられることはほぼ無い。
 
 まとめるテーマを決めたら、15分から30分かけてページを作成し、投稿してから、家事や仕事に取り掛かる。
 
 そして、あとは運命の時間が訪れるのを待つ。
 そのサイトは、1日に何度か、トップページが更新され、新しいまとめが紹介される。
 更新回数やいつ更新されるかというのは公表していないようだが、まめにチェックしていれば推測は可能だ。
 運営から丁寧に「あなたのまとめがトップページに掲載されました」とお知らせしてくれるわけではないので、自分で直接サイトを開いて確認しなければいけなかった。
 
 そしてその日の更新で自分のまとめが取り上げられなければ、翌日に取り上げられることはまずない。要は失敗、ということだ。
 自分が狙ったニュースを他の人がまとめて、かつ取り上げられているのを見ると、悔しくて地団駄を踏みたくなった。
 
 
 PVを稼ぐまとめには、いくつか種類がある。
 まずは、ニュース系のまとめ。
 トップページ掲載を狙いやすく、その瞬間はよく読まれるが、数日後にはまったく読まれなくなる。
 そして、トップページに取り上げられなかったまとめは、数100PV止まりというのもめずらしくなかった。
 
 それから、いわゆるストック系のまとめ。瞬間風速的なPVの伸びは期待できなくても、検索などでじわじわ見てもらえるようなまとめだ。
 私の場合は、最初の方に作成した名付け系のまとめがそれに該当する。
 当然トップページに取り上げられることはなかったが、じわじわと読まれ、各まとめは数十万PVを記録。一番多いまとめは200万PVを記録した。
 
 最後に、Twitterのまとめ。
 おそらく、これが一番難しい。
 というのも、既にトレンドになっているものをまとめるのでは、遅いからだ。
 これから拡散されそうだ、というツイートをキャッチしてまとめる必要があるからだ。
 
 あるとき、とある人物が、Twitterで自身の銀行の口座番号を晒した。
 これは、まとめたらみんなに見てもらえそうだ! と飛びついた。
 まずは、その人のツイートをトップに配置した。
 入金しました、という報告するツイート。
 お礼を述べるツイート。
 真似して口座番号を晒すツイート。
 常識がないと批判するツイート。
 こういったことを実現したいからお金が必要だと訴えるツイート。
 振り込んだ人に、お礼として自身のイラストを送ったというツイート。
 そういったものをひとつずつ探し出しては追加し、淡々とまとめる。
 PVはどんどん伸び、50万近くにのぼった。
 
 
 そんなまとめを作り続けていたある日。
 いつものように、まとめのページにログインした私は、いつもと違うことに気付いた。
「あれ? 何か通知が来てる?」
 開いてみると、それは、私が作成した、とあるまとめについての、「権利者からの要請により、まとめに埋め込んだツイートを非表示にしています」という連絡だった。
 
 ショックだった。
 そのツイートの主は、私が憧れて、Twitterでフォローしている人だった。
 そのときようやく、「自分のやっていることは、良いものではないのだ」ということに気付いた。
 
 正直に言うと、当時は「自分も情報の拡散に一役かっている」という、思い上がりの気持ちがあった。
 しかし、いくらまとめに元記事のリンクを張っていたところで、そのリンク先をわざわざクリックして、元の記事を読みにいく人が、果たしてどれだけいるだろうか? 上辺の情報だけを追い、満足して「はい次」と、そのまま閉じてしまう人が多いのではないか?
 さらに、今は見直されているようだが、元の記事よりも、そのまとめ記事の方が検索結果で上に表示されるということもままあった。
 情報提供元にとっては、いい迷惑でしかないのだ。
 
 また、その数日後、口座番号をさらしたツイートについても、「権利者からの要請により、まとめに埋め込んだツイートを非表示にしています」という通知が来ていた。
 最初に全世界に向けて口座番号をさらしたのは、その人自身。でもだからといって、それを私がまとめていいということにはならない。私のやっていることは間違っている……あわてて、そのまとめを削除した。
 
 そして、私は「まとめ」から足を洗った。
 直接の引き金になったのは、「権利者からの要請」。
 また、そのまとめメディアに参入する人が増えすぎて、トップページに掲載されることががくんと減ったというのもある。
 
 だが、一番の原因は、虚しくなったからだ。
 
 まとめをするようになって、ニュースだけではなく、これまで読んだことがなかったようなブログやメディアに目を通すようになった。
 そして気付いたのだ。世の中には、インターネットで面白い文章を発信する人が、沢山いるのだということに。
 そういった面白い文章に目を通しているうちに、まとめをする時間はなくなってしまうし、気力もなくなってしまった。
 私がせっせとまとめている間にも、他の人たちは日々、面白い文章を生み出している……。
 
「私は、一体、何がやりたかったんだっけ……?」
 
 もちろん、埋もれていた情報を丁寧に拾い集め、価値あるまとめを提供している人も、世の中にはたくさんいる。
 しかし、私のまとめは、その域に達しなかった。
 
 最終的に、私のまとめたものは、トータルで1000万PVを超えた。
 しかし、実感も喜びの気持ちも湧かなかった。
 それは、私がつづった言葉ではないからだ。
 
 
 そして私は今、毎週メディアグランプリに投稿するための文章を書いている。
 あのときの苦い気持ちが、私の原動力のひとつだ。
 フィードバックの瞬間は、「自分の作成したまとめがトップページに掲載されたかどうか」を確認するときよりも、ずっと怖い。心臓がバクバクするし、フィードバックを開こうと、マウスを持つ手も震える。
 
 でももう否定されることを恐れたりしない。否定されることで、一歩前に進むことができる。
 それに、自分の気持ちに嘘をつく方が、否定されることよりも、ずっとずっとしんどいことを知っている。
 
 
 先日、ありがたいことに「天狼院メディアグランプリ22nd Season」で週間1位を2回、総合で4位をいただいた。
 それは、まとめで1000万PVを達成したときよりも、ずっとずっと嬉しかった。
 
***

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