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メディアグランプリ

平成最後の夏、2018年の博多祇園山笠


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中西由紀(ライティング・ゼミ特講)
 
 
“神社の近く、最初の曲がり角!もう、前にも後ろにも行けないから、ここにおるよ~”
“わかった、最初はそこで大丈夫だよ~ アナウンスきこえる?”
身動き取れない状況は、私も同じだった。別行動の友人とSNSで居場所を確認しあう。
起源より777回目の今年、博多祇園山笠のクライマックスである追い山当日7月15日は日曜だった。山笠特別臨時列車や臨時バスもあり、薄暗い博多の町には大勢の見物客でごった返していた。
 
メイン会場となる櫛田神社周辺は、すこしでも近くで舁き山を見ようと歩道に人が2重3重とあふれて、行き来するのもむずかしい。隣の人と湿り気のある肌は触れ合い、多くの人がスマホを少しでも高く高くと手を伸ばす。外国からの観光客がとても多く、さまざまな言語が飛び交っていた。
臨時バスで午前4時前に到着し、アイスを食べながら呑気に櫛田神社へと向かっていた私は次第に焦りはじめた。待機中の舁き山を横目に、急いで櫛田神社のお参りをすませるが、参道から出たところで動けなくなり後悔することになった。空が次第に明るくなり始めていた。
 
「10秒前!!」  「5秒前!!」
櫛田神社に設けられた放送席から、地元男性アナウンサーの声がおおきく響き渡り、ピリピリした緊張が一気に高まり次いで「ヤーッ!!」という大きな掛け声そして歓声とともに早朝4時59分、一番目の西流の舁き山がスタートした。
 
毎年7月に入ると福岡市の中心部、とくに博多から天神の界隈ではみごとな『飾り山』がお目見えする。電線ができる前までは、高さ10メートルを超える大きな飾り山サイズの山笠が博多の町を走っていたが、山笠が電線を切断するので現在のサイズに変わったそうだ。
西流、千代流、恵比須流、土居流、大黒流、東流、中洲流からなる7つの流(ながれ)は、それぞれ飾り人形の神様を乗せて、高さ約3メートル・重さ約1トンもある舁き山でタイムを競い合う。
 
クライマックスの追い山は、山留め(スタート地点)から大太鼓の合図で櫛田神社の境内へ入って『清堂旗』をまわり博多の町へ飛び出していくまでの『櫛田入りのタイム』と、追い山のコース約5キロ先の廻り止め(ゴール地点)まで舁き手たちが次々と入れ替わり、声掛け合い走りぬくまでの『全コースのタイム』を、うちの流が1番になる! と競い合っているところが楽しみどころの1つなのだ。
「ただいまの東流、櫛田入りタイムは、30秒69!」
 
歓声とざわめきが飛び交う中で私は5分おきに次々と櫛田入りする舁き山を、内心焦りながら見ていた。まずい。このままの場所で身動きとれないままに7つの流れを見ていると、平成最後の山笠をここの場所で見終わってしまうことになりかねない! だがすでに目の前では特別な八番目の山笠である、上川端通の『走る飾り山』が櫛田入りの準備を始めていた。電線の心配がなくなった位置から、電動可動式であるこの走る飾り山笠はどんどんと倍以上に伸びていく。空高く見上げる最終形態の様には、そばにいた外国の観光客も大はしゃぎで、動画には大きな驚きとどよめき、そして歓声を残したに違いない。
 
一番目の西流がスタートしてから30分が経過していた。すでにゴールしたかもしれない。舁き山は全コースを約30分で走り終えるのだ。大きな飾り山笠が通り過ぎたあと、私は何とか向かい側の道へ渡り、急いで廻り止めへと駆け走りだす。近道すれば、まだ舁き山が博多のメインストリートである広い大博通りから細い路地へと入ったあたりに合流できるかもしれない。細い路地は舁き山の迫力をすぐ近くでみることができるので人気のスポットだが、今年はやはり人出が違う。凄い人だかりができている道を避け、さらに先へと走る。
博多祇園山笠の起源は、聖一国師が町民に担がれた施餓鬼棚に乗って水をまきながら疫病退散を祈祷したことが発祥とされる。私は清水(きよいみず)で濡れた道を走りながら、たくさんの人で創り出された山笠の高揚感が巨大なエネルギーとなり、博多の町を駆け巡るのを想像していた。平成最後の夏と同じこれっきり感、切なさそして今一度きりを味わえる追い山とともに駆け巡る博多の町、この時間を体感していた。
 
「歩道にもどって!!ここまで山が来るから!!危ないから!!」
すでに残り2つの舁き山のゴール待ちとなった廻り止めでは、警備員と観客の攻防戦が繰り広げられていた。ちゃっかり歩道の内に入り込み、目の前で最後の中洲流がゴールしたところを見ることができた。一緒に祝いめでたを唄い、手1本を行う。いよいよ博多の町が日常に戻っていく時間が近づいてきた。
「最後の上川端の山がまだ来るから!!歩道に出ないで!もっとさがって!」
いらだつ警備員とまだ見られるのかとざわめく観客の中から、おじさんが大声で答えてくれた。
「もう終わりぞ!あの山はここまで来んぞ!!終わりたい。」
あの走る飾り山笠はさすがにここまでは来ない。途中で煙を出す演出も行いながら全コースの半分で完走となるのだ。人だかりが減っていき祭りの後の寂しさがのこる。また来年も山笠と一緒に町を走ろう。戦前この博多の旧赤間町に住んでいたご先祖様の血が騒ぐのかも知れない。交通規制が解かれて車も走りだしていた。日常を取り戻した博多の空は美しく晴れ渡っていた。
 
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2018-08-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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