プロフェッショナル・ゼミ

天狼院書店という名の動く城《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:久保明日香(プロフェッショナル・ゼミ)
 
「久保ちゃんさ、最近社交的じゃない?」
先日参加した同期会で突然、話が振られた。
「それは私も思ってた! 今まで飲み会に誘っても全然来なかったのに、参加率があがったよね」
「組合にも入ったんでしょ? 何かあった?」
 
私の変化を周りの人間も気づいているようだった。
その変わりようはスケジュール帳を見れば一目瞭然。一年前と見比べると倍くらいの量の予定が書き込まれている。それはなぜか。
一年前、私が新しい扉を開けたことが全てのきっかけとなっている。
 
 
「インターネットは、今日絶対つくんだよね?」
一年前のお盆休み、私は何度も夫に問いかけた。
「電話では今日の夕方には取り付け完了しますって言ってたから大丈夫だと思うけど……」
「夜じゃ遅いんだからね! 絶対夕方には完了してないとダメなの!」
夫にいくら言っても彼は業者ではないからどうにもならないのだけれど、私は何度も確認せずにはいられなかった。
 
8月13日、お盆真っ只中のこの日、私は引っ越しをした。
引っ越しをしたその日くらい、インターネット無しでなんとか頑張れるだろう、と思う人もいるだろう。だけどこの日ばかりはそういう訳にはいかなかった。なぜならば、この引越の日は天狼院書店のライティングゼミの初回講義の日だったからである。
 
 
当時の私は単調な毎日に嫌気がさしていた。
希望していた会社に就職出来ず、落ち込んでいたものの、ちょっとは頑張ってみよう! と働き続けて4年が経っていた。最初のうちは毎日新しいことに満ち溢れていて刺激的だったけれど、それも長くは続かない。次第に仕事にも張りがなくなっているのがわかる。このまま今の仕事を続けていていいのだろうか、私が思い描いていた人生はこうだっただろうか、と思い悩んでいた。4月に担当業務の上司が変わり、もしかしたらまた張りが出るかもしれないと期待を抱いたのも束の間、残念ながら上司との相性が良好とは言えず、この思いに拍車がかかることになる。
「あの、次に何をすればいいですか」と仕事を求めれば「それは自分で考えて」と言われ、「それ、手伝いますよ」と声をかければ「ううん、こっちでするから大丈夫」と断られる。
コミュニケーションが上手く取れず、出勤してもただ座っているだけで、自分がまるで給料泥棒になったように思えた。居心地が悪くて毎日、腹痛が止まらなかった。病院に行ってみたけれど、精神的なものだろうと言われた。毎朝会社を休みたいと思ったけれどきっと一度休むと癖になる。だから毎日しわしわに枯れきった心で出勤をしていた。
 
そんなときだった。
 
「人生を変えるライティングゼミ」
入り口にそう書かれた扉が私の目の前に現れたのである。
 
人生を変えるだなんて、そんな大げさな、と思う一方で現状を打破したいと強く思う自分がいた。当時は天狼院書店という名前も知らなかった。店舗も私の活動範囲とは全く別のところばかりに存在する。この書店は本当に実在するのだろうか、もしかしたら騙されているんじゃないかという考えがよぎる。だけど“人生が変わる”という言葉に惹かれた私は思い切って扉を開けてみることにした。
 
するとそこには、魔法にかけられたような、今までとは違う世界が広がっていたのである。
 
 
“毎日2,000字程度の記事を書いて、その中で一番いいものを毎週ひとつ、提出すること”
新たな世界で私に課せられた課題はこれだった。
「これをこなせばここに居てもいいんだ」
会社に居場所がないと感じていた私にとって、場所を与えてくれることは本当にありがたいことだった。もちろん最初は苦戦した。元々文章を書くことは好きだったけれど、本腰を入れて書いたのはもう何年も前にもさかのぼる。だけど、自分の居場所を確保するために私は毎日、書き続けた。
 
同じ講義を受けた仲間の記事を読み、
「すごいな、そんな発想があったのか!」
「大変な思いをしたんだなぁ」
と毎週新しい発見ばかりだった。老若男女が書き綴る個性豊かな記事に日々学ばされた。そんな生活を繰り返すうちに私はあることに気がついた。
 
それは過去の経験を題材として書いた記事が魅力的だということだった。
 
私もそんな魅力あふれる記事が書きたい。いや、同じ扉をくぐったのだから、きっと書けるはずだ! そう自分に言い聞かせて脳内のダイヤルを過去のある時に合わせるようにして回す。カチッと音がした後、そっと扉を開けると扉の向こう側には歩いてきた道が広がっていた。それは幼少期のときもだってあるし、数年前のときだってある。私は自分が行きたい時へと脳内を旅することができるようになったのだ。
そして自分の記憶のかけらを拾い集めて現代へと戻ってきて記事にまとめ続けた。
 
 
このように毎日脳内で旅を続け、記事を書き起こしていたのだがある日ふと思った。
このままのペースで旅を続けると、過去が足りなくなるのではないか。いくら自分の中を自由に移動できるといっても見つけられる経験は無限ではない。過去がなくなったら旅は終わってしまうのだ。
だったら、自分で飛べる過去を作るために、今を一生懸命生きるしかないと思った。なんでもない日常を振り返った時に“おもしろかったな、こんなことがあったな”という取っ掛かりになる出来事を作っておけば未来の私はきっと困らない。
 
そのことに気づいてからは極力、ありとあらゆるところに顔を出すように心がけた。
今まで断っていた飲み会に行き、二次会のカラオケまで参加してみた。同期と日帰り旅行に行ってみたり、会社の同僚にジャズバーにも連れて行ってもらった。全ては過去を作るためだ。だけどそうすることで私の人生が、未来がちょっぴり豊かになっていく、そんな気がした。
 
 
そんな旅を毎週、いや、毎日続けてもう一年が経つのか……。
今年のお盆休み、一年前を振り返りながらテレビを見ていた。
たまたま回したチャンネルでは金曜ロードショー、『ハウルの動く城』が放映されていた。
久しぶりに最初から最後まで物語を見たのだが、途中から心に引っかかるなにかがあった。そして全て見終わって一つ、確信したことがあった。
 
それは私がこの一年間、天狼院書店のライティングゼミで『ハウルの動く城の』ヒロイン、ソフィーのような生活を送っていたということだった。
 
 
ヒロインのソフィーは帽子屋として毎日代わり映えの無い日々を送っていた。
ある日、ひょんなことから魔法使いハウルと関わったことにより、ハウルを狙う魔女に魔法をかけられてお婆さんにされてしまう。しかし、ハウルの動く城の住人として生活していく中で仲間とともに一回りも二回りも成長していく、そんな物語だ。
 
この物語のなかで魅力的なのがタイトルにもなっている「動く城」だ。
ひとところに留まらず常に動き続けるその城は一見、不気味に見える。同じ形の窓やドアはなく、動くために必要な足だってすべての形が違っている。だけど、一つ一つのパーツが役割をこなし、しっかりとした足取りで前に向かって進んでいるのだ。城の中はダイヤルを合わせて別の時空へ行き来できる魔法の扉や、洞窟のように先が見えない部屋、まじないの類など魔法で満ち溢れている。一度入ったらあれやこれやと目移りしてなかなか出てこられない魅力が「動く城」にはあった。
 
 
天狼院書店もそうだ。
常に新しことに向かって前進するその城を一見反発し合いそうな個性豊かな店主、スタッフが切磋琢磨しながら舵を切り、城を動かし続けている。城内では多くの講座が開講され、扉をくぐったそれぞれの人が仲間たちと共に成長できる、そんな仕組みになっている。
私がお世話になっているのはダイヤルを合わせて時空を旅する魔法の扉だけれど、他の講座では別の魔法によって仲間たちが満足の行く生活を送っているに違いない。
 
 
一年前、目の前の扉を開けて一歩踏み出して本当に良かったと思っている。
過去の経験を拾い集め、現代に戻ってきて記事にして昇華する。それを繰り返すことで居場所が見つかり、しわしわだった心が今ではすっかり潤いで満ちている。
仕事で張りがなくても、毎日の生活に張りがでる。
それが糧になり、毎日頑張れる。
 
 
プロフェッショナルゼミの課題提出も残すところあと数回だ。
さぁ、今日はダイヤルをどこに合わせて、旅に出ようか。
 
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